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第二章 ダンジョン編
第31話 ダンジョン探索 其の十
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やはりこれしかないな。うつ伏せになっている師匠の腹の下に手をさしこむ。
「ひゃっ、コルネくん!?」
くすぐったかったのか師匠の躰がビクンと跳ねるが、今は気にしている場合ではない。
「ふんっ!」
両の腕に力を籠めて一気に持ち上げる。よかった、不安だったが第一関門は突破だ。
俺も伊達に冒険者を何年もやっていたわけではない。ある程度の筋肉はある──冒険者としてやっていたのは掃除や雑用がほとんどだったが。
それでも筋トレは欠かさずやっていたし、こっちに来てから修行漬けの毎日でかなり鍛えられた。
しかし師匠は痩せ型だとはいえ、身長は俺より高い。当然俺よりも体重はあるだろう。それに加えて魔力結晶がぱんぱんに詰まった袋。
少なく見積もっても自重の二倍はある。これを持ち上げるほどの筋肉はない。
だから、魔力を使った。師匠が俺の脚の魔力を引っ張ったように。
師匠のように他人の魔力を操るのは神のような技だが、自分の魔力を操ることは上手下手こそあれど誰でも出来るのだ。
「ちょっと、何を──」
持ち上げた師匠を頭上で移動させ、右脇まで持ってきて抱える。そして、その手から袋を奪い左脇に抱える。
後は階段まで走るだけだ。動け! 俺の脚!
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
必死に動かそうとするが、脚がピクリとも動かない。負荷がかかっていて浮かせることができないのだ。
モンスターの鳴き声がどんどん近づいてくるのが分かる。もう時間がない。
ここで動かさなくていつ脚を動かすんだ、脚は動かすために付いているんだろう。自分を鼓舞する。
すると突然、右脇がフッと軽くなった。重さを感じないわけではないが、左の結晶が入った袋と同じくらいの重さだろうか。
固まっていた脚が進みだす。これならいける!
初動に任せてスピードを落とさずに階段へ向かい、上る。あと何段かなんて数える余裕もなく、ただがむしゃらに縺れないように脚を動かす。
「はぁ、はぁ……」
地上に出たところで膝をつき師匠と袋を下ろす。体の力が抜けてしまって、勢いよく下ろしてしまった。
袋の中で結晶がぶつかり合うカランカランという音と師匠が地面にぶつかるドサッという音、そして師匠の口から漏れ出るウッという小さい音。
「あ……」
すっかり気が抜けてやってしまった。ただでさえ疲労困憊だった師匠にとどめをさしてしまったか。
「だ、大丈夫ですか?」
おそるおそる師匠の顔を覗きこむとなんとか笑顔を作っているようだった。
「ウン、ダイジョウブダヨ……」
全然大丈夫ではなかった。とても申し訳なく感じて少し気まずい。
冷静になってきて、あのとき師匠が軽く感じたのは魔力操作で自分の体を上に引っ張っていたからだと気付いた。あれがなかったらきっと動けないままだった。師匠には感謝してもしきれないな……
ふと見回すとあたりがかなり暗いことに気が付いた。陽はほとんど沈んでしまっていて、じきに夜がやってくる。
暗いと足元が見えづらくなって魔法を使わないといけなくなる。二人とも疲れているしその前に帰りたいところだ。
でも師匠は歩けそうにないし、俺も師匠を背負って道場まで歩くことはできないだろう。
どうしたものかと考えていると不意に聞きなれた声がした。
「こういうこともあろうかと迎えにきて正解でした」
さっきまで何もなかったはずの薄闇からヘルガさんが出てくる。真っ暗ではないから誰かいたらさすがに分かるはずなのに。気配もなかったし人影もなかった。
「ロンド様は私が運びます。コルネくんはこちらの袋を」
俺が袋を受け取るとヘルガさんが軽々と師匠を背負う。華奢なヘルガさんより師匠の方が絶対に重いはずだ。
それなのにあんなに軽々と持ち上げるなんて……ヘルガさんは一体何者なんだ。
「ひゃっ、コルネくん!?」
くすぐったかったのか師匠の躰がビクンと跳ねるが、今は気にしている場合ではない。
「ふんっ!」
両の腕に力を籠めて一気に持ち上げる。よかった、不安だったが第一関門は突破だ。
俺も伊達に冒険者を何年もやっていたわけではない。ある程度の筋肉はある──冒険者としてやっていたのは掃除や雑用がほとんどだったが。
それでも筋トレは欠かさずやっていたし、こっちに来てから修行漬けの毎日でかなり鍛えられた。
しかし師匠は痩せ型だとはいえ、身長は俺より高い。当然俺よりも体重はあるだろう。それに加えて魔力結晶がぱんぱんに詰まった袋。
少なく見積もっても自重の二倍はある。これを持ち上げるほどの筋肉はない。
だから、魔力を使った。師匠が俺の脚の魔力を引っ張ったように。
師匠のように他人の魔力を操るのは神のような技だが、自分の魔力を操ることは上手下手こそあれど誰でも出来るのだ。
「ちょっと、何を──」
持ち上げた師匠を頭上で移動させ、右脇まで持ってきて抱える。そして、その手から袋を奪い左脇に抱える。
後は階段まで走るだけだ。動け! 俺の脚!
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
必死に動かそうとするが、脚がピクリとも動かない。負荷がかかっていて浮かせることができないのだ。
モンスターの鳴き声がどんどん近づいてくるのが分かる。もう時間がない。
ここで動かさなくていつ脚を動かすんだ、脚は動かすために付いているんだろう。自分を鼓舞する。
すると突然、右脇がフッと軽くなった。重さを感じないわけではないが、左の結晶が入った袋と同じくらいの重さだろうか。
固まっていた脚が進みだす。これならいける!
初動に任せてスピードを落とさずに階段へ向かい、上る。あと何段かなんて数える余裕もなく、ただがむしゃらに縺れないように脚を動かす。
「はぁ、はぁ……」
地上に出たところで膝をつき師匠と袋を下ろす。体の力が抜けてしまって、勢いよく下ろしてしまった。
袋の中で結晶がぶつかり合うカランカランという音と師匠が地面にぶつかるドサッという音、そして師匠の口から漏れ出るウッという小さい音。
「あ……」
すっかり気が抜けてやってしまった。ただでさえ疲労困憊だった師匠にとどめをさしてしまったか。
「だ、大丈夫ですか?」
おそるおそる師匠の顔を覗きこむとなんとか笑顔を作っているようだった。
「ウン、ダイジョウブダヨ……」
全然大丈夫ではなかった。とても申し訳なく感じて少し気まずい。
冷静になってきて、あのとき師匠が軽く感じたのは魔力操作で自分の体を上に引っ張っていたからだと気付いた。あれがなかったらきっと動けないままだった。師匠には感謝してもしきれないな……
ふと見回すとあたりがかなり暗いことに気が付いた。陽はほとんど沈んでしまっていて、じきに夜がやってくる。
暗いと足元が見えづらくなって魔法を使わないといけなくなる。二人とも疲れているしその前に帰りたいところだ。
でも師匠は歩けそうにないし、俺も師匠を背負って道場まで歩くことはできないだろう。
どうしたものかと考えていると不意に聞きなれた声がした。
「こういうこともあろうかと迎えにきて正解でした」
さっきまで何もなかったはずの薄闇からヘルガさんが出てくる。真っ暗ではないから誰かいたらさすがに分かるはずなのに。気配もなかったし人影もなかった。
「ロンド様は私が運びます。コルネくんはこちらの袋を」
俺が袋を受け取るとヘルガさんが軽々と師匠を背負う。華奢なヘルガさんより師匠の方が絶対に重いはずだ。
それなのにあんなに軽々と持ち上げるなんて……ヘルガさんは一体何者なんだ。
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