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第十章 Aランク昇格編

第194話 寝坊

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 今日はロンド様が冒険者会議で早くに出かけられるので、それに合わせて私もいつもより早く起き、朝食を作っているのだが──

「…………遅い」

 フライパンの上でベーコンが音を立てるのを見ながら、私は首をひねる。

 早起きのロンド様ならば、もうこの時間には起きているはずだ。まさか今日は冒険者会議ということを忘れているのかとも思ったが、昨晩しっかり確認したのだからそんなことはあるまい。

 寝ている間に襲撃という線も少し考えたが、私の部屋の前を通らずにロンド様のところには辿り着けないので、それはあり得ない。そういえば、寝る前にコルネくんが通っていたが、何を話したんだろうか。

 きっとたまたま寝坊してしまっただけだろう。とりあえずこのベーコンを焼いてしまって、それでも起きてこなかったら起こしに行こう。

 * * *

「うわーーーーーーーーっ! 寝坊した!」

 俺が寝ぼけまなこのまま顔を洗っていると、慌てた様子の師匠の声が遠くから聞こえてくる。

 今まで毎日欠かさず時間通りに起きていた師匠が寝坊なんて珍しい。今日は冒険者会議というのを忘れていたんだろうか。

 いや……もしかして昨日俺がAランクに上がりたいって言ったから? それが原因でなかなか寝付けなかったのかもしれない。師匠の声がいつもと違ったのも、きっとショックだったからだ。

 顔を拭いて急いで食堂へ向かうと、出かける準備を済ませた師匠がヘルガさんの作った朝食をガツガツと食べていた。俺に気付き、口を開かずに「おはよう」とイントネーションで言う師匠に挨拶を返し、俺も師匠の向かいに座って食べ始める。

 寝坊したのは俺のせいかと訊こうと思ったが、迎えが来る前に食べ終わるように急いでいる師匠の邪魔はできない。帰ってから訊けばいいだろう──そう思って邪魔にならないように静かに食べていると、外から車輪の音と馬の嘶きが聞こえてくる。

 それは師匠にも聞こえていたようで、喉に詰まらせるんじゃないかと心配になる勢いでお皿に乗っているものをどんどん口に放り込んでいく。

「お迎えにあがりましたー!」

 やがて馬車は停まり、御者さんが高らかに着いたことを告げる。「すぐ行きまーす」とヘルガさんが外に向かって返し、師匠はモゴモゴと残っていたものを全て口に詰め込む。そして「ンッンンンーン」(おそらく「行ってきまーす」と言っている)と言いながらドタドタと玄関に向かっていく。

 嵐のように過ぎ去った師匠を見送った後、少しの間俺は朝ごはんの途中であることを忘れて突っ立っていた。
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