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自慢で終わる男
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この日のために靴と服を新調した。
髪も染め直して隙がないようにしたが……この銀座は私には合わない。
三年ぶりにあった彼とは元彼じゃない。
「私たち付き合わないのかな?」って聞いたっきり、彼の素ぶりが変わって身を引いた過去がある。コンサートに突然誘われたり、バイト先ではカップル成立と思われていたのに。
しばらくフリーターでいると言ってたのに、今は広告代理店で営業をしているという。
一軒目の洒落た和食BARで炙りマグロを食べさせられた。もうその記憶が飛んでいる。緊張して何を話したのか覚えていない。
久々に見た彼はやっぱりカッコいい。帰国子女でギターも弾けるし、筋肉質で背も高い……竹野内豊と反町隆史を足して二で割ったような贅沢なルックスを持っている。
煌びやかな銀座に見劣りしない彼について行くのが辛い。彼の隣を歩く女としてどう値踏みされるのか想像すると辛い。
二軒目は銀座としてはカジュアルなカフェに連れて行かれた。今夜、どうのこうのって流れじゃないんだと安心する自分がいる。
三年ぶりに会うけど、二年前に一度、彼から電話があった。この日の彼の電話の内容はよく覚えている。
一度振られている私は、彼に女として遠慮することをやめて饒舌になっていた。
「だから、付き合うなら彼女の交友関係も良く見て程度を考えてからが良かったよね」
私がバイトを卒業した代わりに入ってきた彼女は、甘い香りがするようなフワフワしたぶりっ子。彼が、彼女に目移りしたのは仕方がなかった。
「いかにも美味しそうな子だったもんね」
させ子って一目で判断し難いが、押せば倒せるような隙だらけの感じが嫌な子だった。着る服や髪型、仕草から何から……ただよう色気が男の気をひく。
「美味しそうな子……」私から意外な表現が出たので、電話口の彼は反復して動揺していた。
彼女を妊娠させちゃったと思って結婚を覚悟したらしい。なぜか堕胎するという話に進んだのは、どうやら妊娠の相手が彼じゃなかったと彼女が打ち明けたから。
彼女の友達も不倫を繰り返す子だと言うのは、元バイト仲間から伝わっていた。彼女もそうだった。
彼女に入れ込んで、振った私に電話をするぐらいだから余程傷付いたらしい。慰めてもらいたいのか何なのか知らないが。私は彼に軽い説教と憂さ晴らしをして電話を終わらせた。
少しぐらい失恋の毒消しにでもなればいい……その程度。
二軒目のカフェで、二人でエスプレッソを頼んだ。小さなカップで冷えるのが早い。それでもゆっくりと飲む。
「そのおじさん、もう俺の専属タクシーみたいな感じでね」
広告代理店で中途採用の彼は、あっという間に大きなプロジェクトを担当させられていた。新聞の見開き半面を埋めるような広告を担当していると言う。学生時代、バイト先で知り合ったのに相変わらず何かさせると大成しやすい。
確か、ギターでもプロダクション契約手前で辞めたって話聞いたな……これが嘘じゃないから怖いのよ、彼は。
深夜のタクシーはいつも決まった人に電話しては、わざわざ神奈川方面まで走らせる……一体何万円になるのだろう。それだけの経費を使うのも許されてるって、どんだけ?
私なんか、残業代払われないって話にもなっていると言うのに。
彼の自慢話を聞きながら私は冷静になる。彼は私に何を求めてるんだろう……私は広告代理店にヘッドハンティングされるだけの能力はない。そういう勉強をしていない。
それともあらためて恋人?
地位もお金もあるから?
将来都内マンションで二人暮らし?
仕事を辞めて趣味を楽しみながら彼の帰りを待つ?
ブランドも揃えてくれるかも知れない。
実家も金持ちなの知ってる。
元カノとの失恋を知ってるフリーター時代の自分を知ってるから、私、楽?
でも……待て………
彼みたいな男に群がる女たちを想像して、ゾッとした。彼女たちからしたら、私を潰しにかかるのは楽かも知れない。彼も、また行きずりに振り回されるかも知れない。
自分の女としても社会人としてもスペックの足りなさに、カップの底のエスプレッソの様にさめざめとした気分になった。
きっと、立ち直って有望株に成り上がった自分を見て欲しいだけなんだ!!
頭の整理の済んだ私は、彼が駅まで送ってくれるムードに持ち込んだ。彼がどんな気持ちなのかは分からないまま。
『勝負下着まで用意しなかったのは、良かった。制御効いた……』
と、思いながら電車の窓の外を見る。遠ざかる銀座に胸を撫で下ろした。
勝ったのか負けたのか分からない恋の清算が終わった。
髪も染め直して隙がないようにしたが……この銀座は私には合わない。
三年ぶりにあった彼とは元彼じゃない。
「私たち付き合わないのかな?」って聞いたっきり、彼の素ぶりが変わって身を引いた過去がある。コンサートに突然誘われたり、バイト先ではカップル成立と思われていたのに。
しばらくフリーターでいると言ってたのに、今は広告代理店で営業をしているという。
一軒目の洒落た和食BARで炙りマグロを食べさせられた。もうその記憶が飛んでいる。緊張して何を話したのか覚えていない。
久々に見た彼はやっぱりカッコいい。帰国子女でギターも弾けるし、筋肉質で背も高い……竹野内豊と反町隆史を足して二で割ったような贅沢なルックスを持っている。
煌びやかな銀座に見劣りしない彼について行くのが辛い。彼の隣を歩く女としてどう値踏みされるのか想像すると辛い。
二軒目は銀座としてはカジュアルなカフェに連れて行かれた。今夜、どうのこうのって流れじゃないんだと安心する自分がいる。
三年ぶりに会うけど、二年前に一度、彼から電話があった。この日の彼の電話の内容はよく覚えている。
一度振られている私は、彼に女として遠慮することをやめて饒舌になっていた。
「だから、付き合うなら彼女の交友関係も良く見て程度を考えてからが良かったよね」
私がバイトを卒業した代わりに入ってきた彼女は、甘い香りがするようなフワフワしたぶりっ子。彼が、彼女に目移りしたのは仕方がなかった。
「いかにも美味しそうな子だったもんね」
させ子って一目で判断し難いが、押せば倒せるような隙だらけの感じが嫌な子だった。着る服や髪型、仕草から何から……ただよう色気が男の気をひく。
「美味しそうな子……」私から意外な表現が出たので、電話口の彼は反復して動揺していた。
彼女を妊娠させちゃったと思って結婚を覚悟したらしい。なぜか堕胎するという話に進んだのは、どうやら妊娠の相手が彼じゃなかったと彼女が打ち明けたから。
彼女の友達も不倫を繰り返す子だと言うのは、元バイト仲間から伝わっていた。彼女もそうだった。
彼女に入れ込んで、振った私に電話をするぐらいだから余程傷付いたらしい。慰めてもらいたいのか何なのか知らないが。私は彼に軽い説教と憂さ晴らしをして電話を終わらせた。
少しぐらい失恋の毒消しにでもなればいい……その程度。
二軒目のカフェで、二人でエスプレッソを頼んだ。小さなカップで冷えるのが早い。それでもゆっくりと飲む。
「そのおじさん、もう俺の専属タクシーみたいな感じでね」
広告代理店で中途採用の彼は、あっという間に大きなプロジェクトを担当させられていた。新聞の見開き半面を埋めるような広告を担当していると言う。学生時代、バイト先で知り合ったのに相変わらず何かさせると大成しやすい。
確か、ギターでもプロダクション契約手前で辞めたって話聞いたな……これが嘘じゃないから怖いのよ、彼は。
深夜のタクシーはいつも決まった人に電話しては、わざわざ神奈川方面まで走らせる……一体何万円になるのだろう。それだけの経費を使うのも許されてるって、どんだけ?
私なんか、残業代払われないって話にもなっていると言うのに。
彼の自慢話を聞きながら私は冷静になる。彼は私に何を求めてるんだろう……私は広告代理店にヘッドハンティングされるだけの能力はない。そういう勉強をしていない。
それともあらためて恋人?
地位もお金もあるから?
将来都内マンションで二人暮らし?
仕事を辞めて趣味を楽しみながら彼の帰りを待つ?
ブランドも揃えてくれるかも知れない。
実家も金持ちなの知ってる。
元カノとの失恋を知ってるフリーター時代の自分を知ってるから、私、楽?
でも……待て………
彼みたいな男に群がる女たちを想像して、ゾッとした。彼女たちからしたら、私を潰しにかかるのは楽かも知れない。彼も、また行きずりに振り回されるかも知れない。
自分の女としても社会人としてもスペックの足りなさに、カップの底のエスプレッソの様にさめざめとした気分になった。
きっと、立ち直って有望株に成り上がった自分を見て欲しいだけなんだ!!
頭の整理の済んだ私は、彼が駅まで送ってくれるムードに持ち込んだ。彼がどんな気持ちなのかは分からないまま。
『勝負下着まで用意しなかったのは、良かった。制御効いた……』
と、思いながら電車の窓の外を見る。遠ざかる銀座に胸を撫で下ろした。
勝ったのか負けたのか分からない恋の清算が終わった。
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