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校舎の裏

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 清掃タイムなんてのがまだある。木枯らしが吹いて、受験生がジャージでするような作業じゃない。

 竹箒を引きずりながら、落ち葉のピークが終わっている中庭に向かっていると、後ろから呼び止められる。

「若槻先輩! 」

 殆ど口は聞いた事ないが、エマの親友だ。深刻な様子から、難儀な事情を持ってきたみたいだ。

「どうした? 」

「ちょっと来てもらっても良いですか!? 」

 女同士の揉め事なんだろうなと、察する。彼氏でもないけど、俺絡みである事には変わりがないんだろう。

「あー、分かった」

 悪いなと、同じ清掃班のヤツに箒を預けて、エマの親友についていく事にした。

「それで、なに? 」

 速足でエマの親友とその場所に向かう。校舎の裏庭だ。なんだか、それっぽい場所に呼び出したようで、話もつまらなそうだ。

「エマが、二年の女子に囲まれてて。その、この間の内海君の事で……」

「その話、俺じゃないよな。内海呼びつけた方が早くないか? 」

「その、内海君の元カノがエマにキレてて~~」

「マネージャーに振られたんだろ? なんで、そうなるんだよ」

 とばっちりのとばっちりだ。お前ら中学生かよ? と言うような下らなさ。

「それが、内海君、元カノと付き合っている時にエマに告ったらしくて、内海君呼んでも話がこじれるだけで……」

「意味が分からないな」

「なんだか、振ったのは振ったので気に入らないみたいで。若槻先輩と付き合ってないのに振るとかあり得ないとか言い出すし、私も意味が分かりません」

「はぁ? 」

 女同士で解決させて欲しいし、俺が呼び出される様な話じゃないよな。だいたい、エマの自業自得じゃないのか?中途半端に公認カップルで、付き合っていないのは認めてるからややこしいんだって。

 駆けつけると、裏庭の校舎の壁際まで、エマが追いやられている。数人の女子に取り囲まれているが、リンチ……という程まで激しくは無さそうだ。エマは陽キャだから、なかなか攻め辛いだろうし。

 聞こえてくる話は繰り返されてるのか、話の進展がほとんどない様に見える。

「悪いけど……」

 と、俺が集団に近づくと、思いの外あっさりと空気が変わる。

「そこのマネージャー、引き取っていい? 」

 この女子グループ、想像してたよりヘタレだ。エマは、最初に見つけた時の陽キャの気迫が、俺を見て逆に萎えている。

「ちょっと話聞いたけど、うちの部、部内恋愛禁止だから。女子マネ入れてるんだから当たり前だろ? 俺とエマが付き合ってるとか認めるわけないし。あと、この件はうちの顧問に話しとくから、内海と元サヤに収まれるかは、俺は知らないな」

 まぁ、テキトーに。彼氏でもないのに修羅場に呼ばれたが、このぐらいは言わないとカッコもつかない。俺は既に部を引退してるけど、とりあえずこんなマヌケな修羅場は煙に巻くに限る。

 内海の元カノと友達は、話が飲み込めないのか思考回路停止している。本当、頭悪いなと思いながら、エマを手招きして呼びつける。

 そのまま、エマの親友と三人で退散させてもらった。

 内海の元カノグループから見えない校舎の入り口まで移ると、エマが深々と謝ってきた。

「タイチセンパイ、ごめんなさい」

 ションボリしてちょっとか弱い態度を見せる。

「いや、まぁ、掃除サボれたからいいよ。それより、なんで呼び出されてノコノコついていくんだよ」

「それはですねー、内海君と元サヤに戻りたいって相談だと思って……」

「はぁ……? うーん、そうか、そのパターンもあるよな……」

 さすが陽キャ……ポテンシャル高い。

 それもどうかと思うが、あの手の連中に比べたら幾分まともな頭を働かせている。横を見ると、エマの親友が苦笑いしている。

「それよりもありがとうございます! タイチセンパイ、超カッコよかったです! 私と付き合ってるって暗に認めてくれて♡」

 急に切り替えてくるいつものエマに、俺もその親友も虚脱感に襲われた。

「はぁ……」

 と、ため息をつくと、もう、エマは次の動きをする。

「すみません、私、職員室に用事があるんです! お先に失礼します! 」

 ダッシュして、校舎の廊下を走って行く。その様子だけなら、中学生どころか小学生並みだ。

「君の親友、どうにかならない? 」

 と、親友の方にお願いすると

「本当に、すみません」

 と、謝られるのと同時に改善を断られた。
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