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第57話 何なんだよ

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(う~よくわかんないけど何でか酷い対応されてるな。まあ、仕方ないのかな?敵チームの途中乱入しちゃったし。けど、この空気のままじゃいけない。特にこの打席で万田先輩が投手なんだからこの勝負はきっちり気持ちを切り替えてボールに集中してもらおう…これから先の、チームの為に!)

「スゥー、ハァ~」

何だ、この感じ。馬鹿沢の雰囲気が変わった様な…気のせいか?まあいい。ここまで無茶苦茶な誤審で乱しに乱してやったんだ。その状態で俺様のナックルには対応できまい。これで、終わらせてやるよ!

”シュッ” ”キーン” 

「ファール!」

「おうおう、苦し紛れに当てるのが精一杯みたいだな」

「バッター大したことないよ」

「スゥー、ハァ~」

「………」

”シュッ” ”キーン” 

「ファール!」

「どうした?どうした?全然打球が前に飛んでこないぞ?」

「スゥー、ハァ~」

「………っ」

(いつの間にか構えが自然体になってやがる。けどそれよりもこいつ…)

な、何なんだよ…

あざ笑う様に挑発し続けるも全く反応が無い事に加えて、先程から自由の纏う空気が一変した事に気付き動揺し始めていた。最初打席に入った時には特に何も感じなかっのだが今はハッキリとバッターボックスから否応なく伝わって来る圧力がさっきまでのふざけた空気を霧散させており、緊張感が全身に走る。

”シュッ” ”キーン” 

「ファール!」

「はぁ、はぁ」

「スゥー、ハァ~」

(何だよ。何だってんだよ、その…目は!)

普段の奔放さ喧しい言動に加え、先程まで怒りの混じったさっき半分、おふざけ半分の緊張感に些か欠けている空気だったため、突然の沈黙と普段からはとても感じられない前沢自由という打者の強力な圧力に万田は投手として吞まれかけていた。

”シュッ” ”パァン” 

「………ボール」

主審はこれまでと違い少し戸惑った感じでは少し遅れて宣言した。

「あれ?ストライクではないのですね。さっきの感じですと前沢君に対してのみどんな球でもストライクにように感じられたのですが。気のせいだったのでしょうか?」

「間違っていませんよ。ついさっきまでまさにそういう感じでしたから」

「そうなんですか?では何故…」

「吹き飛ばされたんですよ、そいうのは」

(あの兄貴の感じ、完全にガチモードだ。恐らく他の先輩らも気付いてる。そしてそれに呼応するように先輩達もいつの間にか本気モードに切り替わってる。現にさっきまでデットボール気味の球をストライク判定していた審判が普通に判定しているのがその証拠。流石にこの空気の中でまでさっきのおふざけ判定をするつもりは無いようね。けど、それよりも…)

”シュッ” ”パァン” 

「ボール、ボールツー!」

(やっぱり、荒れだした)

(万田先輩のあの苦しそうなそう表情。兄貴のガチオーラに完全に呑まれてさっきまでの余裕が完全に無くなってる)

「くっそ!」

普段の練習どころか試合でだってチャンスみたく限られた時じゃないとそんな風にならないくせに、なんだってこんな身内同士の試合でそこまでスイッチ入ってんだよ!?

「ボール、ボールスリー!」

「はぁはぁ…!」

「万田、肩に力入ってるぞ!」

「お、おう」

た、球が思うようにとんでいかねぇ。何でだ!?俺は今ビビってるってのか?

(明らかに動揺してんな。無理もねえか、守っててもバッターボックスから前沢の圧はヒシヒシ伝わってくるからな。真正面に立って勝負してる万田の感じてるプレッシャーは人一倍だろうな)

ピッチャーの状態を見抜いたキャッチャーは外を構えた

(なるべく外角を狙って投げてくれ。前沢ならボール球にも手を出してくれるかもしれないし、外れたら外れたで構わない。この状態の前沢を相手にするのは分が悪い!)

”フルフル”

(なっ!)

そんなビビんなよ。しっかりミートしきれてるわけじゃねーし、追い込んでんのはこっちなんだからよ。このまま続ければ俺が勝つ!俺があの馬鹿にこれまでのお礼をしてやんよ。今日の分も含めてな。

(手を震わせながら強がりやがって…分かった。それじゃ後輩退治と行こうか)

(喰らえ前沢!これが俺がお前から奪う三振の第一号だ!)

”カキィーーン”

「えっ?」

三振を奪うつもりで緊張の中放ったボールは見事真芯で捉えられ、白球は瞬く間にセンター方向のバックネットへと飛んで行き、由自は淡々とダイヤモンドを回ってベンチへと帰った。万田は打たれたショックからしばらく身動きできずにいた。
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