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第36話 まさかの…
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~数日前~
「なあ、お前も打席に立ってみたらどうだ?」
龍介にそう言われてから一瞬だけ涼夏の方を見てから首を横に振った。
「いいじゃん、私もあんだがどれくらいバッティングできるのか知りたいし。一打席勝負しましょうよ」
これまで練習とかで色々勝負してきて負け越してるからね。ここいらで私の得意分野で勝ち星を稼がせてもらおうかしら
(勝負。やっぱり競おうとしているのかな?けど…)
別に明確に勝負しているわけではないのだが最初に輝明に三振させられた辺りから涼夏が一方的にライバル視して意識していた。
「それとも私と勝負するのが怖いのかしら」
流石にこいつでもこんな風に、それも女子に言われれば嫌でもプライドが刺激されて…
涼夏はこれまでの経験から確信に近い思いを抱いて挑発交じりに言ってのけたものだったが輝明はそんな彼女の言葉を肯定する様に頷いた。
「へっ?ちょっ…」
「おいおい、見た目通りチキンすぎだろ」
輝明の行動が心底腰抜けに見えた龍介すけは馬鹿にする様にケラケラと笑っていたが涼夏の方は寧ろ対戦を逃げ出そうとしている姿勢に呆れではなく怒りを募らせた。
何で今回に限ってそんな思いっきり逃げ腰なのよ!いつもはもっと平然と眼中にすらないって感じだったくせに!
「っ!い、いいから勝負しなさい!苦手とかなら尚更練習しないといつまでたっても下手なままでしょうが!?ほら、とっと準備する!」」
涼夏が強引にまくし立てて輝明も渋々といった感じでバットを持って打席に立った。
「せめてバットにくらいは当ててくれよ?」
龍介は小馬鹿にするように輝明を煽るが当の本人はチラッと見ただけで特にこれといった反応を示すことなく前の方に向き直った。
(けっ!だんまりかよ)
そんなこんなで涼夏が投手で輝明が打者として初の対決となった。しかし結果はなにも起こらず輝明の三球三振で終わった。
「ちょ、ちょっと!何でなにもしないのよ?」
(あれ?何で怒っているんだろう?僕が負けて前沢さんが勝ったのに…)
「これじゃ本当にカカシだな」
再びケラケラと輝明を馬鹿にする龍介と違って涼夏の感情は怒りに満ちていた。普段であれば今まで負け越していたの相手に三球三振《完全勝利》した事で嬉々としてガッツポーズしている挑発交じりの台詞の一つでも口にしているところだが今回は勝手が違った。
涼夏は勝手ながら輝明を上手いプレイヤーだと思い込んでいた。低身長というハンデこそ抱えているものの一つ上の先輩に当たる剣崎の様ななんでもこなせる様なオールラウンダーの様な存在なのだろうと。
当然彼の全てを知る由もない涼夏のその評価は勝手なものにすぎないが、最初の対戦で圧倒的な制球力を見せつけられてから同じ投手として輝明にライバル意識を燃やして観察したり練習で事ある毎に張り合うようになった。そしてその過程で基礎体力なのどのスペックの高さを見せつけられてきた事と他者には独特な感じから涼夏は赤坂輝明にそういったイメージを抱かせていた。
先程も言った通り全てのプレイを見ていない以上そのイメージ自体は彼女の勝手な想像にすぎないが、目の前で三振を奪っても『な~んだ、こんなもんだったのか』といった感じで肩透かしを食らって落胆出来ない理由があった。それは彼が、赤坂輝明が真剣に勝負しているように見えなかった事。
「もう一回!今度はちゃんとバット振りなさいよ!」
これまでも一方的に吹っ掛けた勝負でこちらを見ていないような事は多々あったけど、その時は私の事を特に気にする事もなく彼が自分のペースで無言で私を追い越して行っていた。競い合っていたと言えるか微妙だが少なくとも練習に手を抜いている様子はなかった。しかし今回はそもそも私を避けているようにすら感じる。
前向きに捉えるのであればそれは赤坂が私の存在を認識するようになり意識しだしたという事。それはそれで嬉しい事と言えなくない。けど…三振を奪った筈なのにまるでそんな気になれない。それは単に目の前の人物が全く私を相手にしようとしていないから。それは涼夏《私》にとって敗北よりも許せない事だ。
「今度は絶対打ちなさいよね!」
「投手が直接対峙する打者に応援《エール》って…くっくっく。ここまでくると笑いが止まらねえな」
こうして再度勝負する事となったが今度は全てに手を出したもののかすることなく空振り三振。その後も何度か輝明を打席に立たせて勝負したが結果は変わらず輝明は一球もかすることなく負け続ける結果となった。しかしその頃から今までにない彼の異変から涼夏にの心にモヤモヤとしてなんとも言えない感情が渦巻くようになった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「お前が言ってた通り転がせばなんか起きるかもしれないけど、そもそもあいつがバットにボールを当ててくれないと何も起きないから話にならない…」
”カキィー―ン”
龍介の言葉はその日一番の快音を響かせた打球音に遮られた。高く上がった打球は綺麗な放物線を描いて反対側の数メートル高い位置のネットにまで到達し、ホームランとなった。
「「「………」」」
本来であれば野球というゲームの中で一番盛り上がる瞬間と言って過言ではないホームラン。しかしこの時は誰もこんな事になるとは思っていなかったのもあって盛り上がることすら出来ない程驚きで一杯だった。練習でまともにバットにボール当てたところすら見た事の無かった涼夏や龍介ら新入生は勿論、助っ人としている田辺や百田、先生ですら輝明が低身長だった事もありそんな打球を飛ばせると思っていなかったので衝撃的で、彼の打順が9番に位置していたのも打撃力の低さを思わせていたのもあって余計驚きに拍車を掛けていた。
そして輝明がグラウンドのダイヤモンドを回る中で誰一人声を出せず、彼がベンチへと戻って皆ようやく我に返ったが衝撃でしばらく声が出なかった。その後のバッターは討ち取られたものの、この回中学生チームは輝明のツーランホームランを含め一挙3得点を挙げ、同点へと追いついたのだった。
「なあ、お前も打席に立ってみたらどうだ?」
龍介にそう言われてから一瞬だけ涼夏の方を見てから首を横に振った。
「いいじゃん、私もあんだがどれくらいバッティングできるのか知りたいし。一打席勝負しましょうよ」
これまで練習とかで色々勝負してきて負け越してるからね。ここいらで私の得意分野で勝ち星を稼がせてもらおうかしら
(勝負。やっぱり競おうとしているのかな?けど…)
別に明確に勝負しているわけではないのだが最初に輝明に三振させられた辺りから涼夏が一方的にライバル視して意識していた。
「それとも私と勝負するのが怖いのかしら」
流石にこいつでもこんな風に、それも女子に言われれば嫌でもプライドが刺激されて…
涼夏はこれまでの経験から確信に近い思いを抱いて挑発交じりに言ってのけたものだったが輝明はそんな彼女の言葉を肯定する様に頷いた。
「へっ?ちょっ…」
「おいおい、見た目通りチキンすぎだろ」
輝明の行動が心底腰抜けに見えた龍介すけは馬鹿にする様にケラケラと笑っていたが涼夏の方は寧ろ対戦を逃げ出そうとしている姿勢に呆れではなく怒りを募らせた。
何で今回に限ってそんな思いっきり逃げ腰なのよ!いつもはもっと平然と眼中にすらないって感じだったくせに!
「っ!い、いいから勝負しなさい!苦手とかなら尚更練習しないといつまでたっても下手なままでしょうが!?ほら、とっと準備する!」」
涼夏が強引にまくし立てて輝明も渋々といった感じでバットを持って打席に立った。
「せめてバットにくらいは当ててくれよ?」
龍介は小馬鹿にするように輝明を煽るが当の本人はチラッと見ただけで特にこれといった反応を示すことなく前の方に向き直った。
(けっ!だんまりかよ)
そんなこんなで涼夏が投手で輝明が打者として初の対決となった。しかし結果はなにも起こらず輝明の三球三振で終わった。
「ちょ、ちょっと!何でなにもしないのよ?」
(あれ?何で怒っているんだろう?僕が負けて前沢さんが勝ったのに…)
「これじゃ本当にカカシだな」
再びケラケラと輝明を馬鹿にする龍介と違って涼夏の感情は怒りに満ちていた。普段であれば今まで負け越していたの相手に三球三振《完全勝利》した事で嬉々としてガッツポーズしている挑発交じりの台詞の一つでも口にしているところだが今回は勝手が違った。
涼夏は勝手ながら輝明を上手いプレイヤーだと思い込んでいた。低身長というハンデこそ抱えているものの一つ上の先輩に当たる剣崎の様ななんでもこなせる様なオールラウンダーの様な存在なのだろうと。
当然彼の全てを知る由もない涼夏のその評価は勝手なものにすぎないが、最初の対戦で圧倒的な制球力を見せつけられてから同じ投手として輝明にライバル意識を燃やして観察したり練習で事ある毎に張り合うようになった。そしてその過程で基礎体力なのどのスペックの高さを見せつけられてきた事と他者には独特な感じから涼夏は赤坂輝明にそういったイメージを抱かせていた。
先程も言った通り全てのプレイを見ていない以上そのイメージ自体は彼女の勝手な想像にすぎないが、目の前で三振を奪っても『な~んだ、こんなもんだったのか』といった感じで肩透かしを食らって落胆出来ない理由があった。それは彼が、赤坂輝明が真剣に勝負しているように見えなかった事。
「もう一回!今度はちゃんとバット振りなさいよ!」
これまでも一方的に吹っ掛けた勝負でこちらを見ていないような事は多々あったけど、その時は私の事を特に気にする事もなく彼が自分のペースで無言で私を追い越して行っていた。競い合っていたと言えるか微妙だが少なくとも練習に手を抜いている様子はなかった。しかし今回はそもそも私を避けているようにすら感じる。
前向きに捉えるのであればそれは赤坂が私の存在を認識するようになり意識しだしたという事。それはそれで嬉しい事と言えなくない。けど…三振を奪った筈なのにまるでそんな気になれない。それは単に目の前の人物が全く私を相手にしようとしていないから。それは涼夏《私》にとって敗北よりも許せない事だ。
「今度は絶対打ちなさいよね!」
「投手が直接対峙する打者に応援《エール》って…くっくっく。ここまでくると笑いが止まらねえな」
こうして再度勝負する事となったが今度は全てに手を出したもののかすることなく空振り三振。その後も何度か輝明を打席に立たせて勝負したが結果は変わらず輝明は一球もかすることなく負け続ける結果となった。しかしその頃から今までにない彼の異変から涼夏にの心にモヤモヤとしてなんとも言えない感情が渦巻くようになった。
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「お前が言ってた通り転がせばなんか起きるかもしれないけど、そもそもあいつがバットにボールを当ててくれないと何も起きないから話にならない…」
”カキィー―ン”
龍介の言葉はその日一番の快音を響かせた打球音に遮られた。高く上がった打球は綺麗な放物線を描いて反対側の数メートル高い位置のネットにまで到達し、ホームランとなった。
「「「………」」」
本来であれば野球というゲームの中で一番盛り上がる瞬間と言って過言ではないホームラン。しかしこの時は誰もこんな事になるとは思っていなかったのもあって盛り上がることすら出来ない程驚きで一杯だった。練習でまともにバットにボール当てたところすら見た事の無かった涼夏や龍介ら新入生は勿論、助っ人としている田辺や百田、先生ですら輝明が低身長だった事もありそんな打球を飛ばせると思っていなかったので衝撃的で、彼の打順が9番に位置していたのも打撃力の低さを思わせていたのもあって余計驚きに拍車を掛けていた。
そして輝明がグラウンドのダイヤモンドを回る中で誰一人声を出せず、彼がベンチへと戻って皆ようやく我に返ったが衝撃でしばらく声が出なかった。その後のバッターは討ち取られたものの、この回中学生チームは輝明のツーランホームランを含め一挙3得点を挙げ、同点へと追いついたのだった。
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