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第十章 Aランク昇格編

第197話 もう一つの条件

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 師匠が大慌てで冒険者会議に向かった後、俺は今日のメニューをするために必要な自分の剣を取りに部屋に戻ろうとした。

 その途中で、廊下に一枚の紙が落ちているのを見つけた。俺が食堂に来るときにはなかったはずなので、おそらく師匠が部屋から出てきたときに一緒にここまで来てしまったのだろう。師匠が踏んでしまったのか、端が大きく折れている。

 紙にはたくさんの地名が書かれており、そのうちのいくつかは上から線で消されていた。これはもしかすると国防に関係する重要な書類かもしれない。たしか、師匠は旅を終えてからも書類を書いていたから、この紙はそのときのメモにでも使ったのだろうか。

 急いで出ていったために師匠の部屋は扉が開けっ放しだから、とりあえずテーブルの上あたりに戻しておこう──そう思って、師匠の部屋を覗くと予想もしない光景が広がっていた。

 テーブルには大きな地図が広げられており、俺が拾った紙と同じようなものが地図の上や床に散乱している。いつも整頓をしている綺麗好きな師匠の部屋とは思えない。

 散らかったのは今朝のことだとしても、地図や紙を出しっぱなしで寝るだろうか。時間を忘れてこの地図で何かをしていて、夜遅いことに気付き眠りについた、ということか?

 地図を見ていると、ただの地図ではなくモンスターの分布図だということに気付く。つまりこれは──

「Aランク昇格のための……」

 昨晩、俺は師匠にAランクに上がりたいと言ったがそれは今すぐにではなくて、一人で遠出して、いつものヴィレアとは違うギルドで討伐クエストを受けたいということだったのだ。そうして少しずつ条件を満たしていこうと思っていたのだが、分布図に載っている遠くのギルドにもしるしが付いているということは、一回の遠出でモンスターを大量に討伐しようと師匠は思ってるんじゃ……

 そうだ、師匠はあのとき明日話そうと言った。今朝はそんな余裕はなかったからそのまま冒険者会議に向かったが、もしかすると、このことについて誰かと話しているかもしれない。



「三ヶ月ぅ!?」
「はい、Aランクの昇格条件として全種類のBランク相当モンスターを二体以上、三ヶ月以内に討伐する必要があります」

 今日の修行を終えた後に、師匠が誤解しているかもしれないとヘルガさんに相談したところ、衝撃の事実が発覚した。Bランクのモンスターは二十体以上もいるのに、それを三ヶ月でなど尋常ではない。

 ひと月がだいたい三十日だから、九十日の間にモンスターを四十体以上討伐しなければいけない──移動も考えると二日に一体のペースでギリギリといったところだ。

 一度でも討伐に失敗したり対象のモンスターを見つけられなかったりしたら、かなり厳しくなる。つまりこれに挑むにはルート選びが肝要──師匠はきっとそれをしていたんだ。

 俺はちびちびとモンスターを狩っていくつもりだったが……俺の方が大きな誤解していたようだ。師匠は、俺が近々ハードな三ヶ月を送る予定だと捉えたところだろう。

「知らなかったんですか、コルネくん」
「はい……」

 驚きを隠せないヘルガさん。Bランクに上がったときにそういった説明はなかったと思うのだが、もしかすると俺が聞き逃していただけかもしれない。

 とりあえず師匠が帰ってくるまでは何もできないので、俺はただひたすら待つだけだ。
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