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第九章 ルミーヴィアへの旅編
第191話 アドレアの道場訪問 其の二
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「はじめまして、私がサラさね。今日は会えるのを楽しみにしてたよ」
初めて見るサラさんはボクの思い描いていたまんまだった。年季を感じさせる顔に刻まれた皺、それとは対称的にしゃっきりと伸びた腰──すべてコルネに聞いていた通りだった。
道場でのボクの目的は二つ。ここで行われている修行の内容を知ることと、魔導書を書いてくれたことについて感謝を伝えることだ。
道場出身者は、途中でアクスウィルなどの学校に転入することはほとんどなく、皆一定の年齢まではずっと道場にいることが多いと聞く。そのため、やはりというか友だちにいくら訊いてもこの学校にそういった人がいるだとか、知っているだとかという情報は得られなかった。
道場出身者の中には国の中枢を担っていたり、王国魔法師団に入っていたりと地位のある人が多くいる。他の大規模な学校に比べると母数は少ないのにも関わらず、だ。つまり、そこで行われている修行はきっととても効果的なものに違いない。
もちろん最初から才能のある人が集められているというのもあるだろうが、ここでの修行をすればボクも少しは腕が上がるんじゃないかといった次第だ。
一人ずつ魔法を見てもらうことになり、ボクも得意な上級魔法「ブレイズ」を放つ。広範囲を燃やす威力の高い炎系統の魔法で、アクスウィルに入ってから学んだものだ。
「ほぉ……発動までのプロセスが滑らかで見ていて気持ちがいいねぇ。もちろん威力も申し分ない。学校以外で誰かに魔法を習っていたのかい?」
「ありがとうございます。入学する前はサラさんの魔導書を読んでいました」
ボクの返答にサラさんは驚いた顔を見せる。
「私が書いた魔導書はかなり難しいはずだけどねぇ──今の魔法を見る限りかなり読み込んでるのは間違いないさね。強いて何か言うとしたら……範囲を限界まで広げたり絞ってみたりしてみるとコントロールの練習になるかもねぇ。ぎゅっと炎を押しとどめるイメージで一回やってみるさね」
やってみます、と短く答え、今度は範囲を絞ってもう一度ブレイズを発動させる。地面の一点を凝視し、そこだけに炎を集める意識をして──
「ブレイズ!」
すると一点とまではいかなかったが、ボクが使っている水筒ほどの狭い範囲から豪炎が上がる。範囲が狭くなっている分、威力が桁違いに高いのが立ち昇る炎から一目瞭然だ。
思ったより上手くできて、ボクは内心でガッツポーズする。隣のサラさんを見ると、何やら考えている様子だった。
「これなら……いや、でもこの子は……だとしても私のところには……」と呟きながらしばらく悩んでいたようだが、覚悟が決まったようにサラさんはボクの方を真っ直ぐに見つめる。
「これなら教えられるさね──アレを。私が死ぬ前に誰かに継いでもらいたかったあの魔法を」
ボクは割り当てられた残りの時間を使って、「ゲヘナ」という魔法の手ほどきをしてもらった。この魔法はサラさんの編み出したもので、非常に強力な魔法だった。
それゆえにもし会得して軍事利用されないように、練習は誰にも見られないようにすること、絶対に他の人に話さないことを約束させられた。
「ゲヘナ」は通常の魔法とは全く違い、自分で魔法を発動させるのではなく「元から燃えている炎を借りてくる」らしい。しかし実際に借りてくるわけではなく、そのようなイメージで魔法を発動させるだけらしく、正直説明を聞いても理解できなかった。
それで見せてもらったような意味の分からない威力がなぜ出るのかはサラさん自身もはっきりとは分かっていないようだったが、「借りてくる」というイメージをすることによって、周りから多くの魔力をかき集めて上乗せしているのではないかと言っていた。
ともかくボクはアクスウィルの寮で暮らしながら、この「ゲヘナ」を習得するために定期的にサラさんのところへ行くことになった。
初めて見るサラさんはボクの思い描いていたまんまだった。年季を感じさせる顔に刻まれた皺、それとは対称的にしゃっきりと伸びた腰──すべてコルネに聞いていた通りだった。
道場でのボクの目的は二つ。ここで行われている修行の内容を知ることと、魔導書を書いてくれたことについて感謝を伝えることだ。
道場出身者は、途中でアクスウィルなどの学校に転入することはほとんどなく、皆一定の年齢まではずっと道場にいることが多いと聞く。そのため、やはりというか友だちにいくら訊いてもこの学校にそういった人がいるだとか、知っているだとかという情報は得られなかった。
道場出身者の中には国の中枢を担っていたり、王国魔法師団に入っていたりと地位のある人が多くいる。他の大規模な学校に比べると母数は少ないのにも関わらず、だ。つまり、そこで行われている修行はきっととても効果的なものに違いない。
もちろん最初から才能のある人が集められているというのもあるだろうが、ここでの修行をすればボクも少しは腕が上がるんじゃないかといった次第だ。
一人ずつ魔法を見てもらうことになり、ボクも得意な上級魔法「ブレイズ」を放つ。広範囲を燃やす威力の高い炎系統の魔法で、アクスウィルに入ってから学んだものだ。
「ほぉ……発動までのプロセスが滑らかで見ていて気持ちがいいねぇ。もちろん威力も申し分ない。学校以外で誰かに魔法を習っていたのかい?」
「ありがとうございます。入学する前はサラさんの魔導書を読んでいました」
ボクの返答にサラさんは驚いた顔を見せる。
「私が書いた魔導書はかなり難しいはずだけどねぇ──今の魔法を見る限りかなり読み込んでるのは間違いないさね。強いて何か言うとしたら……範囲を限界まで広げたり絞ってみたりしてみるとコントロールの練習になるかもねぇ。ぎゅっと炎を押しとどめるイメージで一回やってみるさね」
やってみます、と短く答え、今度は範囲を絞ってもう一度ブレイズを発動させる。地面の一点を凝視し、そこだけに炎を集める意識をして──
「ブレイズ!」
すると一点とまではいかなかったが、ボクが使っている水筒ほどの狭い範囲から豪炎が上がる。範囲が狭くなっている分、威力が桁違いに高いのが立ち昇る炎から一目瞭然だ。
思ったより上手くできて、ボクは内心でガッツポーズする。隣のサラさんを見ると、何やら考えている様子だった。
「これなら……いや、でもこの子は……だとしても私のところには……」と呟きながらしばらく悩んでいたようだが、覚悟が決まったようにサラさんはボクの方を真っ直ぐに見つめる。
「これなら教えられるさね──アレを。私が死ぬ前に誰かに継いでもらいたかったあの魔法を」
ボクは割り当てられた残りの時間を使って、「ゲヘナ」という魔法の手ほどきをしてもらった。この魔法はサラさんの編み出したもので、非常に強力な魔法だった。
それゆえにもし会得して軍事利用されないように、練習は誰にも見られないようにすること、絶対に他の人に話さないことを約束させられた。
「ゲヘナ」は通常の魔法とは全く違い、自分で魔法を発動させるのではなく「元から燃えている炎を借りてくる」らしい。しかし実際に借りてくるわけではなく、そのようなイメージで魔法を発動させるだけらしく、正直説明を聞いても理解できなかった。
それで見せてもらったような意味の分からない威力がなぜ出るのかはサラさん自身もはっきりとは分かっていないようだったが、「借りてくる」というイメージをすることによって、周りから多くの魔力をかき集めて上乗せしているのではないかと言っていた。
ともかくボクはアクスウィルの寮で暮らしながら、この「ゲヘナ」を習得するために定期的にサラさんのところへ行くことになった。
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