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レトナーク編
第1話 しっぽ蹴らないでほしいんだけど
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冒険者ギルドのドアが開かれると、高い天井に賑やかな声が響いている。ミアは外よりも涼しい屋内に、肩から荷を外し身体を冷ます。
約束に遅れ気味な時間だが、フロアの中央に配された待合スペースの人混みを見渡しても待ち人は見当たらない。
ミアが薬草の買取のために窓口に進もうとすると、いつもの嫌がらせを受けた。パンッと音と共にしっぽが跳ねて、ミアの身体もギルドの床の上で揺すられ、足を踏みなおす。
しっぽの先を蹴られた。
「よう、お前、どうやってCランクになったんだよ」
相手は分かっている。ミアはうつむき気味に振り向いて、前髪の隙間から確認する。同じランクの冒険者のジャレグという男と、その仲間がいる。
しっぽの先を蹴られるぐらいなら、そんなに痛くない。嫌がらせが少しずつ過剰になりつつあり、打つ手をこまねいている。
(ジャレグが絡んでくるという事は、ロゼがここに居ない?待ち合わせに遅れ過ぎたのかな? )
冒険者同士のトラブルは、ソロで活動するミアが我慢すれば済んでいた。ミアは地味な依頼しか受けないが、最近とうとうCランクになってしまった。働き過ぎた。
ミアは、フードを目深に被ったまま、いつものしょんぼりした様子を見せ、窓口に着く。
「どうせ、お前みたいなヤツと組むパーティーはないから、無駄な昇格だな」と、ジャレグが言うと同調して背中嘲笑をあげる者がいる。
「あなた達、いい加減にしてください! 」
突如、窓口のナサリーさんが彼らを怒鳴りつけると、嘲笑いながらジャレグは仲間とギルドから出ていく。
「ごめんなさい、ナサリーさん」
フードに隠れた猫耳が更に垂れてミアは詫びた。銀髪エルフのギルド受付嬢のナサリーは、いつもミアに優しい。
(冒険者同士のトラブルには関わっちゃいけないのに……)
「なんで謝るんですか、ミアさん。ちゃんと魔物の討伐のキャリアもあります。ちゃんと規定をクリアして昇級されたんです。それに、薬草摘みも立派な仕事です! 希少性の高い薬草採取の評価は高いんですよ? 」
「ありがとう、ナサリーさん」
(でも、本当は、昇級審査なんかしてくれなくてもよかったのに……たまたま避けられず出会でくわした魔物ぐらいしか倒さないし)
「今日はこれだけです」
買取窓口のデスクは大きく、ミアはリュックの中から、分類済みの薬草を丁寧に出し広げる。
「今日もたくさん採れましたね。朝何時からですか? 」
「……えっと、4時ぐらいからかな?」
ナサリーの質問に答えながら、ミアは袋から今日の収穫の水晶を手にする。薬草の報酬よりも、ミアにとってはこっちが戦利品だ。この珍しい水晶の解体をどうしようかと考え始める。
「もしかして、また朝ごはんもお昼ご飯も食べてないですよね? 」
そういえば食べてない…と、ミアがポケッと顔を上げると、薬草の仕分けの手を止めたナサリーがカウンター越しにお叱り顔を見せる。エルフの耳が左右にピンと張る。
「ダメですよ、ミアさん。育ち盛りなんですから、ちゃんと食べないと!」
ミアは、ナサリーの姉御肌の眼光より、ナサリーの良く育った胸の谷間の圧にやられる。メチャクチャ説得力があるのだけど、いつも助言をスルーしてしまう。個体差があり過ぎて当事者意識の持ちようがない。
「ご、ごめんなさい……」
ミアは叱られて俯くと、お腹が急に空腹を自覚し動き始める。育ち盛りと言われると、女の子らしくともいわれているようでプレッシャーを感じる。
「ところで、ミアさん、今日は顔合わせです。こちらは預かって査定しておきますので、先ずご案内しますね」
「えっ? 私はロゼと待ち合わせで……」
いつもなら、ミアを見つけて、勢いよく駆け寄りハグをするロゼだ。今日はなんだか、いつもと違うようだ。
「奥の応接室で、お待ちですよ」
応接室でと聞いて、ミアは嫌な気がした。
約束に遅れ気味な時間だが、フロアの中央に配された待合スペースの人混みを見渡しても待ち人は見当たらない。
ミアが薬草の買取のために窓口に進もうとすると、いつもの嫌がらせを受けた。パンッと音と共にしっぽが跳ねて、ミアの身体もギルドの床の上で揺すられ、足を踏みなおす。
しっぽの先を蹴られた。
「よう、お前、どうやってCランクになったんだよ」
相手は分かっている。ミアはうつむき気味に振り向いて、前髪の隙間から確認する。同じランクの冒険者のジャレグという男と、その仲間がいる。
しっぽの先を蹴られるぐらいなら、そんなに痛くない。嫌がらせが少しずつ過剰になりつつあり、打つ手をこまねいている。
(ジャレグが絡んでくるという事は、ロゼがここに居ない?待ち合わせに遅れ過ぎたのかな? )
冒険者同士のトラブルは、ソロで活動するミアが我慢すれば済んでいた。ミアは地味な依頼しか受けないが、最近とうとうCランクになってしまった。働き過ぎた。
ミアは、フードを目深に被ったまま、いつものしょんぼりした様子を見せ、窓口に着く。
「どうせ、お前みたいなヤツと組むパーティーはないから、無駄な昇格だな」と、ジャレグが言うと同調して背中嘲笑をあげる者がいる。
「あなた達、いい加減にしてください! 」
突如、窓口のナサリーさんが彼らを怒鳴りつけると、嘲笑いながらジャレグは仲間とギルドから出ていく。
「ごめんなさい、ナサリーさん」
フードに隠れた猫耳が更に垂れてミアは詫びた。銀髪エルフのギルド受付嬢のナサリーは、いつもミアに優しい。
(冒険者同士のトラブルには関わっちゃいけないのに……)
「なんで謝るんですか、ミアさん。ちゃんと魔物の討伐のキャリアもあります。ちゃんと規定をクリアして昇級されたんです。それに、薬草摘みも立派な仕事です! 希少性の高い薬草採取の評価は高いんですよ? 」
「ありがとう、ナサリーさん」
(でも、本当は、昇級審査なんかしてくれなくてもよかったのに……たまたま避けられず出会でくわした魔物ぐらいしか倒さないし)
「今日はこれだけです」
買取窓口のデスクは大きく、ミアはリュックの中から、分類済みの薬草を丁寧に出し広げる。
「今日もたくさん採れましたね。朝何時からですか? 」
「……えっと、4時ぐらいからかな?」
ナサリーの質問に答えながら、ミアは袋から今日の収穫の水晶を手にする。薬草の報酬よりも、ミアにとってはこっちが戦利品だ。この珍しい水晶の解体をどうしようかと考え始める。
「もしかして、また朝ごはんもお昼ご飯も食べてないですよね? 」
そういえば食べてない…と、ミアがポケッと顔を上げると、薬草の仕分けの手を止めたナサリーがカウンター越しにお叱り顔を見せる。エルフの耳が左右にピンと張る。
「ダメですよ、ミアさん。育ち盛りなんですから、ちゃんと食べないと!」
ミアは、ナサリーの姉御肌の眼光より、ナサリーの良く育った胸の谷間の圧にやられる。メチャクチャ説得力があるのだけど、いつも助言をスルーしてしまう。個体差があり過ぎて当事者意識の持ちようがない。
「ご、ごめんなさい……」
ミアは叱られて俯くと、お腹が急に空腹を自覚し動き始める。育ち盛りと言われると、女の子らしくともいわれているようでプレッシャーを感じる。
「ところで、ミアさん、今日は顔合わせです。こちらは預かって査定しておきますので、先ずご案内しますね」
「えっ? 私はロゼと待ち合わせで……」
いつもなら、ミアを見つけて、勢いよく駆け寄りハグをするロゼだ。今日はなんだか、いつもと違うようだ。
「奥の応接室で、お待ちですよ」
応接室でと聞いて、ミアは嫌な気がした。
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