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第83話 早朝ランニング(前編)

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「はぁあっはっはあああ!!いやぁああ!こうやって朝から兄弟と一緒に走るというのはやはりいいものだな!お前たちもそう思うだろ!?」

「はぁはぁ、さあね?というか兄貴は喋りながらじゃないと走れないの?もう少し静かにしてほしいのだけど?」

「ううぅ、お兄ちゃんは久々の兄弟水入らずのデートを楽しんでいるというのに妹の方はこんなにツンケンしているとは…お兄ちゃん、悲しい」

「走っている状況に限らずうざいからやめて。そういうのは弟とだけにして。というか兄妹水入らずて言うけどそこに思いっきり他人《赤坂》が混じっているでしょうが!」

「そんな他人だなんて!俺の相棒に酷いじゃないか!お前の同級生でもあるんだぞ!?」

「わけわかんないわよ!もう、何でこんなに話が通じないのよ!」

兄貴がわけわかめなのはいつもの事だしもうほっとこ。それによりも問題は…

「ねえ、いつになったら目的地に着くのよ?」

「ん?あとだ」

「さっきも同じこと言ってた気がするんだけど?」

「違うぞ?俺はあとって言ったんだぞ?」

一体どれだけ違うのよその誤差は…いや、追及すんのはやめよ。疲れるだけだ。けど本当にいつまで走るのかしら?『軽いランニング』とか言ってたのにもう明らかに5kmは優に超えてるんですけど?速度はそこまでじゃないから付いては行けているけれど疲れが全然抜け切れてないこの体だと流石にキツイ。けど私よりも…

「ちょっと龍介?さっきからペースが落ちてきて離れて行ってるけど大丈夫?」

「う、うるせぇ。無駄口…なんか、叩いて、ないで…集中しろぉ」

「はいはい、そうですか。私が悪かったですよ」

普段なら兄貴にも言い返しなさいよと言っているところだけどあの目、もうギブアップ寸前ね。

「よっしゃああぁ!ラストはダッアァッシュ!!」

時折ふらつきを見せながら後方から追って来る龍介を心配していると唐突に自由が叫び声を上げると同時に一気に加速した。

ラストスパートなら前もって教えておきなさいよ!いや、それよりも速い!くっ、ここまで来て引き離されるわけには…

なんとか兄に追いつかんと足掻いているとその背中の横にもう一つの影を視界が捉えた。

赤坂!兄貴のあのスピードに平然と付いて行ってる!?………あいつだけには…!

輝明に強い対抗心を抱いていた涼夏はその思いを再発させる。特に出発前の輝明が自分らとの実力に大きな開きがあると直接的にではないにしろ伝えられた事もあって涼夏は彼にだけは負けまいと心を燃やした。

ここだ。ここで絶対あいつを抜いてやる!

執念とも言える末脚で速度を急激に上昇させ負けじと彼らの後を必死で食らい付こうとした。

けれど全速力で走っているにも拘わらず差が縮まらず、距離を引き離されないように彼らの後ろを追いかけるのがやっとだった。


「いや~やっぱり兄妹で朝を共にするのはいいものだな!」

運動直後とは思えない陽気な感じで話しかける自由だがここまでの道のりでほとんど体力を使い果たしている涼香には返事を返す余力すら残されていなかった。

だめ、もう限界!まさかここまで走らされるとは…どう考えても『ちょっと』とか流しのレベルじゃないでしょ!しかもムカつくことやなこっちはこんなヘロヘロなのに兄貴は平然としてるし…て、あれ?

ついさっきまで隣で高らかに笑い声を上げていた兄がいつの間にか姿を消しており辺りを探していると公園中に響き渡る大きな音が耳に入りそちらの方へ向くと探し人の姿があった。

キャッチボール…赤坂も。兄貴らにとってはあのランニングが本当にウォーミングアップに過ぎなかったってこと?…ムカつく!

「わた、私も…混ぜなさいよ」

涼香が未だに肩で息をしている中でなんとか言葉を紡いで吐き出した。けれどその言葉に対して自由が口を開くよりも前に照明が腕を胸のところでクロスさせ否定の意志を示した。その反応に当然涼香は激怒する。

「何でよ!?」

「何でって、涼香明らかにバテバテじゃないか」

「バテ、バテ…バテてないわよ!?」

「呼吸が乱れてまともに発言できてないじゃないか」

「くっ!」

何なのよ!今まではどんなにへばっててもこっちの事なんかお構い無しで連れ回したり付き合わせてたくせに!この間からなんなのよ、もう!

「それにそもそも涼夏はグローブ持って来てないだろう?」

「…分かった、わよ。今度から持ってくるから…はぁっ…はぁっ…今は、それ貸し…」

強引にでもグローブをぶんどろうとしたその時、起き上がろうとするも足がふらつき体勢を崩して膝を付いた。

ダメだ、まだ足が。それにもう喋るのさえも…

疲労で動くことはおろか思考さえもままならなくなってきた涼夏。走り切った事で緊張の糸が切れたのか?体が体力の限界を迎えたのか?彼女は重力のまま前のめりに倒れ込み、そのまま地面に突っ伏した状態で眠りの中へと落ちて行った。






















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