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34話 馬車にひかれる悪徳商人

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「例えば、このレジリエンスローブの値段を知りたいときはこう言ってみてください」

 車の中で、アキナは異世界語の学習動画の撮影をする。
 転移者だとバレたくないので、この手の動画は、今まで撮ってこなかった。
 しかし、知らない事とはいえ、詐欺の片棒を担いでしまい、多数の被害者を生み出しているかも知れないこの状況で、そんな私的な都合を優先させる気にはなれなかった。
 ゴンザレスが絡んでいる商品だという事で、不安と疑問を感じている視聴者は沢山いた。
 アキナのやることが全て嫌いな粘着アンチも少数ではあるがいる。
 そういった人達も含めたできるだけ多くの人々の力を借りて、レジリエンスローブの適正な価格を一刻も早く知り、それを世に広めなければならない。

『レジリエンスローブはいくらですか』
「はい、OKっす! 簡単な編集をして今日中にはアップロードするっす!」
「ゴメンね。急に思いついたことを頼んで」

 アキナはレナのアパートに向かって急いで車を走らせた。



「よし。終わったわ」

 家事を一通り終えたアキナはスマホを手に取り、自分のチャンネルの動画を確認する。
 先ほどの動画はまだアップロードされていない様だ。
 焦らずに待とうと思い、スマホをテーブルの上に置こうとしたその時、レナから着信が入った。

「もしもし、れなちゃんどうしたの?」
――すんません。さっき動画をアップロードしたんっすけど、ポリシー違反で削除されたっす。
「え、どうして!? ……違反しそうなことなんて何もしてないじゃない!」
――多分、沢山の奴が一気に運営に違反通報したんじゃないかって思うっす。
「なんとかならないかな?」
――異議申し立てはしたんで、復活はするって思うっす。でも運営も忙しいんで確認には時間かかるし、復活してもまた大量通報されて消えちゃうかも知んないっす。
「……れなちゃん。頑張ってくれたのに、本当にごめんね」
――アキさんは何も悪くないっす! 悪いのは商人の奴っす。

(動画が復活しても、また削除されたら手間も時間もかかり過ぎるわね。……多分、他に同じ様な動画を投稿しても同じ結果になりそうね)

 悔しさとレナへの申し訳なさを感じながら、アキナは次の手を考える。

(それっぽい事を色んな人に目立つように伝えたらダメってことね。よし、それなら……)

 アキナは需要な部分だけをカットした動画をレナに送ってもらう。
更に『レジリエンスローブの価格はいくらですか?』とメモに書いてそれをスマホカメラで撮る。

(皆、ゴンザレスを嫌っているだろうから誰も密告はしないはずだし、これなら……)

 そして保存した動画と画像を×(旧:Twittew)のDMやLINEを通して、顔見知りのダンジョン配信者に送信していった。




『やっぱり仕掛けてきたか。しかし、なんとかこれで【生態系の迷宮】の平和は守り切ったな』

 アキナの動画を削除することに成功したゴンザレスは、何故か正義の味方のように振る舞っていた。

(いや、平穏乱してんのはてめえじゃねえか)

『だが、払った犠牲は莫大だった』
『誰も死んでねえじゃねえッスか』
『カネが莫大だった』

(どこがだ。動員したモンスターの人件費は、ほとんどタダみてえなもんだし、大量通報するためのPCやスマホも俺をこき使って作らせたもんだから1つも買ってねえじゃねえか)

『俺も必死に頑張った甲斐があったってもんだ』

(偉そうに演説した後は、ずっとエロ動画見てただけじゃねえか)

 手をプルプルと振るわせながらも、必死に笑顔を作り、ジンはゴンザレスに問いかける。

『でも、どうすんっすか? こんなのずっとやってたら、キリがありませんよ』
『へへへ……。ちゃーんと根本的な解決方法は考えてるから安心しろ』



『ええ!? ……本当なの』
『本当です。この1週間、配信者で誰も冒険者を見た人がいないんです』

 本業の都合で久しぶりに【生態系の迷宮】にやってきたアキナは、レオン君の話を聞いて驚きが止まらなかった。



 ここは異世界のとある栄えた都市国家にある冒険者ギルドである。このギルドでは、世界的に有名なダンジョン【生態系の迷宮】の管理と調査を行っている。
 今日もギルドの広いホールで、沢山の冒険者たちがダンジョンの攻略計画を練っていた。

「次の探索はどこにする? 生態系の迷宮にでも行くか?」
「それも考えたんだけどさ、最近、ちょっと変な噂を耳にしたんだよね。」
「変な噂って?」
「生態系の迷宮、資源が枯渇してきたんだって」
「いやあんなに色んなもんがあるダンジョンでそれはないだろう」
「だから驚いたよ。でも、この話、ギルドの掲示板に書いてあったし、酒場でも噂になってる」

(へへへ。掲示板に勝手に貼り紙張ったのが、きいたみてえだな)

 冒険者2人の話を聞きながら、仮面をつけていないゴンザレスは、ほくそ笑んでいた。

(念のために、この辺の酒場を全部飲み歩いたのも正解だったな。まさかこんなに早く噂が広まるとは思わなかったぜ)

 ニヤニヤしながら冒険者の話に更に聞き耳を立てる。

(しかし、怪我の巧妙とはこの事だな。冒険者を全部排除できたから、上手く行けば生態系の迷宮にあるレアアイテムやモンスターの希少部位は全部俺が独占できるかも知れねえな。へへへ。もしそうなったら、いくらになるんだろうな)

 ニヤニヤが加速し、大きく顔を歪ませたその時だった。

「お前、さっきからなに1人でニヤついてんだ 気持ち悪りいな」

 ごっつい冒険者に声を掛けられ、コウスケは激しく動揺した。

「え? これはですね、その……」
「ん? 待て、お前見たことがあるぞ」
「あっしはゴンザレスっていう旅の商人でして、どこかで露店を開いている時にお会いしたのかも…‥」
「思い出した! お前はゲス勇者……」
「おらあ!」

 自分の正体に気づいたごっつい冒険者の顔面をぶん殴り気絶させた。
 暴力沙汰を起こしたゴンザレスに、周囲の視線が集まり始めた。

(やべえ! 逃げるしかねえ!)

 一目散にギルドを出て、出来るだけ逃げようとしたその時……。

「ぎゃあああ!」
「バカ野郎! いきなり飛び出してきやがって!」


 馬車にひかれ宙を舞った。
 なお、このギルドは湾岸沿いに面した場所にあるため海の中にあるため、コウスケは海面に転落する。

「あー渦潮に巻き込まれたか。こりゃもう助かんねえな」

 渦潮に巻き込まれ沈みゆくゴンザレスを見ながら、乗船している船乗りのおっさんが呆れたようにつぶやいた。

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