上 下
156 / 328
第八章 新しいメニューと緊急クエスト編

第150話 久しぶりの討伐クエスト 其の三

しおりを挟む
 報酬を数えながら落ち込んでいたところに、声をかけられる。クエストに行く前に声をかけてくれた人だ。

「さっきまでラムハの収穫祭の話で盛り上がっててよぉ、すごく綺麗だったって言うから気になって……頼む、ちょっとでいいからさ」

 ほとんどの魔法剣は特に切り札として見せないようにしているわけでもないので、見せるのは構わない。切り札と言えるのは、目くらましの魔法「ブライト」と毒の魔法剣だけで、この二つは他人に見せないようにしている。

 ステージのようではなく、ただ見せるだけになってしまうがいいか、と訊くとそれでいいということなので、ただギルドの裏で六種の魔法剣を見せると思いのほか喜んでくれた。

 毛皮をざっくりやった悔しさが上書きされて、俺はハッピーな気持ちでラムハへ戻った。

 * * *

 コルネを見送った後、そわそわと食堂の端から端を行ったり来たりするロンドを見かねて、食器を片付けていたヘルガは呆れた様子で声を掛ける。

「またですか……今度は初めてじゃないでしょうに」
「でも、久しぶりでまた初めてのときみたいにうっかりとどめを刺し忘れたら──」
「……コルネくん、そういうところちょっとありますからね」

 それから少し考える素振りをして、ため息をつくヘルガ。

「……はぁ、今日だけですよ」
「ありがとう、ヘルガ。じゃあ行ってくるよ、急いで追いかけなくちゃ」

 ヘルガの言葉を聞くなり、笑顔で走って食堂を出ていくロンドを見て、ヘルガは再びため息をついた。

 * * *

 コルネくんが出てから時間が経っているから、急いで追いかけたが、ギルドに着くまでにその影を見ることはなかった。

 どうやらコルネくんの走るペースはずいぶんと上がっているらしい、ということが分かり、師匠としては嬉しい限りだ。

 ギルドの扉に耳を近づけると、中からたくさんの喋り声が聞こえてくる。収穫祭のステージを見た、という話が聞こえるということはコルネくんはまだギルドにいるみたいだ。

 うんうん、こういうところで話すとステージを見ていない人にも魔法剣のことが伝わるよね。もっと話して魔法剣を広めてほしい。

 おっと──扉に近づいてくる足音がある。ギルドの裏に回ってやり過ごそう。

 裏からそっと覗き見ると、出てきたのはコルネくんだった。これは追いかけなければ──もう少し進んだら行こう。

 あともう五歩くらいかな──あと三、二──

「あんた、何してんだ?」

 ギルドの中にいた冒険者の一人が扉から俺の方に向かってくる。

 小さくなっていくコルネくんの一挙手一投足に集中していた僕は、突然開いたギルドの扉に反応が遅れた。

 普段なら開く前に察知して隠れるはずが、気付いたときにはもう僅かに開いていた。すぐに扉の中のこちらを向いている顔も認識したため、今から隠れるのでは隠れる姿が見えてしまう。

 誰かが隠れる姿を見たとなれば、辺り一帯を捜索、発見されれば曲者として捕まるだろう。だから、ここは扉が開き始めてからは動けなかった。

 この状況をどうする? ここで「ギルドに入りづらくて……」などと言おうものなら、ギルドに入れられて、こんなところにラムハにいるはずのSランク冒険者がいると大騒ぎになってしまう。

 ステージでコルネくんを見たという人がギルドにいるのだから、その距離なら僕の顔もしっかりと見られているはず──よって、バレるのは確実。

 対して、僕に声を掛けてきたこの人は、僕のことが分からないようだ。幸い、彼の後に誰かが扉から出てくる様子はない。

 ならば、ここで適当な会話をして素早くこの場を去ってしまうのが最適解。

ギルドに案内されてしまうか、僕のことを知っている冒険者がギルドから出てきたら僕の敗北。その前にここから離れられれば、僕の勝利。

 この勝負──絶対に勝たなければならない。そのためには実際にギルドの真ん前にいるのに、ギルドに用はないという状況を作り出さなければ。なら、今ここで話すべき内容は──

「通りがかったら、収穫祭の話が聞こえてよぉ。ぼ──俺も見たもんでな、ステージでの魔法剣。ついつい懐かしくなってしまってな」
「お、おお──お前も見たのか。やっぱり綺麗だったか?」

 つかみは上々。若干まだ怪しいと思っているようだが、すぐにギルドに突き出すということはなさそうだ。

「すごく綺麗でな、中でも夕闇に浮かぶ炎の魔法剣は最高だった。あれほど綺麗なものは、なかなかお目にかかれんだろうな。炎だけじゃなくてもちろん他のもよかったぞ、例えば──」
「も、もういい、とにかく綺麗だったんだな。よく分かった。じゃ、俺はこれで」

 そう残して、頷きながら後ずさりをしてギルドの中に消えていく冒険者。

 勝った────心の中でそう呟く。

 早く会話を終えるために、早口ぎみにまくし立てて相手から会話を切ろうとするように誘導する作戦が功を奏したようだ。

 はっ、こうしている場合ではない。早くコルネくんを追いかけないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

処理中です...