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第二章 ダンジョン編
第29話 ダンジョン探索 其の八
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「最初は僕の風の魔法で……と思ったんだけどね? さすがに大きすぎてこれを浮かべるのは無理かな……って」
なるほど、確かに風の魔法を使えば軽いものなら浮かせることが出来る。軽いものならだが。その口ぶりからすると、もし魔力結晶が平均サイズくらいならそれが出来るというのだろうか……やはりすごいな。
師匠は魔法剣を使っているが、決して魔法が不得意というわけではない。むしろ普通に魔法使いとしてもかなり腕が立つ方だと思う。さすがにサラさんほどではないけれど、俺がミャクー村で見たどの魔法使いよりも魔法に秀でていると思う。
「魔法で無理だったら二人で抱えて運ぶしかないけど……あまりしたくはないじゃん?」
確かにこんな重さのものを抱えて一日かけて下りてきた十階層を上がるなんて、ダンジョンを出る頃には明日の夕方だ。それも寝ずにペースを落とさず運ぶと仮定した場合だけど。
かと言って一度地上に出て応援を呼んでくるわけにもいかない。魔力結晶をダンジョンの壁から出した今、核のような役割をしていた結晶を失ったためにダンジョンの崩壊が少しずつ始まっている。一度出て戻ってくる頃には、この魔力結晶は地中深くに埋まってしまっているだろう。
こんなことなら魔力結晶を掘り出す前に応援を呼べばよかったんじゃ──いや、もう掘り出してしまったのだからこんなことを考えても意味はない。
何か、何か策はないか……氷の魔法を床に使って魔力結晶を滑らせるか? ここの入り組んだ通路では壁にあちこちぶつけてしまって遅くなる。それに壁がかなり硬いため、もしかすると魔力結晶が割れてしまうかもしれない。
それなら土の魔法で地面を操作して転がしていくか? いや、下手に地面の高さを変えてしまうと下の階層の天井の厚さが足りなくなって抜けてしまうかもしれない。ダンジョンが崩壊し始めているこのときに、それはあまりに危険すぎるだろう。
出来たら風系統の魔法のように直接触らずに運べるものがいいな──でも風は無理って師匠が言っていたからな。他に結晶を操って動かせる魔法……操って動かす……待てよ、魔法である必要はない。あれだ!
「師匠、魔力結晶って魔力のかたまりなんですよね?」
「うん、そうだよ。もちろん大きくても魔力結晶は──ああ、そういうことか。コルネくんは賢いね!」
師匠が俺の考えに気付いたようだ。ここまで俺の脚にある魔力を操ってきたように、魔力結晶の魔力を師匠が地上まで操る。そうすれば抱えずに運び出すことが出来るわけだ──師匠は死ぬほど疲れると思うが。
もしも魔力結晶の重さで飛ばすことが出来なかったとしても、少し補助として下から支える程度で済むだろう。
「早速やってみるよ!」
師匠がそういうと音もなく魔力結晶が宙に浮かぶ。魔力結晶はなめらかに上に移動したが、師匠は少し苦しげな表情をしている。
「これ、結構きついかも……横に動かすのはどうってことないんだけど、浮かべるのが大変だ。なるべく速く出よう」
「分かりました。俺が地図を見ながら道を教えるので、その通りに進んでください」
鞄から全ての階層の地図を取り出し、十階層から一階層の順に入れ替える。
「行きますよ!」
そう言って、来た道へと走り出した。
なるほど、確かに風の魔法を使えば軽いものなら浮かせることが出来る。軽いものならだが。その口ぶりからすると、もし魔力結晶が平均サイズくらいならそれが出来るというのだろうか……やはりすごいな。
師匠は魔法剣を使っているが、決して魔法が不得意というわけではない。むしろ普通に魔法使いとしてもかなり腕が立つ方だと思う。さすがにサラさんほどではないけれど、俺がミャクー村で見たどの魔法使いよりも魔法に秀でていると思う。
「魔法で無理だったら二人で抱えて運ぶしかないけど……あまりしたくはないじゃん?」
確かにこんな重さのものを抱えて一日かけて下りてきた十階層を上がるなんて、ダンジョンを出る頃には明日の夕方だ。それも寝ずにペースを落とさず運ぶと仮定した場合だけど。
かと言って一度地上に出て応援を呼んでくるわけにもいかない。魔力結晶をダンジョンの壁から出した今、核のような役割をしていた結晶を失ったためにダンジョンの崩壊が少しずつ始まっている。一度出て戻ってくる頃には、この魔力結晶は地中深くに埋まってしまっているだろう。
こんなことなら魔力結晶を掘り出す前に応援を呼べばよかったんじゃ──いや、もう掘り出してしまったのだからこんなことを考えても意味はない。
何か、何か策はないか……氷の魔法を床に使って魔力結晶を滑らせるか? ここの入り組んだ通路では壁にあちこちぶつけてしまって遅くなる。それに壁がかなり硬いため、もしかすると魔力結晶が割れてしまうかもしれない。
それなら土の魔法で地面を操作して転がしていくか? いや、下手に地面の高さを変えてしまうと下の階層の天井の厚さが足りなくなって抜けてしまうかもしれない。ダンジョンが崩壊し始めているこのときに、それはあまりに危険すぎるだろう。
出来たら風系統の魔法のように直接触らずに運べるものがいいな──でも風は無理って師匠が言っていたからな。他に結晶を操って動かせる魔法……操って動かす……待てよ、魔法である必要はない。あれだ!
「師匠、魔力結晶って魔力のかたまりなんですよね?」
「うん、そうだよ。もちろん大きくても魔力結晶は──ああ、そういうことか。コルネくんは賢いね!」
師匠が俺の考えに気付いたようだ。ここまで俺の脚にある魔力を操ってきたように、魔力結晶の魔力を師匠が地上まで操る。そうすれば抱えずに運び出すことが出来るわけだ──師匠は死ぬほど疲れると思うが。
もしも魔力結晶の重さで飛ばすことが出来なかったとしても、少し補助として下から支える程度で済むだろう。
「早速やってみるよ!」
師匠がそういうと音もなく魔力結晶が宙に浮かぶ。魔力結晶はなめらかに上に移動したが、師匠は少し苦しげな表情をしている。
「これ、結構きついかも……横に動かすのはどうってことないんだけど、浮かべるのが大変だ。なるべく速く出よう」
「分かりました。俺が地図を見ながら道を教えるので、その通りに進んでください」
鞄から全ての階層の地図を取り出し、十階層から一階層の順に入れ替える。
「行きますよ!」
そう言って、来た道へと走り出した。
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