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第八章 新しいメニューと緊急クエスト編

第150話 久しぶりの討伐クエスト 其の三

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 報酬を数えながら落ち込んでいたところに、声をかけられる。クエストに行く前に声をかけてくれた人だ。

「さっきまでラムハの収穫祭の話で盛り上がっててよぉ、すごく綺麗だったって言うから気になって……頼む、ちょっとでいいからさ」

 ほとんどの魔法剣は特に切り札として見せないようにしているわけでもないので、見せるのは構わない。切り札と言えるのは、目くらましの魔法「ブライト」と毒の魔法剣だけで、この二つは他人に見せないようにしている。

 ステージのようではなく、ただ見せるだけになってしまうがいいか、と訊くとそれでいいということなので、ただギルドの裏で六種の魔法剣を見せると思いのほか喜んでくれた。

 毛皮をざっくりやった悔しさが上書きされて、俺はハッピーな気持ちでラムハへ戻った。

 * * *

 コルネを見送った後、そわそわと食堂の端から端を行ったり来たりするロンドを見かねて、食器を片付けていたヘルガは呆れた様子で声を掛ける。

「またですか……今度は初めてじゃないでしょうに」
「でも、久しぶりでまた初めてのときみたいにうっかりとどめを刺し忘れたら──」
「……コルネくん、そういうところちょっとありますからね」

 それから少し考える素振りをして、ため息をつくヘルガ。

「……はぁ、今日だけですよ」
「ありがとう、ヘルガ。じゃあ行ってくるよ、急いで追いかけなくちゃ」

 ヘルガの言葉を聞くなり、笑顔で走って食堂を出ていくロンドを見て、ヘルガは再びため息をついた。

 * * *

 コルネくんが出てから時間が経っているから、急いで追いかけたが、ギルドに着くまでにその影を見ることはなかった。

 どうやらコルネくんの走るペースはずいぶんと上がっているらしい、ということが分かり、師匠としては嬉しい限りだ。

 ギルドの扉に耳を近づけると、中からたくさんの喋り声が聞こえてくる。収穫祭のステージを見た、という話が聞こえるということはコルネくんはまだギルドにいるみたいだ。

 うんうん、こういうところで話すとステージを見ていない人にも魔法剣のことが伝わるよね。もっと話して魔法剣を広めてほしい。

 おっと──扉に近づいてくる足音がある。ギルドの裏に回ってやり過ごそう。

 裏からそっと覗き見ると、出てきたのはコルネくんだった。これは追いかけなければ──もう少し進んだら行こう。

 あともう五歩くらいかな──あと三、二──

「あんた、何してんだ?」

 ギルドの中にいた冒険者の一人が扉から俺の方に向かってくる。

 小さくなっていくコルネくんの一挙手一投足に集中していた僕は、突然開いたギルドの扉に反応が遅れた。

 普段なら開く前に察知して隠れるはずが、気付いたときにはもう僅かに開いていた。すぐに扉の中のこちらを向いている顔も認識したため、今から隠れるのでは隠れる姿が見えてしまう。

 誰かが隠れる姿を見たとなれば、辺り一帯を捜索、発見されれば曲者として捕まるだろう。だから、ここは扉が開き始めてからは動けなかった。

 この状況をどうする? ここで「ギルドに入りづらくて……」などと言おうものなら、ギルドに入れられて、こんなところにラムハにいるはずのSランク冒険者がいると大騒ぎになってしまう。

 ステージでコルネくんを見たという人がギルドにいるのだから、その距離なら僕の顔もしっかりと見られているはず──よって、バレるのは確実。

 対して、僕に声を掛けてきたこの人は、僕のことが分からないようだ。幸い、彼の後に誰かが扉から出てくる様子はない。

 ならば、ここで適当な会話をして素早くこの場を去ってしまうのが最適解。

ギルドに案内されてしまうか、僕のことを知っている冒険者がギルドから出てきたら僕の敗北。その前にここから離れられれば、僕の勝利。

 この勝負──絶対に勝たなければならない。そのためには実際にギルドの真ん前にいるのに、ギルドに用はないという状況を作り出さなければ。なら、今ここで話すべき内容は──

「通りがかったら、収穫祭の話が聞こえてよぉ。ぼ──俺も見たもんでな、ステージでの魔法剣。ついつい懐かしくなってしまってな」
「お、おお──お前も見たのか。やっぱり綺麗だったか?」

 つかみは上々。若干まだ怪しいと思っているようだが、すぐにギルドに突き出すということはなさそうだ。

「すごく綺麗でな、中でも夕闇に浮かぶ炎の魔法剣は最高だった。あれほど綺麗なものは、なかなかお目にかかれんだろうな。炎だけじゃなくてもちろん他のもよかったぞ、例えば──」
「も、もういい、とにかく綺麗だったんだな。よく分かった。じゃ、俺はこれで」

 そう残して、頷きながら後ずさりをしてギルドの中に消えていく冒険者。

 勝った────心の中でそう呟く。

 早く会話を終えるために、早口ぎみにまくし立てて相手から会話を切ろうとするように誘導する作戦が功を奏したようだ。

 はっ、こうしている場合ではない。早くコルネくんを追いかけないと。
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