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第48話 資格(3回裏)
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//|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
――――――――――――――――――――
上級生|3|0|7| |10|
中学生|0|3| |3|
試合状況:7失点の後、3回表終了
「全員ちょっと集まって」
涼夏は3回の守備が守備が終わりベンチに戻ろうとしていた皆を呼び止めた。彼らが自分の周りに集まってからシニア男子それぞれの表情を確認していく。試合前は不安や焦りが色濃く現れていた瞳が今は強い決意と熱意のこもったプレイヤーの目になっている事が伺えてほくそ笑んだ。
「うん、みんな試合前より断然良い表情になった。これなら心配いらなさそうね。剣崎先輩は確かに去年にまでと比べて球速もアップしたし変化球も良くなったわ。だけどあんたらが本来の力をだせれば普通に捉えきれるし全然攻略出来る投手よ。さあ、この回の攻撃で巻き返すわよ!」
「「「おおぉー!!」」
チーム全体の士気を上げてこの回先頭の2番打者、笹井が今日一番の気合いで打席に入った。
(まだ終わりじゃない!こっからでもやれるって証明する為にも絶対打つ!)
「お願いしますっ!」
(さっきまでとは打席での感じが大分違うな。緊張で何処かぎこちなく緊張感に欠けてたけど一打席目と違って相当気合い入ってんな。だけど少し力入り過ぎかな?)
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク!」
「高いぞ!ボールよく見ろ」
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク、ツー!」
「ちぇ、チェンジアップ!」
「一球目はストレートで高めに外し、二球目は外にチェンジアップ。打ち気に逸る笹井の狙いをことごとく外すリードしてるわね。こうなると三球目は…」
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク!バッターアウト」
「クッソォー!」
三振した悔しさから笹井はバットをベースに叩きつけ、それを近くのネクストサークルから見ていた次打者の梁間は打席に向かう途中ですれ違い様に無言で優しく彼の肩を叩き、先程よりもバットを強く握り締めながら打席へと入った。
「アウトコースから外に逃げるスライダー。上手い事振らされたわね。だけどあそこまで悔し我れるのはがむしゃらにに打ちにいった証拠。良い傾向だけどこのままこの回を三人で終わるわけにはいかないわ。梁間!」
≪球種は問わないから2ストライクまでは低めを捨てて高めのボールをぶっ叩け≫
≪了解≫
(先頭が出塁できなかったのは確かに痛い。けど…)
”カキ―ン”
梁間は指示通り高めに浮いた初球のストレートを引っ張りレフト線破って二塁打とした。
「ナイバッチ梁間!」
(関係ねえよ。後の俺らが打ちさえすれば。後は頼んだぞ、龍介)
俺の送球ミスと捕れなかった事によって広がった失点。絶対ここで打って挽回する。打って必ず俺の手でホームに返す!俺がやるんだ!俺がやらなきゃ…
「………」
打席に入って隆介の構えを見た瞬間に叫んで彼が振り向いた直後サインを送った。しかしそのサインに納得のいかなかった隆介はすぐさまタイムを取って涼夏のいるネクストサークルに怒りの表情を露にしながら駆け寄った。
「おい!なんださっきのサインは!?」
「不満?」
「当たり前だろう!何で6点ビハインド、1ナウト二塁のこの場面で俺への指示が送りバントなんだよ!?」
「あんたがさっきの打席以上にガチガチの構えしてるから空振り三振か内野フライでアウトになる未来しか見えなかったからよ」
「!」
「さっきの打席も力入り過ぎって言ったでしょう。自分のミスを自分のバットで取り返す。その心意気は伝わって来るけど力みまくったそんな状態じゃ一打席の目の時と同じ結果になるわよ」
「………っ」
「そもそも何で今日はそんなに打ちたいの?」
「何でってそりゃ………」
「ふ、ミスの帳消し以外にもあるんでしょう?だったらその気持ちはスイングの時まで抑えてなさい。ちゃんとボールを見極められば打てるだろうから」
「そうだな。ありが…」
「まあ、例えまた情けなく凡退したとしてもお姉ちゃんが尻拭いしてあ・げ・る。だからあんたな~んも心配せずバット振ってきなさいな」
「くぅんのヤロウ~こっちが黙って聞いてれば上から目線で語りやがって。うっせんだよ愚妹!ぶっ飛ばしてくるから黙って見てやがれ!」
「はいは~い、期待しないで準備しとくわ」
「ったく、激励しながらからかってくんなよ」
(まったく、本当に世話がやけるわね。私が手助け出来るのはここまでなんだからね?後はあんた自身の手で越えて行くしかないわよ)
涼夏は龍介が背中を見せた直後からおちゃらけた表情から一変、期待と不安が入り混じった目で打席向かう彼を見つめていた。愚痴を吐きながらもゆっくり息を吐いて自然体の状態でバッターボックスに入る隆介。
(さっきと比べると余分な肩の力が抜けてるように見えるけど、スイングの方はどうかな?)
『そもそも何で今日はそんなに打ちたいの?』
『ふ、ミスの帳消し以外にもあるんでしょう?』
そうだよ!この打席だけは絶対打たなきゃなんねーんだよ!『使えない投手』試合始める前にあいつに抱いていた印象はそんな感じだった。球種はストレートのみで球速も特別速いわけでもなくこんな奴をリードしないといけないのかと完全に見下していた。
そして試合始まってすぐに連打を浴びて俺はそれらを全部投手のせいにしようとした。
けどあの愚妹に諭されてようやく気付いた。悪いのはあいつではなく俺なのだと。悔しいがあいつに諭されてちゃんとリードするようにしてからあいつはちゃんと後続を抑えて初回を3失点のまま凌いだ。
さっきの攻撃だって怒りで先輩つっかかっていた俺と違ってあんな判定されたのに冷静で、見方のエラーと不運な当たりで7失点もしてるのにピッチングを乱すことなく淡々と俺の要求に応え続けた。
だからこそ俺はこの打席でミスをした選手としてではなくキャッチャーとしてここで打たなくちゃいけねえ。それが出来なきゃ俺は今後あいつの球を受ける資格が無いって事になるんだ!
”カキィーーン!!”
真ん中高めを捉えた打球はぐんぐんと飛距離を伸ばしてレフトネット上段へに当たるホームランとなった。その当たりに本人は勿論ベンチのチームメイトも盛り上がり歓声を挙げた。そしてベースを回って帰って来た彼を軽く叩きながらその喜びを分かち合うのだった。
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上級生|3|0|7| |10|
中学生|0|3| |3|
試合状況:7失点の後、3回表終了
「全員ちょっと集まって」
涼夏は3回の守備が守備が終わりベンチに戻ろうとしていた皆を呼び止めた。彼らが自分の周りに集まってからシニア男子それぞれの表情を確認していく。試合前は不安や焦りが色濃く現れていた瞳が今は強い決意と熱意のこもったプレイヤーの目になっている事が伺えてほくそ笑んだ。
「うん、みんな試合前より断然良い表情になった。これなら心配いらなさそうね。剣崎先輩は確かに去年にまでと比べて球速もアップしたし変化球も良くなったわ。だけどあんたらが本来の力をだせれば普通に捉えきれるし全然攻略出来る投手よ。さあ、この回の攻撃で巻き返すわよ!」
「「「おおぉー!!」」
チーム全体の士気を上げてこの回先頭の2番打者、笹井が今日一番の気合いで打席に入った。
(まだ終わりじゃない!こっからでもやれるって証明する為にも絶対打つ!)
「お願いしますっ!」
(さっきまでとは打席での感じが大分違うな。緊張で何処かぎこちなく緊張感に欠けてたけど一打席目と違って相当気合い入ってんな。だけど少し力入り過ぎかな?)
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク!」
「高いぞ!ボールよく見ろ」
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク、ツー!」
「ちぇ、チェンジアップ!」
「一球目はストレートで高めに外し、二球目は外にチェンジアップ。打ち気に逸る笹井の狙いをことごとく外すリードしてるわね。こうなると三球目は…」
”シュッ” ”ブン”
「ストライーク!バッターアウト」
「クッソォー!」
三振した悔しさから笹井はバットをベースに叩きつけ、それを近くのネクストサークルから見ていた次打者の梁間は打席に向かう途中ですれ違い様に無言で優しく彼の肩を叩き、先程よりもバットを強く握り締めながら打席へと入った。
「アウトコースから外に逃げるスライダー。上手い事振らされたわね。だけどあそこまで悔し我れるのはがむしゃらにに打ちにいった証拠。良い傾向だけどこのままこの回を三人で終わるわけにはいかないわ。梁間!」
≪球種は問わないから2ストライクまでは低めを捨てて高めのボールをぶっ叩け≫
≪了解≫
(先頭が出塁できなかったのは確かに痛い。けど…)
”カキ―ン”
梁間は指示通り高めに浮いた初球のストレートを引っ張りレフト線破って二塁打とした。
「ナイバッチ梁間!」
(関係ねえよ。後の俺らが打ちさえすれば。後は頼んだぞ、龍介)
俺の送球ミスと捕れなかった事によって広がった失点。絶対ここで打って挽回する。打って必ず俺の手でホームに返す!俺がやるんだ!俺がやらなきゃ…
「………」
打席に入って隆介の構えを見た瞬間に叫んで彼が振り向いた直後サインを送った。しかしそのサインに納得のいかなかった隆介はすぐさまタイムを取って涼夏のいるネクストサークルに怒りの表情を露にしながら駆け寄った。
「おい!なんださっきのサインは!?」
「不満?」
「当たり前だろう!何で6点ビハインド、1ナウト二塁のこの場面で俺への指示が送りバントなんだよ!?」
「あんたがさっきの打席以上にガチガチの構えしてるから空振り三振か内野フライでアウトになる未来しか見えなかったからよ」
「!」
「さっきの打席も力入り過ぎって言ったでしょう。自分のミスを自分のバットで取り返す。その心意気は伝わって来るけど力みまくったそんな状態じゃ一打席の目の時と同じ結果になるわよ」
「………っ」
「そもそも何で今日はそんなに打ちたいの?」
「何でってそりゃ………」
「ふ、ミスの帳消し以外にもあるんでしょう?だったらその気持ちはスイングの時まで抑えてなさい。ちゃんとボールを見極められば打てるだろうから」
「そうだな。ありが…」
「まあ、例えまた情けなく凡退したとしてもお姉ちゃんが尻拭いしてあ・げ・る。だからあんたな~んも心配せずバット振ってきなさいな」
「くぅんのヤロウ~こっちが黙って聞いてれば上から目線で語りやがって。うっせんだよ愚妹!ぶっ飛ばしてくるから黙って見てやがれ!」
「はいは~い、期待しないで準備しとくわ」
「ったく、激励しながらからかってくんなよ」
(まったく、本当に世話がやけるわね。私が手助け出来るのはここまでなんだからね?後はあんた自身の手で越えて行くしかないわよ)
涼夏は龍介が背中を見せた直後からおちゃらけた表情から一変、期待と不安が入り混じった目で打席向かう彼を見つめていた。愚痴を吐きながらもゆっくり息を吐いて自然体の状態でバッターボックスに入る隆介。
(さっきと比べると余分な肩の力が抜けてるように見えるけど、スイングの方はどうかな?)
『そもそも何で今日はそんなに打ちたいの?』
『ふ、ミスの帳消し以外にもあるんでしょう?』
そうだよ!この打席だけは絶対打たなきゃなんねーんだよ!『使えない投手』試合始める前にあいつに抱いていた印象はそんな感じだった。球種はストレートのみで球速も特別速いわけでもなくこんな奴をリードしないといけないのかと完全に見下していた。
そして試合始まってすぐに連打を浴びて俺はそれらを全部投手のせいにしようとした。
けどあの愚妹に諭されてようやく気付いた。悪いのはあいつではなく俺なのだと。悔しいがあいつに諭されてちゃんとリードするようにしてからあいつはちゃんと後続を抑えて初回を3失点のまま凌いだ。
さっきの攻撃だって怒りで先輩つっかかっていた俺と違ってあんな判定されたのに冷静で、見方のエラーと不運な当たりで7失点もしてるのにピッチングを乱すことなく淡々と俺の要求に応え続けた。
だからこそ俺はこの打席でミスをした選手としてではなくキャッチャーとしてここで打たなくちゃいけねえ。それが出来なきゃ俺は今後あいつの球を受ける資格が無いって事になるんだ!
”カキィーーン!!”
真ん中高めを捉えた打球はぐんぐんと飛距離を伸ばしてレフトネット上段へに当たるホームランとなった。その当たりに本人は勿論ベンチのチームメイトも盛り上がり歓声を挙げた。そしてベースを回って帰って来た彼を軽く叩きながらその喜びを分かち合うのだった。
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