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第32話 歓迎試合

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 ――――――――――――――――――
 上級生|3
 中学生|

ランナー2塁の状況でライトへと打球が飛びランナーが還ってた事で上級生チームのリードは3点へと広がった。そして試合開始から失点を重ね続けている現状に龍介は捕手として怒りを募らせていた。

(やっぱりあいつじゃ全然駄目じゃねーか!こんなんでどうしろってんだよ!)

「タイム!」

龍介が初回から打たれ続ける現状を嘆いていると見兼ねた涼夏かが彼の下までやって来た。

「ちょっとなにやってんのよあんた。ちゃんとしっかりしなさいよ!初回からボロボロじゃない」

「仕方ねーだろピッチャーがアイツじゃ。中学出たばかりにしてはそこまで遅いわけじゃねーけど球速精々120km程度。しかも変化球無しのストレートオンリー。こんなんで控えとはいえ高校球児の先輩らを抑えられるわけねーだろ!」

「…つまりこれまでに取られた3失点は全てピッチャーが原因で俺は一切悪くないと?」

「そうだよ!」

「…はぁ~」

「な、何だよ」

「代わって」

「は?ああ、お前が投げんのか。それなら少しはマシに…」

「違うわよわ。捕手《あんた》に代われっていったのよ」

「は?…い、いやなんでこの状況でポジションチェンジするのが俺なんだよ!?ここはどう考えてもあの使えない投手《やつ》を交代させるべきだろうが!?」

「私からしたらあんたの言う《《赤坂輝明《使えない奴》よりも前沢龍介《あんたの方》が価値が無いから代われって言ったのよ》》」

「俺のどこがあいつより劣ってるって言うんだよ!」

「あんたさ、人に文句付けられるほど今日仕事したの?」

「はぁ!?そりゃどういう意味だよ?」

「どうもこうもそのままの意味よ。現段階で今日のあんたのキャッチャーとしての仕事ぶりは最低だって言ってんのよ」

「なっ!そこまで言われる程の事なんか…」

「ビビッて外ばっか構えるわ、ランナー居るの忘れて無警戒で膝付いたまま捕球なんかするから簡単に盗塁ゆるすわ、野手陣はおろか連打喰らってる投手に声の一つも掛けようとしない。そんなあんたに人をどうこう言う権利無いと思うけど?」

「っ!…け、けどこうなった原因はやっぱりアイツのピッチングが…」

「はっきり言われないと分かんない?外というよりインローばかりにしか要求しない凝り固まったリードとも呼べない逃げ腰の要求が見切られて、先輩たちに狙われて打たれてるって言ってんのよ。あんたこの試合他のコースには一回も構えてないでしょうが」

「!」

「それに他の連中だって動きは固いし、打球への反応も遅れてる。少なくとも私が見たシニアの試合の時の方がもっと動けてたわよ」

「し、仕方ないだろう!試合するの告げられたの昨日だったし、皆試合感覚遠開いてるから実践からはほど遠いんだし、多少動きが悪いのは…」

「ええ、それは分かってる。だからそれらを責める気は無い。けどそういった守備の状態や調子を試合中にちゃんと把握しているキャッチャーであれば『打たれたのが全てピッチャーのせい』だなんて責任転嫁はしないと思うけどね」

「…っ」

「それに仮にピッチングがダメダメだったとしてもそれ以外に目を向けるとあいつはきっちり役目を果たしてるわよ。ランナーを忘れずちゃんと牽制入れてるし、バント処理も早くてセカンドのベースカバーがもっと早かったら二塁でアウトに出来てその後の3失点の内の一点は取られずに済んだ。ライト前のヒットを打たれた後もホームへのベースカバーに入ってた。少なくともあいつはあんたよりプレーは落ち着いてるし、制球の乱れは特になかったわよ。ここまで聞いてもあんたは失点は全部アイツのせいだって言うつもり?」

「いや…」

「そう、ならいいわ。まあそれは別にして…ちょっと新入生全員集合!」

涼夏は外野にまではっきりと聞こえるように声を響かせた。そして状況はわからないが彼らはとりあえず彼女らの元に集まろうとした。

「遅い!試合中なんだからダッシュでとっと来なさい!」

あまりゆったりとした集まり方に怒った涼夏がゲキを飛ばし、そんな彼女の様子を見てまずいと思った面々は急いで彼女近く集合した。

「あんたらさ、久々の実践だろうから上手く動けないのは仕方ないけど、こんだけ連打喰らってんだからピッチャーに声の一つくらい掛けて鼓舞するくらいしなさいよ」

「「「す、すいません」」」

「…気合い入れてあげるから全員後ろ向いて」

”バチーン!”

「イッテェ―!」

”バチーン!” ”バチーン!” ”バチーン!”

「「「~っ!」」」

最初に行われた龍介を筆頭に背にした新入生の男子の背中を一人一人力の限り思いっきり叩いて行き、風船が割れた時のように響く破裂音に傍観していた者達は叩かれた彼らに哀れみの視線を向けていた。

「ラスト!」

「………」

最後に輝明の番となったが振り上げたが、何かを考える素振りをした後に結局音を鳴らすことなく振り下ろされた。

「さあ、行ってきなさい!」

「ちょっ!助っ人の先輩や先生はともかく何でこいつだけスルーなんだよ!流石に贔屓だろ」

「こいつを叩くかどうかは今後のピッチング次第よ」

「チィ、そうかよ」

「ああそうだ、龍介ちょっと」

「…まだなんか文句あんのかよ」

「そんなんじゃないわよ。いい、次からサインに混ぜなさい」

そういうと涼夏は手でOKマークを作った
「なんだそれ?」

「受ければすぐわかる筈よ。サインの意味も、あいつがどんな投手なのかもね。取りあえずもっとインコース抉ったり対角線使ったりしていきなさい」

「………分かった」

それぞれがグラウンドの定位置へと戻りプレイが再開された。

「さあこれからしっかり押さえていこう」

「ピッチャー打たせろ」

 龍介は言われた通りOKマークをサインに混ぜてインコースに構えた。

『受けてればわかる筈よ。サインの意味も、あいつがどんな投手なのかもね』

(こいつがどん投手か…)

”シュッ”

(この軌道!)

”パァン”

「ストライーク!」

(コースギリギリ)

「ナイスボール」

(今のって偶然?いや、もしかしたら…)

再度OKサインを混ぜて今度は内の高めに構えた

”シュッ” ”パァン”

「ストライク、ツー!」

(偶然じゃねー)

『もっとインコース抉ったり対角線使ったりしていきなさい』

(対角線…いけるか?)

『受けてればわかる筈よ』

”シュッ”

『サインの意味も』

”パァン”

『あいつがどんな投手なのかもね』

「ストライーク!バッターアウト!」

「おっしゃー!ナイスピッチ」

「2アウト、2アウト!」

「………」

(クソッ!)

「この回あと一人だ。キッチリ抑えて攻撃に繋げるぞ!」

「「「おおー!」」」

(どうやら少しは理解したみたいね(だな))

「一年やっと声が出始めたな」

「そうだな、それならこっちも…どうしたバッター!一球もバット触れてねーぞ!ビビっちゃったかな?」
「うっせー、次は打つ!」

その後次のバッターをファーストゴロに打ち取ってその回を終えるのだった。


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