上 下
167 / 328
第八章 新しいメニューと緊急クエスト編

第161話 オーガ討伐を終えて 其の二

しおりを挟む
 オーガ討伐の報告から時間が経ってないのだから準備する時間があるはずもない。薄々分かってはいたが、ご馳走なんてものがすぐに出てくるはずがなかった。

 村長に連れてこられた建物では、村の人たちが食材を持ち寄ってきて今から作ろうというところだった。

 冒険者たちが落胆している素振りを見せまいと、無理やり盛り上がっているそばで、「呼んでくるのは後でって言ったじゃないですか」と村長が村人たちに詰め寄られている。

 持ち寄られた食材は、数十人という冒険者が飲み食いするには到底足りない量だった。ヴィレアという村はそんなに豊かとは聞かないし、この食材だって今日だったり明日だったり自分たちが食べる予定だったものなのだろう。

 見かねた一人の冒険者が「俺、ギルドから肉買ってくる!」と言って飛び出していく。俺も俺もと他の冒険者も続き、もちろん僕も一緒にギルドに向かう。



 冒険者ギルドの業務は、基本的には「素材がほしい」や「この日だけ店を手伝ってほしい」といった外部からの依頼をクエストという形で冒険者に委託することだ。

 それに加えて繁殖力の強いモンスターを一定数狩ることで、モンスターが増えすぎるのを防ぐという役割も担っている。

 素材の必要ない討伐クエストがこれにあたり、こういったクエストは外部からの依頼ではなく冒険者ギルドからのクエストとして出ているというわけだ。

 他にも討伐クエストに付随するものとして、素材の買い取りを行っている。買い取った素材は依頼者に売るのだが、肉を捌いたり毛皮を剥いだりする設備は当然としてそれまで保管しておく設備も必要になる。

 そのためギルドには常に低温に保たれている倉庫があり、モンスターの肉や素材がまとめて保管されているのだ。

 倉庫に保管されているものは基本的に全て依頼者に渡すものなのだが、例外も存在する。モンスターが襲ってきたので倒した、などの理由でクエストに上がっていないモンスターを倒した場合の素材だ。

 そういったものは、冒険者ギルドから依頼者にいらないかと持ち掛けて売っているらしいと聞いたことがある。

 だから買い手がまだついていないそういった肉を買ってくるということなのだろう。

「昨日、買い取ってもらったウルフの肉はまだあるかい? あったら買い戻したいんだけども」

 ギルドで一番に駆けてきた冒険者が素材担当の職員に訊く。なるほど、あてがあったのか。

「ありますよ。ただ解体料も加わるので、買い取った値段よりは少し高くなりますが、それでもいいですか?」
「ああ、今必要なんだ」
「今──ああ、分かりました。持ってくるので待っててください」

 今と聞いてピンときた様子のギルド職員の男はそう告げて奥へと消えていき、しばらくすると大きな肉塊を持って再び現れる。

「これと同じ大きさのものがもう六つほどありますので、落とさないように一人一つずつ運んでください」

 次々と運ばれてくる肉塊を手渡された冒険者たちはそのままギルドを出ていった。残された僕たちは、十分すぎる量の肉が運ばれていくのを見て、手ぶらで戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

騎士さま、むっつりユニコーンに襲われる

雲丹はち
BL
ユニコーンの角を採取しにいったらゴブリンに襲われかけ、むっつりすけべなユニコーンに処女を奪われてしまう騎士団長のお話。

婚約破棄された公爵令嬢は、真実の愛を証明したい

香月文香
恋愛
「リリィ、僕は真実の愛を見つけたんだ!」 王太子エリックの婚約者であるリリアーナ・ミュラーは、舞踏会で婚約破棄される。エリックは男爵令嬢を愛してしまい、彼女以外考えられないというのだ。 リリアーナの脳裏をよぎったのは、十年前、借金のかたに商人に嫁いだ姉の言葉。 『リリィ、私は真実の愛を見つけたわ。どんなことがあったって大丈夫よ』 そう笑って消えた姉は、五年前、首なし死体となって娼館で見つかった。 真実の愛に浮かれる王太子と男爵令嬢を前に、リリアーナは決意する。 ——私はこの二人を利用する。 ありとあらゆる苦難を与え、そして、二人が愛によって結ばれるハッピーエンドを見届けてやる。 ——それこそが真実の愛の証明になるから。 これは、婚約破棄された公爵令嬢が真実の愛を見つけるお話。 ※6/15 20:37に一部改稿しました。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

処理中です...