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第79話『もしも』じゃない
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”ズバァ――ン!!”
「ストライーク!」
前の二人の反応から見てかなり振り遅れてたし、いつもよりも数テンポ早く振り出したんだけど、まだ結構遅れてるな。
一打席目もそう思って振り出しのタイミング早めたら偶々ヒットになったんだよな。けどその分この厄介なフォームからの球筋が一球しか見れなかった。しかも前打席と比べて球速も球のキレもまるで違う。ここまで跳ね上がるとはまったく予想していなかったな。
”キィン”
「ストライク、ツー!」
僅かながらボールに触れられたな。けど少しかすっただけでバットから伝わるこの衝撃。浮遊がああいう顔してたのも頷けるな。最初に対戦した時ですら『…もしかしたら』と、そう思わされた。
「ボール」
120㎞台のストレートを投げれるピッチャー。この時点で既にアタリだと思ってた。一年の春の時点でこれだけ球速出せるなら将来性は充分にある、と。だが回を重ねる毎に彼に対しての期待のような感情が大きくなっていった。
連打を食らい、失点を重ね続けても淡々と投げ続ける姿に加えフィーリングやカバーリングのスムーズな動き。結果はともかくとして球種がストレートのみでもグラウンドに上げる事ができる。三回の投球時点でそう思わせる程期待値は高まっていた。
だが5回に入り彼の球速が130を超え、6回にはそれらをしっかりゾーンに投げ分けする技術。そして独特なフォームから飛んで来るその球を体感した時、僅か一球の対戦ながら更に一つ新たな期待が僕の心の中に生れた。
『もしもこの速さのストレートを自在に配球できる技術に加えてある程度コントロールできる変化球を二つか三つ身に付ける事ができたのなら。そしてそれが夏までに可能になったのなら四強クラスの打線相手にも通用するんじゃないか?と』
だけどここにきてその願望に近いそれを大きく超える気持ちを抱かせてくる。
『もしも』じゃない。『いつか』といった未来の話でもなく、このままでも通用するのではないか?と。さっきまで抱いていた淡い期待と違い直接対峙してほぼ確信に近いものを感じた。これ一本で抑えきるのは難しいかもしれないがぶつけたら間違いなく手を焼く代物だろうと。勿論まだ色々乗り越えていかないといけない壁は沢山ある。俺らもこの子も両者共に。けれど…
「なあ自由。見えて来たんじゃないか?甲子園への道が」
「俺は輝明が来る前から見えていたんだけど」
「…そうかい。ありがとう」
悪いけど心から本気でそう思えてたのはお前くらいだよ。俺達もみな当然そこに辿り着こうと必死で努力はして来た。けれど皆薄々思っていた筈だ。その為には絶対に必要となるピース。この激戦区を渡って行けるだけの投手力、エースと呼べる存在。それがまだこのチームには決定的に欠けている事に。けれどその最重要となるピースが今、まさかに目の前に…
最初は大袈裟と思ってたけど今なら自由の言葉にも頷ける。俺達の代でこれだけの子がうちみたいな高校に入ってきてくれたのは間違いなく奇跡、だろうな。それともなんらかの引力によって自由《あいつ》に引き寄せられたのかな
「けど、なんていうかその。すけすけとしか見えていなかった景色がはっきりと見えて来た気がする」
「薄っすらって言いたかったのかな?」
「ああ、そうとも言うな!」
「普通はそうとしか言わないと思うよ。少なくとも一般的に『すけすけとしか見えない』なんて表現はまず使わないよ」
だけど確かに薄っすらとだけど、遥か霞んでだけど、僅かながら可能性という点で輪郭を帯びて見えて来た気がする。甲子園へ行くための道が!
「ストライーク、バッターアウト!」
最後は空振り三振となった剣崎であったがその表情は三振を食らった悔しさよりもその屈辱を与えてくる程の一年生投手が自チームに入ってくれた喜びの方が大きく勝っている喜びで笑顔に満ち溢れていた。
「ストライーク!」
前の二人の反応から見てかなり振り遅れてたし、いつもよりも数テンポ早く振り出したんだけど、まだ結構遅れてるな。
一打席目もそう思って振り出しのタイミング早めたら偶々ヒットになったんだよな。けどその分この厄介なフォームからの球筋が一球しか見れなかった。しかも前打席と比べて球速も球のキレもまるで違う。ここまで跳ね上がるとはまったく予想していなかったな。
”キィン”
「ストライク、ツー!」
僅かながらボールに触れられたな。けど少しかすっただけでバットから伝わるこの衝撃。浮遊がああいう顔してたのも頷けるな。最初に対戦した時ですら『…もしかしたら』と、そう思わされた。
「ボール」
120㎞台のストレートを投げれるピッチャー。この時点で既にアタリだと思ってた。一年の春の時点でこれだけ球速出せるなら将来性は充分にある、と。だが回を重ねる毎に彼に対しての期待のような感情が大きくなっていった。
連打を食らい、失点を重ね続けても淡々と投げ続ける姿に加えフィーリングやカバーリングのスムーズな動き。結果はともかくとして球種がストレートのみでもグラウンドに上げる事ができる。三回の投球時点でそう思わせる程期待値は高まっていた。
だが5回に入り彼の球速が130を超え、6回にはそれらをしっかりゾーンに投げ分けする技術。そして独特なフォームから飛んで来るその球を体感した時、僅か一球の対戦ながら更に一つ新たな期待が僕の心の中に生れた。
『もしもこの速さのストレートを自在に配球できる技術に加えてある程度コントロールできる変化球を二つか三つ身に付ける事ができたのなら。そしてそれが夏までに可能になったのなら四強クラスの打線相手にも通用するんじゃないか?と』
だけどここにきてその願望に近いそれを大きく超える気持ちを抱かせてくる。
『もしも』じゃない。『いつか』といった未来の話でもなく、このままでも通用するのではないか?と。さっきまで抱いていた淡い期待と違い直接対峙してほぼ確信に近いものを感じた。これ一本で抑えきるのは難しいかもしれないがぶつけたら間違いなく手を焼く代物だろうと。勿論まだ色々乗り越えていかないといけない壁は沢山ある。俺らもこの子も両者共に。けれど…
「なあ自由。見えて来たんじゃないか?甲子園への道が」
「俺は輝明が来る前から見えていたんだけど」
「…そうかい。ありがとう」
悪いけど心から本気でそう思えてたのはお前くらいだよ。俺達もみな当然そこに辿り着こうと必死で努力はして来た。けれど皆薄々思っていた筈だ。その為には絶対に必要となるピース。この激戦区を渡って行けるだけの投手力、エースと呼べる存在。それがまだこのチームには決定的に欠けている事に。けれどその最重要となるピースが今、まさかに目の前に…
最初は大袈裟と思ってたけど今なら自由の言葉にも頷ける。俺達の代でこれだけの子がうちみたいな高校に入ってきてくれたのは間違いなく奇跡、だろうな。それともなんらかの引力によって自由《あいつ》に引き寄せられたのかな
「けど、なんていうかその。すけすけとしか見えていなかった景色がはっきりと見えて来た気がする」
「薄っすらって言いたかったのかな?」
「ああ、そうとも言うな!」
「普通はそうとしか言わないと思うよ。少なくとも一般的に『すけすけとしか見えない』なんて表現はまず使わないよ」
だけど確かに薄っすらとだけど、遥か霞んでだけど、僅かながら可能性という点で輪郭を帯びて見えて来た気がする。甲子園へ行くための道が!
「ストライーク、バッターアウト!」
最後は空振り三振となった剣崎であったがその表情は三振を食らった悔しさよりもその屈辱を与えてくる程の一年生投手が自チームに入ってくれた喜びの方が大きく勝っている喜びで笑顔に満ち溢れていた。
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