69 / 87
第67話 5回表 交代か?続行か?(前編)
しおりを挟む
「み、皆さん。チェンジ、チェンジですよ!守備に付きましょう」
「そ、そうだった」
「いけね、いけね」
あまりの衝撃にほとんどの者が呆気にとられていたが、先生の言葉にはっとして我に返った中学生チームの面々は急いでグローブを手にベンチを出た。
「やべ、俺もいそがねーと」
龍介が慌ててプロテクターを装備しようとするとそれを自由が制止した。
「ああ、龍介待ってくれ。悪いんだがこの回から俺がキャッチャーするから交代してくれ。そんでお前は先生に代わってファーストの方を頼むわ」
予想だにしていなかった自由のあまりに唐突な発言に龍介は大きく目を見開いて聞き返す。
「は?何の冗談だよ兄貴」
「冗談じゃないぞ。大真面目だ」
兄貴の大真面目って半分くらいの確立で常人の俺らにとってはおふざげにしか感じ取れない内容のものなんだが。まさか今回もそっち方面じゃねーだろうな?
「仮に兄貴が出るにしても何でわざわざ交代する必要があんだよ。兄貴が先生に代わってファーストに就けばいいじゃん。別にこのままでも問題ないだろう?」
龍介が理解できない采配に疑問をぶつけていると涼夏が横から乱入して来た。
「そぅおぉ?序盤の誰かさんの情けな~い部分を考えたら交代させられても仕方ないんじゃない?寧ろベンチに引っ込められないだけマシだと思うけど?まあ、今日は交代要員の選手がベンチにいないってだけなんだけど」
「うるせー!いつまでもグチグチ言ってくんな」
「まあ冗談は置いとくとして、こいつの言う通り別に代えなくてもいいんじゃない?まだ上から目線間が抜け切れてないとこあるけどこいつなりに少しずつあいつ向き合いと始めようとしてるんだし、寧ろこのまま最後まで一試合通させることでより自信と信頼関係を深める方が…」
「もう出会って一週間も経つのに未だに同級生を『あいつ』呼ばわりする涼夏も十分に輝明に対して上から目線間が抜け切れてないよ。で、交代の理由なんだけど…ああ~っと」
「何だよ、珍しく歯切れの悪いじゃんかよ。はっきり言ってくれよ」
なるべくおふざけ系以外の内容で、な。
「いやなぁ、言いずらいんだけど今の龍介が輝明の球をすぐ捕るのは多分難しいと思うんだよな。うん」
彼の想定していた最悪のソレとは違い自由の言葉は龍介が十分理解できる範疇のものであった。しかしその内容に全然納得する事はできず、安堵する間も無く、頭に浮かび上がって来る疑問符をひたすら目の前の男にぶつけた。
「は?…い、は?意味わかんねぇ。俺さっきから普通にあいつの球捕ってんだけど?」
「それは輝明に頼んで力をセーブしてもらってるだけ。この回からギアを上げて投げてもらう。それにフォームもちょっと癖のあるのに変わるからかなりてこずると思うぞ?」
「赤坂《あいつ》の球ってあれで全力じゃなかったの?」
「ちょっと待てよ!てことはこれまであいつに手抜きのピッチングさせてたって事か!?なんでわざわざ力隠すような真似させたんだよ?そんな事しなけれりゃ…」
「そんな事しなけりゃ、なんだ?輝明の事を見下したりしなかって?自分から捕手としてちゃんと寄り添ってお手て繋いで仲良くやっていたと?仮に隠さなかったとしても性格的な面を考えると厳しかったと思うが?」
「それは…」
「力を抑えさせたのは色々あるけど、一つはお前がどういう対応するのか見ときたかったからだよ。出会って早々に涼夏も輝明のこと下に見てたからきっと双子のお前も似たようなことになるだろうと踏んでな」
「わ、私の方はそこまでじゃなかったでしょう?」
「…自覚……無いのか!?」」
「…ちょっと、これでもかってくらい眼球開いて信じられないモノを見る様な目で私を見るのは辞めてくれない?ああ、もう!はいはい、私も多少は自覚してますから!」
「どっちだよ?」
「まあ、涼夏の事は置いておくとして、確かに輝明は喋れないみたいだし自己主張とかまずしない。ピッチャーにしては大人し過ぎて、少々気が強すぎるお前らと真逆のタイプだ。だから馬が合わなかったりするとは思う。が、そういう投手こそ引っ張ってリードするのが捕手の役目。だろ?」
「………」
「まあ、お前との事を抜きにしても他にも確かめたい事とかも色々あって主に新入生の為にあえて抑えて投げさせてはいたんだけれど、そろそろあっちのチームの為にも輝明の為にも本腰を入れてもらわないといけないんだよ。ただ今の龍介にはちょいと荷が重いから悪いけど交代してくれ」
「兄貴の言いたい事はなんとなく分かったよ。けど、とりあえずやらせてくれよ!まだその本気とやらを一球すら受けてねーのになんとなく捕れなさそうだから交代とか決めつけすぎだろう?」
「う~ん、でもな~」
「確かに兄貴の言った通り俺はあいつの事をできないやつだと勝手に決めつけてまともに向き合おうとしなかった。今もまだあいつのことちゃんと見てるって言いきれねぇかもしれねーし、殆どわかんねぇ事だらけだよ。けど、けどよ!少しずつ、少しずつ今はこの試合を通して近づけて行けてる気がするんだ。だからよ…」
やっぱ試合だと距離の縮み具合というか、相手を理解しようとするのが早いな。まだ『相互理解』とはいかないだろうけど。
「…そうか。だったら仕方ない。それなら…」
自由はこれから先の見えないながらも何かありそうな展開に胸を躍らせながらマウンドでこちらを待っている輝明に視線を移した。
「そ、そうだった」
「いけね、いけね」
あまりの衝撃にほとんどの者が呆気にとられていたが、先生の言葉にはっとして我に返った中学生チームの面々は急いでグローブを手にベンチを出た。
「やべ、俺もいそがねーと」
龍介が慌ててプロテクターを装備しようとするとそれを自由が制止した。
「ああ、龍介待ってくれ。悪いんだがこの回から俺がキャッチャーするから交代してくれ。そんでお前は先生に代わってファーストの方を頼むわ」
予想だにしていなかった自由のあまりに唐突な発言に龍介は大きく目を見開いて聞き返す。
「は?何の冗談だよ兄貴」
「冗談じゃないぞ。大真面目だ」
兄貴の大真面目って半分くらいの確立で常人の俺らにとってはおふざげにしか感じ取れない内容のものなんだが。まさか今回もそっち方面じゃねーだろうな?
「仮に兄貴が出るにしても何でわざわざ交代する必要があんだよ。兄貴が先生に代わってファーストに就けばいいじゃん。別にこのままでも問題ないだろう?」
龍介が理解できない采配に疑問をぶつけていると涼夏が横から乱入して来た。
「そぅおぉ?序盤の誰かさんの情けな~い部分を考えたら交代させられても仕方ないんじゃない?寧ろベンチに引っ込められないだけマシだと思うけど?まあ、今日は交代要員の選手がベンチにいないってだけなんだけど」
「うるせー!いつまでもグチグチ言ってくんな」
「まあ冗談は置いとくとして、こいつの言う通り別に代えなくてもいいんじゃない?まだ上から目線間が抜け切れてないとこあるけどこいつなりに少しずつあいつ向き合いと始めようとしてるんだし、寧ろこのまま最後まで一試合通させることでより自信と信頼関係を深める方が…」
「もう出会って一週間も経つのに未だに同級生を『あいつ』呼ばわりする涼夏も十分に輝明に対して上から目線間が抜け切れてないよ。で、交代の理由なんだけど…ああ~っと」
「何だよ、珍しく歯切れの悪いじゃんかよ。はっきり言ってくれよ」
なるべくおふざけ系以外の内容で、な。
「いやなぁ、言いずらいんだけど今の龍介が輝明の球をすぐ捕るのは多分難しいと思うんだよな。うん」
彼の想定していた最悪のソレとは違い自由の言葉は龍介が十分理解できる範疇のものであった。しかしその内容に全然納得する事はできず、安堵する間も無く、頭に浮かび上がって来る疑問符をひたすら目の前の男にぶつけた。
「は?…い、は?意味わかんねぇ。俺さっきから普通にあいつの球捕ってんだけど?」
「それは輝明に頼んで力をセーブしてもらってるだけ。この回からギアを上げて投げてもらう。それにフォームもちょっと癖のあるのに変わるからかなりてこずると思うぞ?」
「赤坂《あいつ》の球ってあれで全力じゃなかったの?」
「ちょっと待てよ!てことはこれまであいつに手抜きのピッチングさせてたって事か!?なんでわざわざ力隠すような真似させたんだよ?そんな事しなけれりゃ…」
「そんな事しなけりゃ、なんだ?輝明の事を見下したりしなかって?自分から捕手としてちゃんと寄り添ってお手て繋いで仲良くやっていたと?仮に隠さなかったとしても性格的な面を考えると厳しかったと思うが?」
「それは…」
「力を抑えさせたのは色々あるけど、一つはお前がどういう対応するのか見ときたかったからだよ。出会って早々に涼夏も輝明のこと下に見てたからきっと双子のお前も似たようなことになるだろうと踏んでな」
「わ、私の方はそこまでじゃなかったでしょう?」
「…自覚……無いのか!?」」
「…ちょっと、これでもかってくらい眼球開いて信じられないモノを見る様な目で私を見るのは辞めてくれない?ああ、もう!はいはい、私も多少は自覚してますから!」
「どっちだよ?」
「まあ、涼夏の事は置いておくとして、確かに輝明は喋れないみたいだし自己主張とかまずしない。ピッチャーにしては大人し過ぎて、少々気が強すぎるお前らと真逆のタイプだ。だから馬が合わなかったりするとは思う。が、そういう投手こそ引っ張ってリードするのが捕手の役目。だろ?」
「………」
「まあ、お前との事を抜きにしても他にも確かめたい事とかも色々あって主に新入生の為にあえて抑えて投げさせてはいたんだけれど、そろそろあっちのチームの為にも輝明の為にも本腰を入れてもらわないといけないんだよ。ただ今の龍介にはちょいと荷が重いから悪いけど交代してくれ」
「兄貴の言いたい事はなんとなく分かったよ。けど、とりあえずやらせてくれよ!まだその本気とやらを一球すら受けてねーのになんとなく捕れなさそうだから交代とか決めつけすぎだろう?」
「う~ん、でもな~」
「確かに兄貴の言った通り俺はあいつの事をできないやつだと勝手に決めつけてまともに向き合おうとしなかった。今もまだあいつのことちゃんと見てるって言いきれねぇかもしれねーし、殆どわかんねぇ事だらけだよ。けど、けどよ!少しずつ、少しずつ今はこの試合を通して近づけて行けてる気がするんだ。だからよ…」
やっぱ試合だと距離の縮み具合というか、相手を理解しようとするのが早いな。まだ『相互理解』とはいかないだろうけど。
「…そうか。だったら仕方ない。それなら…」
自由はこれから先の見えないながらも何かありそうな展開に胸を躍らせながらマウンドでこちらを待っている輝明に視線を移した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。
みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』
俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。
しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。
「私、、オバケだもん!」
出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。
信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。
ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。
どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について
塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。
好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。
それはもうモテなかった。
何をどうやってもモテなかった。
呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。
そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて――
モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!?
最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。
これはラブコメじゃない!――と
<追記>
本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。
不撓導舟の独善
縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。
現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。
その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。
放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。
学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。
『なろう』にも掲載。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる