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47話 聖女の危機に颯爽と現れる勇者

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「やっぱり、199人?」
「ギイ!」
「参加者一人足りてねえ。マジやべえじゃん」

 ゴブリンからの報告をレナは、冷や汗が止まらなかった。
 商人がミニマムドレイクに食われている隙を突いて、なんとか参加者を安全な1階層受付に誘導できた。
 全員誘導したつもりだった。しかし、どうしても1名だけ数が合わない。

(ってか、アキさんもいねえし。いったいこれからどうなっちゃうわけ?)

 トイレに行ってからずっと帰ってこないアキナ。商人のせいで気を失ったジン。そして犠牲になったかも知れない、誰だか分からない一般参加者。それぞれの安否を無事で事態が少しでも早く収まる様、レナは心の中で祈った。
 なお商人は、このまま食われてくれる様に同時に祈った。




「な、なつめさん……」
「大丈夫よ、こはくちゃん」

 押し寄せる沢山のミニマムドレイクに怯える、こはくにアキナは優しく微笑みかけた。
 この程度の相手がいくらこようが、自分の聖女の結界は破れない。
 しかし……

(キリがないわね)

 魔力には、まだまだ余裕があるので、あと48時間は張り続ける事ができる。
 ただ、若い頃ならばともかく、今の自分では魔力の前に体力が尽きるだろう。
 最もそれに関しては大きな心配はしていない。ジン君とゴンザレスが全部駆除してくれるはずだ。ジン君にはその実力があるし、多分だがゴンザレスもそれくらい強い。ただ、数が多い上に、ミニマムドレイクはすばしっこいので、半日くらいみた方が良いかも知れない。
 問題は、こはくの精神状態だ。
 こはくは一般人で対抗する術をなにも持っていない。それなのに始めてきたダンジョンで、こんなイレギュラーに遭遇している。
 感じてる恐怖とストレスはかなりのものだろう。
 それを感じる時間が長ければ長いほど心に大きな傷を残し、トラウマになる。
 もしそうなったら、部屋から出てきてくれたのに、また自分の殻に閉じこもり、引きこもりに戻ってしまうかも知れない。
 一刻も早く窮地を脱したい。しかしアキナは、攻撃魔法は使えない。転移魔法を使い1階層の受付に逃げようかとも思ったが、ミニマムドレイクの大群は、その隙を与えてくれない。

(こはくの体調も心配ね。こんな状況でもお腹は減るし。お手洗いにはいけないし……え?)

 ここでアキナは異変に気付く。沢山結界に群がっていたミニマムドレイクが急に引いたのだ。
 こはくも気づいた様で恐る恐るアキナの後ろから、結界の外を覗く。

「……もう大丈夫なんでしょうか?」
「まだダメ! 私の後ろに隠れてて!」

 物凄い魔力が、空中から一直線にコチラに向かってきている。

(……来る!)

 直後、聖女の結界に何かが衝突し巨大な衝撃音が響く。
 聖女の結界に大きなヒビが入った。

「あ、ああ……なつめさんのバリアが……」

 ヒビが入った聖女の結界を見た、こはくは力なくつぶやいた。
 その表情は絶望に満ちている。
 そして糸が切れた人形の様に力なく地面にひざをついた。

(まあ、そうなるわね)

 だが、この状況でもアキナは冷静だった。
 魔力の質から察するに、この羽の生えたライオン顔のモンスターは、恐らく階層守護者だ。
 さらに状態を見る限り、理性を失い狂戦士になる消費系のアイテムか魔法薬を服用している。魔力も身体能力もかなり強化されているのだろう。
 一方の自分は十数年間、魔法を使っておらず、モンスターとも戦闘をしていないため、感覚がかなり鈍っている。 加えて杖やステッキが無い状態では、魔力のコントロールが難しいため、魔法の効力がどうしても低くってしまうのだなる。
 勇者パーティーに所属していた頃の半分も力を発揮できてない今の、この状態では、当然の結果だった。
 しかし、この程度で、やられはしない。

 アキナは先ほどより強く聖女の結界に魔力を込める。
 ひび割れた部分はあっという間に塞がり、先ほどより結界は強固になった。

「ガアアアア!」

 ライオン頭のモンスターは、聖女の結界を凄まじい速さで殴打し続けてる。
 今のところ結界には傷1つついていない。
 しかし、結界にダメージは蓄積していく。
 もし、ひび割れてもすぐ修復はできる。しかしその度に魔力を消費する。
 消費といえば、より強く結界を張ったために、魔力の消費も先ほどより大きくなった。
 だが、自分の魔力が尽きる前に恐らく救援はくる。
問題は、こはくだ。
 結界にヒビが入った事が、かなりのショックだったようで、縮こまって目をつむり、先ほどより激しく震えている。
 娘に怖い想いをこれ以上させたくない。

(一か八か転移魔法をこのモンスターに使って、できるだけ深い階層に飛ばしてその隙に……)

 そんな事が頭をよぎり始めたその時、

(え!?)

 ライオン頭のモンスターの後頭部に、なにかが直撃した。
 お盆のようだ。これを誰かがフリスビーの様に投げたようだ。
 モンスターは聖女の結界を殴打する手を止めて、お盆が飛んできた方向に関心をうつした。

『無茶しようとしてんじゃねえ。聖女の結界を解いたら、そいつのパンチがお前に当たるぞ。そうなりゃ確実にお前は死ぬ』

 お盆が投げられた方向から誰かが歩いてくる。声から察するにゴンザレスの様だ。

『そうしたら、後ろのお嬢ちゃんも助からねえ。それじゃ元も子もねえじゃねえか』

 気づかいながらも、たしなめる言葉にアキナの心はグッときた。しかし、ゴンザレスの姿を確認した瞬間にドン引きする。

『今、助けてやるからちょっと待ってろ』

 仮面以外なにも身に着けていない姿のゴンザレスは、身体中をミニマムドレイクに噛まれながら、大事な部分をお盆で隠して、こちらに歩いてきた。

「な、なつめさん、いったいなにがあったんですか?」
「こ、こはくちゃん、絶対に目を開けちゃダメよ」
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