上 下
81 / 328
第五章 アクスウィル魔法学校編

第77話 アクスウィル魔法学校 其の四

しおりを挟む
 次の日、俺と師匠は登校する生徒たちに混ざって、魔法学校に向かっていた。

 昨日街で見た生徒の何倍もの数が歩く様子は、押し寄せる波のようだ。肩と肩が触れ合うほどではないが、逆向きに歩くのは至難の業だろう。

 俺たちもその波に逆らうことなく歩いているのだが、周りの生徒がちらちら見てくるのが分かる。

 師匠は去年も来たと言っていたから、新入生以外は師匠の顔を知っていてもおかしくはない。見られているのは俺ではないようだし、俺は別に構わないのだが、師匠は繊細なところがあるからどうだろうか。

 そう思い、隣の師匠を見上げるとわずかに涙ぐんでいた。即座に、生徒に見られていたのはこれが原因だ──そう確信する。

 そんなに生徒の視線が堪えたのだろうか。周りに聞こえないように声を潜めて、師匠に話しかける。

「師匠、大丈夫ですか……?」
「えっ……うん。ちょっと感極まっちゃって──コルネくんを弟子として大っぴらに自慢してるみたいで。今までそういう機会がなかったから」

 涙を拭いながら、安心させるような口調で師匠が答える。

 たしかにドラゴンのときは、弟子として式典に出たわけではなかったし、王宮に呼び出されたときはとても自慢という雰囲気ではなかった。

 しかし、二人で歩いているだけで、「自慢しているみたい」というのは、さすがに拡大解釈が過ぎるような……師匠が嬉しいのならそれでいいか。



 師匠と別れ、昨日もらった地図を見ながら廊下を歩く。主要な建物だけでも何枚かの地図にびっしりと書き込まれており、師匠には無理だなと改めて思った。

 昨日のうちに時間割をチェックして、参加する授業を決めてある。まずは一限目の魔法理論の授業だ──この先の教室であるらしい。

 教室の前まで来ると、中から談笑が聞こえてくる。まだ授業までは時間があるから、友達同士で話しているのだろう。その割に会話の端々に難解な単語が聞こえるような……

 教室の戸を開けるのは緊張したが、意を決して扉に手をかける。

 ガラッと戸を開けた音に教室にいた全員がこちらを振り返り、ひそひそと話し始める。ものすごく居心地が悪い。

 どうすればいいか分からず固まっていると、一人の男子生徒が教室の後ろに置いてある椅子を持ってきてくれた。

「おはようございます、あなたがコルネさん……ですか? ゆっくりしていってください」

 そう言ってニコッと笑う少年。少年といっても歳は俺より上のはずだ。よかった……優しそうな人もいるみたいだ。これなら安心──

「ところでなんですけど、ロンドさんのお弟子さんということは魔法剣士なんですよね? 剣に魔法を纏わせるというのはどういう原理なんでしょう? それとギルバートの魔力の変換理論についての意見を聞かせてほしいのですが。数少ない魔法剣士の貴重な意見を是非──あ、それとひと月前に発表されたギルバートの理論の──」

 全然安心できなかった。そんなに早口でまくし立てられても分からないし、そもそもギルバートの変換理論など聞いたこともない。ギルバートとはその分野では有名な人物なのだろうか。

 これはやばい教室に入ってしまったな……愛想笑いを浮かべながらそんなことを考えていると、少年の肩を別の生徒が軽く叩く。

「ダメだろう、コルネさんが緊張しているじゃないか。いきなり高度な内容を話し始めるなといつも言っているだろう」

 どうやらこの少年の友人らしい。そうそう、さすがに出会ってすぐにする内容の話じゃないよね。それに理論については全く分からないし……そう、もっと当たり障りのない話を──

「では、まず魔法の同時発動の阻害原理についてお話ししましょう。一般的に魔法を同時に二つ発動させるのは不可能だと言われていますが、Sランク冒険者の方となるともしかしてできるのでしょうか。それと阻害される原因についてはどの説を支持して──」

 理論の内容ではなくて、もうちょっとライトな内容を話してほしかったなぁ。理論が全く分からないまま、ここに飛び込んできた俺も俺だけど。

 質問に答えられないままどうしようかと固まっていると、チャイムが鳴り、二人は自分の席に戻っていく。助かった……とりあえず授業の内容を聞いて、ある程度の質問には答えられるようにしておこう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...