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第九話・やっぱりこいつ
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学校内での大捜索だ。
行き先の廊下や教室を、隅々まで探し回る。
生徒のロッカーを開けるのは本来ルール違反だが、そんなことも言ってられない。
なるべく個人情報を見ないように探し回る。
日付が変わる頃、全ての教室を見終わったが、やはりどこにもない。
職員室に戻り、シュレッダーの中を見る。
だが、それらしき破片も見つからない。
「どうしよう…」
――――――――
(くくく…滑稽だねえ…)
校内の用務員室で、一人ビールを片手にほくそ笑む男。
今日は用務員は既に巡回済で、もう校内には朝まで来ない。
この部屋には校内に付けられた監視カメラの映像を確認するモニターが付いており、それを確認するために男は鍵を開けて堂々と映像を観ていたのだ。
―――その男が、猪子陀だった。
前々から昭隅のことは鼻持ちならなかった。鈍くさいくせに、意識だけは高く、生徒に媚びへつらっているようにしか見えなかった。
そして、何故か他の教諭や生徒たちは知らない…憶えていないようなのがよく分からないのだが…猪子陀の記憶には、昭隅がこの月桴高校に教諭として赴任していた覚えがない。
彼女が始業式で紹介される時、『復職』とはっきり明言されていた。
年齢も職員歓迎会で小耳に挟んだ際に二十四と言っていた。
となると、前年度に新卒として働いていたことになるのだが、記憶力に自信のある猪子陀が前年度の新任の存在を覚えていない訳がない。
猪子陀は昭隅が『居ない』と断言できる。彼女の風貌や姿を知っていて記憶していないなどあり得ない。
だが、同僚や生徒たちは「あー、戻ってきたんだ」「体調良くなったんだ」と、知っているかのように言葉にしていた。
馬鹿正直に教師として働き、要領の悪さやそのあざとさに苛立った猪子陀は、自分の立場が危うくならない程度に嫌味を言っていたが、彼女にはまるで応答している節がないことも、猪子陀の神経を逆なでしていた。
弱みを握ることに長けている猪子陀は、昭隅の学歴や経歴を独自に調べようと動いたことがある。
国立大学を卒業し、理科の教師資格を取得。この高校で勤め始めて半年経った頃、交通事故で休職…。
だが、件の国立大学の卒業名簿を確認したが、彼女の名前は見当たらないのだ。
経歴詐称か?と猪子陀の心は躍ったが、どういう訳か周囲の人間は猪子陀以外、その経歴を事実としているのだ。
校長にもそれを突き付けたが、校長は「ここに名前があるじゃないか」と空欄を指さすのだ。
現実を周りに「教えてやっている」猪子陀がなぜ嫌われ、昭隅のような得体のしれない低級教師を慕うのか、まるで彼には理解が出来なかった。
だから試しに反応が見たくて、猪子陀は彼女がまとめておいた未採点の課題を適当に抜き出し盗んだのだ。
課題は猪子陀が責任をもって手持ちのライターで焼き払っておいた。勿論処分場所は監視カメラの死角になる校舎間の隙間で、だ。
「いやいや、本当に面白いくらい慌ててくれるねえ。そんな課題、もう私の手で処分されてるってのにさあ」
カカカ、と高笑いしながら、祝杯を挙げるように猪子陀は用務員室の冷蔵庫で冷やしておいた缶ビールをグビッと飲んだ。
「へえ。処分…ねえ。行くとこまで行ったんですね、猪子陀先生」
「!?!?」
ギイ、と用務員室の扉が開けられた。
鍵は猪子陀が拝借しているのだから、他の職員も入ってこられないはずだし、電気も消灯していた。気付かれるわけがないはずだった。
扉の側には、いつものようにあきれ顔をしている七補士がその顔をモニターのブルーライトが当たりながら、身体を寄っかからせて気怠げに立っていた。
行き先の廊下や教室を、隅々まで探し回る。
生徒のロッカーを開けるのは本来ルール違反だが、そんなことも言ってられない。
なるべく個人情報を見ないように探し回る。
日付が変わる頃、全ての教室を見終わったが、やはりどこにもない。
職員室に戻り、シュレッダーの中を見る。
だが、それらしき破片も見つからない。
「どうしよう…」
――――――――
(くくく…滑稽だねえ…)
校内の用務員室で、一人ビールを片手にほくそ笑む男。
今日は用務員は既に巡回済で、もう校内には朝まで来ない。
この部屋には校内に付けられた監視カメラの映像を確認するモニターが付いており、それを確認するために男は鍵を開けて堂々と映像を観ていたのだ。
―――その男が、猪子陀だった。
前々から昭隅のことは鼻持ちならなかった。鈍くさいくせに、意識だけは高く、生徒に媚びへつらっているようにしか見えなかった。
そして、何故か他の教諭や生徒たちは知らない…憶えていないようなのがよく分からないのだが…猪子陀の記憶には、昭隅がこの月桴高校に教諭として赴任していた覚えがない。
彼女が始業式で紹介される時、『復職』とはっきり明言されていた。
年齢も職員歓迎会で小耳に挟んだ際に二十四と言っていた。
となると、前年度に新卒として働いていたことになるのだが、記憶力に自信のある猪子陀が前年度の新任の存在を覚えていない訳がない。
猪子陀は昭隅が『居ない』と断言できる。彼女の風貌や姿を知っていて記憶していないなどあり得ない。
だが、同僚や生徒たちは「あー、戻ってきたんだ」「体調良くなったんだ」と、知っているかのように言葉にしていた。
馬鹿正直に教師として働き、要領の悪さやそのあざとさに苛立った猪子陀は、自分の立場が危うくならない程度に嫌味を言っていたが、彼女にはまるで応答している節がないことも、猪子陀の神経を逆なでしていた。
弱みを握ることに長けている猪子陀は、昭隅の学歴や経歴を独自に調べようと動いたことがある。
国立大学を卒業し、理科の教師資格を取得。この高校で勤め始めて半年経った頃、交通事故で休職…。
だが、件の国立大学の卒業名簿を確認したが、彼女の名前は見当たらないのだ。
経歴詐称か?と猪子陀の心は躍ったが、どういう訳か周囲の人間は猪子陀以外、その経歴を事実としているのだ。
校長にもそれを突き付けたが、校長は「ここに名前があるじゃないか」と空欄を指さすのだ。
現実を周りに「教えてやっている」猪子陀がなぜ嫌われ、昭隅のような得体のしれない低級教師を慕うのか、まるで彼には理解が出来なかった。
だから試しに反応が見たくて、猪子陀は彼女がまとめておいた未採点の課題を適当に抜き出し盗んだのだ。
課題は猪子陀が責任をもって手持ちのライターで焼き払っておいた。勿論処分場所は監視カメラの死角になる校舎間の隙間で、だ。
「いやいや、本当に面白いくらい慌ててくれるねえ。そんな課題、もう私の手で処分されてるってのにさあ」
カカカ、と高笑いしながら、祝杯を挙げるように猪子陀は用務員室の冷蔵庫で冷やしておいた缶ビールをグビッと飲んだ。
「へえ。処分…ねえ。行くとこまで行ったんですね、猪子陀先生」
「!?!?」
ギイ、と用務員室の扉が開けられた。
鍵は猪子陀が拝借しているのだから、他の職員も入ってこられないはずだし、電気も消灯していた。気付かれるわけがないはずだった。
扉の側には、いつものようにあきれ顔をしている七補士がその顔をモニターのブルーライトが当たりながら、身体を寄っかからせて気怠げに立っていた。
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