上 下
15 / 22
レトナーク編

第14 お家に帰るまでがクエストよ

しおりを挟む
「今さらなんだけど、馬車で帰るという発想は無かったのか?」

 ロゼのハワゼット家の屋敷まで、石畳の道を歩いている。あたりは暗く、月明かりが石畳を照らして、ようやく歩ける。門までの道はまだまだ長い。

 飲み潰れたミアを背負わされたギルが、ギルの剣を抱えたロゼに文句を言う。

「それは贅沢でしょう」

 ロゼが悪びれずに、それを言う。

「……何を言ってるんだ」

ギルは抗議した。

 街道の延長線上にそびえるハワゼット邸は、街の中心からずっと石畳だ。都市と言っていい街を見下ろす小高い丘の上にそびえてまるで城だ。

 この石畳の方がよっぽど栄華を極めて、何が馬車は贅沢だ……。

 森から里まで猪獣を背負うよりは楽だ。脱力した人間を背負って、ビアホールから小高い丘の邸宅まではそこそこある。1日のうちに運ばせるなんて、体力が残ってる云々の前に普通に理不尽だ。

 ギルは、ガイに〈どのぐらい飲めるのか〉試されて、これは精神的にキツイ。

 夜風が涼しくて、何とか歩いてるが、気分的にはサッサと横になりたい。ミアは背中でスヤスヤご就寝で時々耳がピクピク当たってきてくつぐったい。

「お家に帰るまでがクエストよ!」

 上機嫌のロゼが、適当なことを言って、ほろ酔を楽しんでいる。

「言ってる事がめちゃくちゃだろ。」

「あれぇ、文句言います?」

「じゃ、こっちの荷物持ってくれ。」

 腰に掛けてある装備を渡そうとするが、ロゼに嫌がられた。

「えー、私にこれ以上の荷物持たせるの?」

「…じゃ、ミアを置いていこうかな?」

 ロゼに散々話のツマミにされて、何か仕返しをしたくなった。

 グッタリしたミアを石畳の上に置くような素振りをすると、ロゼに墓穴を抉られる。

「ははーん。良いのかな?ガイさんに、今朝の事話しちゃおうかな?ぼく、ホームシックとストレスで癒しが足りないんでスゥーー!って。」

 急にロゼが駆け足になる。

「おい!こら、タチが悪いぞ!」

 ミアを背負い直し、同じ速さで追いかける。

 結局、ほぼ全力で駆け上がってしまった。
 門の前で、ロゼがミアの顔を覗き込む。

「あーぁ、せっかく洗ったのにコートで臭くなっちゃった。後で起こして、お風呂入れさせよ」

 ビアを一口飲んだだけで寝てしまったミアは、朝まで起きそうもないが……

 お転婆なロゼの顔が優しくなる。
 ギルは、思うままの顔が出来るのが羨ましく思えた。

『…余計な事は言わないでおこう』と、ギルは思った。

「今日はありがとうね」

「?」

 不意にロゼから感謝をされて、ギルは不思議に思った。

「ミアを評価してくれて。ナサリーさんに褒められても、私に褒められても、ミアの気持ちになかなか届かないのよね。助かったわ」

「難しいんだな」

「そんなものよ。だいたい、合理的な思考回路なのに、理不尽な事に素直に振り回されるギルの方がおかしいのよ」

「感謝されるよりも、酷いことを言われてる比重の方が重いんだけど。」


 お帰りなさいませと、執事が門まで迎えに来てくれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

ニューハーフな生活

フロイライン
恋愛
東京で浪人生活を送るユキこと西村幸洋は、ニューハーフの店でアルバイトを始めるが

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

【R-18】おお勇者よ、自慢の爆乳美人ママを寝取られてしまうとは情けない!

ミズガメッシュ
恋愛
勇者エルドは元服を迎えた日に、魔王退治の旅に出た。勇者の母親アンナは愛する我が子の成長を喜びつつも、寂しさと不安を覚えていた。そんな時、国王ハロルドはアンナに近づいてきて…

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

処理中です...