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第41話 アウトと失点の優先順位

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 ///|1|2|3|4|5|6|7|8|9|計
 ――――――――――――――――――
 上級生|3|0|2                               5
 中学生|0|3|                                 3
 試合状況:捕手の後逸によりランナー二人生還し上級生2点追加。無死・二、三塁となった。

「いや~際どかったね今のプレイ」

「捕れなかったとはいえグローブには当ててたし本当に紙一重の勝負だったな。しかも僅かな差と反比例するかのような結果がなぁ」

「だよね。片や二死・ニ、三塁で後一歩なのと片や二失点した上に無死・二、三塁で更に1、2失点覚悟しないといけない大ピンチ継続中の状況とか天と地ほど違うもんね」

「正直ああいう状況下での気持ちって痛い程よく分かるから同情せずにいられないんだけど」

「みんなチョコチョコエラーするもんね。だけど試合中だから彼らの為に涙を飲んで嫌われるつもりで後輩をイジメよう!」

(((笑顔で嫌な事平然といいやがるなコイツ)))

【バッター8番・森村】

「ボール!」

 チィ!またスクイズ。しかも今度は構えだけかよ。仮にも高校生の先輩っていう上の立ち位置なんだからこんなせこいバント攻めなんかせずに普通に打って来いってんだよ!…いや、今はそんな事よりも…

 龍介は再びマウンドへ

「悪い赤坂、さっき言ったのは撤回する。今度からは相手がスクイズの構えをしてても外さなくていい」

(つまりそれって…)

「バントの成功率が不確かな相手に警戒し過ぎても良くないし、それにぶっちゃけ相手にスクイズ決められて点差付けられるよりも無理に外させようとしてピッチングのリズムが崩れる方が怖え。とにかく決められたら決められたでしょうがねー。そこは割り切ってこのアウト3つ取って回を終わらせることだけに集中しよう」

 ”コク”

 赤坂にああ言ったけどやっぱ得点防げるならそれが一番だからな。サード、突っ込めよ!

(了解)

 ”パァン”

「ストライーク!」

「今度は構えに釣られず入れてきたな。けど次はどうかな?」

 ”パァン”

「ストライーク、ツー!」

「連続で入れてきたか。だったら…」

(ヒッティング、だよな。正直スクイズ成功させるとか俺には無理。特にこうもグイグイとインハイ攻めされちゃボールを上げないようにピッチャー前に転がすのがやっとだもんな)

 これで決める!

 ”シュッ” ”キーン”

 輝明が投じた三球目。バッターはボールの上を叩いてしまい打ち損ね、打球はサード方向へと飛んだ。

 スクイズは捨ててヒッティングに切り替えてきたか。だけど当てただけだの打球だ。これならサードが打ち取って…

 打ち取ってようやくワンナウト、そう思っていた。しかし打球はバウンドして前に出ていたサードの頭を超えてしまった。これによってレフト線長打コースとなってしまいランナー二人が帰って2失点。更にレフトの送球が乱れバッター三塁へと進んだ。

 前進守備でなければ定位置で捕れていてアウトに出来たんだが。討ち取っていた打球なだけに…クソっ!駄目だ、切り替えねーと。次のバッターは特に要注意の…

【バッター9番・剣崎】

 控え中心で組まれている中でピッチャーとして最初からこの試合で出場している入っているレギュラーで俺らのシニアの先輩。特殊なチーム事情で6番に入ってるけど打力・実力共に実質クリナップの選手。今回9番なのはピッチャーだからとかじゃなく他の先輩らがこの試合のメインがだからだろうな。

(やべ~どうしよう、回ってきちゃたよ。この状況だと流石に打ちたくないな~。けどさっきスルーしてしまったからな)

 さっきの打席は一巡目で様子してたからかあっさり打ち取れたけど流石に今度はそう上手くいかないよな。けどもしかしたら調子を崩してる可能性もあるかもしれねぇ。

(前の打席はバッテリーがいい感じに繋がり始めて立て直してきたように見えたからつい棒立ちカカシしちゃったからこの打席はきっちり打つつもりでいたんだけどこの状況だとマジでバット振りたくないな。けど…)

 "ジィーーッ"

(自由の奴がここぞとばかりヤレヤレ光線ぶつけて睨んでくるよ。はいはい、今度は手を抜いてわざと三振しませんよ。けどできるなら…)

 ノーアウト・ニ、三塁。現時点でのこの打線で一番力のあるこの人にスクイズのサインは普通無い。だけどこれまでチーム全体で色々と揺さぶってきている。ここは万が一に備えてインハイから…

 龍介がそう考えた刹那、その思考を追い払うかのようなや頭を振った。

 頭冷やせ!3対3で同点に追いついたのに辛いジャッジにエラー、アンラッキーが絡んで4失点。確かにこれ以上点はやりたくないが相手は強打者の剣崎先輩。スクイズ気にしてインハイばっか攻め続けたら初回同様狙われて剣崎先輩だとツーラン喰らう可能性があるし、そっちの方がよっぽど怖い。

 それにもしスクイズなら失点はしたとしてもアウト一つ貰えるんだ。未だノーアウでのサードランナー。どうしたって失点する確率の方が高いんだ。それなら失点してでもこの人でアウト貰える方が良い筈だ。それにそうなればワンナウトランナー無しで次に繋げ難い…よしっ!

 ≪ストレートをアウトロー≫

 スクイズだと仮定しさせていいのならやりづらいインハイより一塁側に転がせて易いこの方が良い筈だ。成功なら1失点と引き換えに剣崎先輩のアウトと三塁ランナー帰還によりランナー無しの状況。逆にこっちがスクイズ成功させないようインハイ投げてくるのを予想してヒッティングでインハイ狙いなら外に投げてれば安全だ!

 ”シュッ” ”パァン”

「ストライーク!」

(動きは無しか…もう一球)

 ”シュッ” ”パァン”

「ストライーク、ツー!」

 追い込んだけど二球とも動き無し。これは多分スクイズないな。

(できればフォアボール期待してたんけど。俺の精神的負担軽減の為に。けど縛られたゾーンの範囲を把握された後だとあのピッチャーが四球になる可能性はやっぱないか…)

 それなら問題は次の一球。思い切って内角に入れよう。飛ぶ先がセンター涼夏なら飛距離と返球次第では外野フライからのホームアウトでゲッツー捕れる。

 ”シュッ” ”カキ―ン”

 打たれた!けど詰まってる。

(やべ、犠牲フライで留めるつもりが思ったより伸びた。この弾道だと多分…)

「レフトォーー!!」

(くっ捕れるかどうか微妙だ。けどさっき俺の送球が乱れたせいで三塁打にしてしまった。あそこをアウトに出来ていればバッテリーにかかる負担んも違った筈だ。だからこれはアウトにしたい!それに…)

 レフトの鎌田が振り向くとセンターからこちらに走って来る涼夏の姿が目に入った。

(涼夏が俺が打球に突っ込めるようにフォローに来てる。しかも俺に向かって。多分バックホームに備えての事だよな?それならここで思いっ切って…)

鎌田そう思った刹那、過去の試合の似たような場面で突っ込んで捕り損なった事が脳裏にフラッシュバックされ、一瞬足がすくんで足取りが重くなった。

(思い出すな!今はただ目の前のボールを…)

 恐怖心を振り払いながら懸命に食らい付こうとした。しかし僅かにグラブが届かずに打球は落ちて彼の後方へ。涼夏は急いで打球を追うも打った剣崎は二塁へ。そして当然三塁ランナーは帰還して一点。これで3対8へと差が広がってしまった。

 これにやってしまったと言わんばかりにレフトの鎌田は思わず俯いてしまう程のダメージを受けていた。

「涼夏…悪い」

「悪いって何が?」

「えっ?」

「今の状況を何とかしたくて突っ込んだんでしょう?判断難しい打球だったし今のは仕方ない。それにミスした後なのに縮こまらず挽回しようと駄目だったんならしょうがないよ。寧ろ弱気にならずによく前に出たよ」

「…涼夏」

「私もそれが良いと思ったし、出来たらきっと流れを変えられてただろうけど失敗したものは切り替えるしかないよ。引きずられる方がアタシは嫌。よく知ってるでしょう?それに…」

「レフトォー!今のは気にせず切り替えろよ!」

「ほらね。龍介《あいつ》もああ言ってるんだから轢きづらずに前向きなさいよ!」

「…そうだな」

(とはいえ本当に紙一重だった。この回だけでもう5失点もしちゃったし守る側は勿論、バッテリーとしては精神的にはかなりしんどい筈。声を掛ける余裕はまだあるみたいだけどこのまま試合が進むようだと…)

 まるで泥沼に沈んで行っているような状況に涼夏含めチームのほとんどが拭えぬ不安にハマりかけていた。


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