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第八章 新しいメニューと緊急クエスト編
第159話 オーガとの戦い 其の二
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俺たちでは挑戦することすら許されないAランク相当のモンスターを、あっという間に倒してしまう──これがSランク冒険者──国から認められた規格外。今まで見た冒険者とは格が違う。
赤子の手をひねるようにオーガの首を落としていたが、どれだけの力を加えればあの太い首がたった一太刀で落ちるのだろう。どれだけの経験を積めば、あの死を感じさせる腕の攻撃を冷静に躱せるのだろう。
頼もしいと思う反面、その化け物じみた強さには一種の畏ろしさを感じる。
「おーい、終わったよー」
倒れたオーガの横で、ロンド様が緊張感のない笑みを浮かべてこちらに大きく手を振る。それを見てハッと我に返り、ロンド様のもとへと駆け出す。
そうだ、倒してそれで終わりじゃない。討伐部位を切り落とすのを手伝わなくては──せめてそのくらいは役に立たないと。
「オーガの討伐部位は……えっと──たぶん耳? かな」
確証が持てない様子で思い出すようにロンド様が言う。そこはしっかりしてほしい。討伐部位を間違えれば、最悪モンスターを倒したと嘯いていると判断されることもある。
俺はオーガの討伐クエストの貼り紙など見たこともないから、ここはロンド様だけが頼りだ。
「……耳、なんですね?」
「記憶が正しければ、そう」
目を逸らしながら答えるロンド様に不安は残ったままだが、おそらく耳で正解だろう。討伐部位は、通常持って帰りやすい部分になるからな。
腰に下げた袋から小振りのナイフを取り出し、オーガの耳にギコギコと刃を入れる。反対側はロンド様が切り取っている。
「明日、お前はあのロンド様とオーガの耳を切り取る」なんて、昨日の俺に言っても信じないだろうな──と改めてこの状況の特異さを認識していると、首の向こう側から声がする。
「もうちょっと付き合ってもらっていいかな」
切り取った二枚の耳をロンド様の袋にしまって、俺たちは倒したオーガがやってきた方向に歩いていく。
この先にオーガの巣があるかもしれない、とロンド様は言っていた。手ぶらだったことから、俺たちが出会ったのは狩りに行く途中だったのだと推測したらしい。
何も狩れずに手ぶらで戻る途中だったという可能性もあるが、それはそのとき考えればいい話だ。
見失うはずもないオーガの大きな足跡を追っていくと、大きな洞穴に辿り着く。これはビンゴだろう。
静かに洞穴に入っていくと、奥には小さな──とはいっても俺たちと同じくらいの身長はある──オーガがいた。
きっと、俺たちが倒したオーガはこの子の親で、餌を取りに行っていたのだろう。オーガは見知らぬ人間がいきなり洞穴に入ってきて怯えている。
姿かたちが人間に似ていることも相まって、恐怖に表情を歪める幼いオーガはとても不憫に映る。背丈は同じほどでも浮かべる表情はまだ幼く、人間の少年のようだ。でも──
「ごめんね、見逃すわけにはいかないんだ」
前を歩いていたロンド様が静かに呟きながら素早く剣で首を落とすと、勢いよく血が噴き出し、洞穴の壁を汚す。
でも、ヴィレア村の人たちが──俺たち人間が安全に生きていくにはこうするべきなのだ。
成長すれば必ず村の脅威になることが分かっている以上、見逃すことはできない。芽は摘めるうちに摘むべきなのだ。
何とも言えないやるせなさに襲われながら、座り込んで柔らかい耳を削ぐ。
赤子の手をひねるようにオーガの首を落としていたが、どれだけの力を加えればあの太い首がたった一太刀で落ちるのだろう。どれだけの経験を積めば、あの死を感じさせる腕の攻撃を冷静に躱せるのだろう。
頼もしいと思う反面、その化け物じみた強さには一種の畏ろしさを感じる。
「おーい、終わったよー」
倒れたオーガの横で、ロンド様が緊張感のない笑みを浮かべてこちらに大きく手を振る。それを見てハッと我に返り、ロンド様のもとへと駆け出す。
そうだ、倒してそれで終わりじゃない。討伐部位を切り落とすのを手伝わなくては──せめてそのくらいは役に立たないと。
「オーガの討伐部位は……えっと──たぶん耳? かな」
確証が持てない様子で思い出すようにロンド様が言う。そこはしっかりしてほしい。討伐部位を間違えれば、最悪モンスターを倒したと嘯いていると判断されることもある。
俺はオーガの討伐クエストの貼り紙など見たこともないから、ここはロンド様だけが頼りだ。
「……耳、なんですね?」
「記憶が正しければ、そう」
目を逸らしながら答えるロンド様に不安は残ったままだが、おそらく耳で正解だろう。討伐部位は、通常持って帰りやすい部分になるからな。
腰に下げた袋から小振りのナイフを取り出し、オーガの耳にギコギコと刃を入れる。反対側はロンド様が切り取っている。
「明日、お前はあのロンド様とオーガの耳を切り取る」なんて、昨日の俺に言っても信じないだろうな──と改めてこの状況の特異さを認識していると、首の向こう側から声がする。
「もうちょっと付き合ってもらっていいかな」
切り取った二枚の耳をロンド様の袋にしまって、俺たちは倒したオーガがやってきた方向に歩いていく。
この先にオーガの巣があるかもしれない、とロンド様は言っていた。手ぶらだったことから、俺たちが出会ったのは狩りに行く途中だったのだと推測したらしい。
何も狩れずに手ぶらで戻る途中だったという可能性もあるが、それはそのとき考えればいい話だ。
見失うはずもないオーガの大きな足跡を追っていくと、大きな洞穴に辿り着く。これはビンゴだろう。
静かに洞穴に入っていくと、奥には小さな──とはいっても俺たちと同じくらいの身長はある──オーガがいた。
きっと、俺たちが倒したオーガはこの子の親で、餌を取りに行っていたのだろう。オーガは見知らぬ人間がいきなり洞穴に入ってきて怯えている。
姿かたちが人間に似ていることも相まって、恐怖に表情を歪める幼いオーガはとても不憫に映る。背丈は同じほどでも浮かべる表情はまだ幼く、人間の少年のようだ。でも──
「ごめんね、見逃すわけにはいかないんだ」
前を歩いていたロンド様が静かに呟きながら素早く剣で首を落とすと、勢いよく血が噴き出し、洞穴の壁を汚す。
でも、ヴィレア村の人たちが──俺たち人間が安全に生きていくにはこうするべきなのだ。
成長すれば必ず村の脅威になることが分かっている以上、見逃すことはできない。芽は摘めるうちに摘むべきなのだ。
何とも言えないやるせなさに襲われながら、座り込んで柔らかい耳を削ぐ。
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