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第55話 ブーイング

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「というわけでこれから先生に代わって俺が入るから皆んなよろしくな!」

「「いや、全然呑み込めないんだけど」」

中学生ベンチのほとんどメンバーが呆気とられる中、兄の奇行に対し兄妹故の耐性がある程度ついている涼夏と龍介の2人が突然の衝撃で動けない全員の意見を代弁するかのように突っ込んだ。それに対して自由はとても不思議そうな感じできょとんと首を傾げた。

「そんなに難しい内容だったか?至極簡潔にわかりやすく伝えたつもりだったんだが。輝明みたいにジェスチャーがある方が良かったか?」

「いや、伝え方の問題じゃなくてさ。ああ、もう何で言わないとわかんないかな」

「何でそんなにイライラしてるんだ?そんなに力入ってたら良いプレイ出来ないぞ?」

「イライラの元凶は他ならぬ兄貴だけどね。しかも今の発言のせいで絶賛怒りゲージ上昇中なんですけど!?」

「えっと、つまりこの回から前沢君が私達のチームに入る…て事でいいのかな?」

「さっすが百田!俺の事をすぐ理解してくれて嬉しいよ」

「ええっ!?あ、ありがとう?」

「兄貴が思ってるほど絶対ついてこれてないから」

「まあそれはそれとして、とりあえず先生お疲れ様でした!」

「良い体験をさせて貰いましたけどやっぱり慣れない上に普段体を動かしてないから中々大変でしたよ」

「じゃ、俺は打席に行ってくるから」

そう言って自由は自分の言いたい事だけ口にすると早々に打席に向かって行き、ベンチの面々はその後ろ姿を呆然と見つめていた。

「…涼夏、お前知らされてたか?」

「あんたと同じリアクションした時点で気付け。ほんと~に聞かされてないわよ。こんなわけわかめな展開」

「まあ、それはあっちも同じだったみたいだよ」

田辺が若干顔を引きつらせながら指し示したグラウンドの方を見るてみると各守備陣が思いっきり由自のことを睨んでおり、相手ベンチからもそれ類似する並々ならぬ得体の知れない圧力を放っているのが中学生ベンチからも感じ取れた。

その事からも由自が今回の行動を事前に説明もせず土壇場になって必要最低限の事だけ言ってこっちのチームに来たのだろうと薄々理解した。

「よ~し!可愛い後輩の為にもここは一発…」

「「「ウゥーー!!」」」

自由が打席に立った瞬間待ってましたと言わんばかりに敵チームからのブーイングの嵐に襲われ、その中傷はグラウンド全体に響き渡った。

「………同じ部内の仲間へのものとは思えない対応だね」

「まあ、裏切ってこっちに参加したようなもんでしょうからね。ましてさっきあっちは円陣組んで士気を高めたばっかの直後だってんだから尚更水を差されたようなもんだし腹立つでしょうね。ん?」

これ以上ないくらいにまで殺気立ったグラウンドに目を奪われていると突然背後から肩を叩かれて涼夏が振り返ると輝明が一枚の紙を差し出してから百田の方を指差した。気になった周りもその紙を覗き見た。

『打順間違ってませんか?』

「ああ~そういえばさっきの前の回の攻撃は田辺《私》で終わったんだっけ。それなら確かに順番的に次の打者は桃だね」

「さっきの発言の衝撃に加えて兄貴かあまりに自然と打席に向かったものだからすっかり忘れてた」

「でもまあいいんじゃないか?だってほら」

龍介が指差す方向《グラウンド》には『前沢自由絶対潰す!』と言わんばかりに更に殺伐とした空気で満ち満ちており、龍介がなにを言いたいのかすぐに伝わって来た。

「ああ、確かにあれじゃね。あっちも前沢君をご所望だろうし、あの空気に水差すのもね。まあ桃があの空気の中でも打席立ちないなら話は別だけど」

「あはははは。今回は遠慮したい、かな」

(ですよね、普通は。本当に兄貴は良くも悪くもチームに与える影響力が大きいわね…主に悪い方に。ん?)

涼夏が実の兄の在り様に呆れていると再びメモ用紙が手渡された。

『何故先輩方はあのように怒っておられるんですか?』

(え、そこわかんないの?)

「えっと、まああれよ。そう言う事よ」

「そうだな、まあそういう事だ。うん」

(そういう、こと?)

涼夏と龍介はめんどくさそうなの感じがしたため説明は放棄して適当に流して有耶無耶にする事にした。

「けど何で裏からなんだよ?別に次の回からでもいいだろうに。中途半端だな」

「ああ、それは先生がお願いしたんですよ。2回も打席に立つのは体力的にも精神的にキツイので次の打席が回ってきたら代わってくれと」

「はぁ、そうですか。にしても…」

「「ウウゥゥー!」」」

「いつまで続くんだ?このブーイング」

鳴り止みそうにない轟音を前に



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