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レトナーク編

第4話 ミアは食べるのが遅いんだけど

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 冒険者ギルドからすぐ近くのレストランで、4人は遅い昼食をとっている。ギルドの職員がよく出入りする庶民的なレストランだが、武骨な冒険者達にはやや繊細すぎるインテリアだ。

  ロゼとガイは、冒険者ギルドの最近の依頼傾向の話題で盛り上がっている。誰が何を達成したとか失敗したと、次々と冒険者たちの名前が上がる。話すスピードと食事をとるスピード、どちらも早い。

 テーブルは、料理の乗った皿が片付けられた席とそうでない席になってしまった。

 ギルは、4人の中で知らない者はミア1人だけなのにわずかな疎外感を受けている。

「ギル、食事が進んでないが、口に合わないか? 」

 ガイが心配する。時折お忍びで王宮の外に出ているつもりなのだが、ガイからすると世間知らずの箱入り王子扱いになる。

「いや、美味しいよ。ゆっくり食べているだけだよ」

 ギルが食事の手が止まるのに対して、ミアの方は忙しく手を動かしている。

「ミアも、何慌てて食べてるの? 味わってないでしょ」

 ロゼに声かけられたミアが、フォークをおいて、口を隠してモグモグする。

「お口小さいんだから、そんなに慌てたら息詰まっちゃうよ? 」

「うん……」

 ミアは、ロゼとガイが食べ終わっているのに気がついて慌てて食べ終わらせようとしている。

 ギルは向かいに座る猫族のミアが、想定した範囲を超えているのには驚いていた。

 フードを外して現れたボサボサ髪とふさふさの猫耳。年頃のはずなのだが、化粧っ気もなく、痩せて年齢よりも幼い見かけだ。冒険者の装備は使い込んだものとうかがわせるが、あくまで最低限なのぐらいは分かる。

 ロゼから事前にもっと聞いておけば良かったのかも知れない。彼女ミアとロゼとのギャップが理解出来ない……と、ギルは思う。

『本当にCランクなのか? 』

 ソロで冒険者をしてきたミアに頼もしさをイメージ出来ない。そんなに簡単にCランクに上がれるのだろうかと、冒険者ランクの基準が分からなくなってくる。

 ミアは、空腹と睡眠不足で目を回して倒れたのだが、緊張したままよく噛みもせず、水を飲みながらひたすら食事を胃に流し込んでいる。

 とても味わっている様子ではない。
 話に加わろうという様子もない。

『今声をかけたら、吐き出しそうだな』

 と、話しかけるネタもなくギルは思う。

『ロゼは、ミアを自分の引き立て役に連れてきた……なんて事はないよな。ロゼはそういうタイプの女性ではないはず。むしろ、許婚の自分に無関心なぐらいだ』

 ギルにとってロゼは、媚びてこない稀有な人物で、同世代で唯一対等に近い相手だ。気のおけない相手と期待していたが、ロゼの関心は全く別方向にあるように思える。

 今回は、ギルのために組まれた冒険者パーティー。剣術の師匠であるギルが護衛を兼ねてのランクAのリーダーだ。ロゼも、経験豊富なBランク。

『ミアは、成り立てのCランク…、ロゼが贔屓目で身内を連れてきたのか……と、したら、先が思いやられる。真面目にやる気がない?』

 ふと、ギルの目にぴょこぴょこしている物が目に止まり、それはロゼの両手に大切そうに握られている。思わず凝視してしまった。

 ロゼの両手の下にも伸びているそれは、ミアの体につながったものだった。ロゼはミアのそれに癒されている。

『しっぽ……』

 ギルは思わず瞬きをして軽く頭を揺すって意識を元に戻そうとした。ロゼがミアを誘った理由がそこにあるのではないかと、ギルは思った。
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