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第19話 まずは手帳から…
しおりを挟む一人の後輩が突然震えて、泣き、その場に崩れ落ちた。今までに経験した事のないケースだけに自由もどうすればいいのか正解を見出せずにいた。
(やっぱり原因は話そうとする事なのか?だったら…)
「なあ、輝明。口に出して伝えられないのならこれに書いて伝えてみたらどうだ?」
そう言うと由自はすぐさまポケットから手帳とシャーペンを取り出して輝明の前に差し出した。
(手帳、確かにこれなら。だけど…)
受け取ろうと手を伸ばそうとしたところで動きが止まる。
(だけどこれを受け取って手帳《コレ》を使うのに慣れてしまったら…もう、自分の口から伝えようとする事を諦めてしまうんじゃないか?)
またしても俯いたまま不安を隠せない輝明の肩を自由は掴んだ。
「なあ、輝明。正直俺はお前が何にぶつかって何に悩んでいるのか正確にはわからん。だけど何事も初めようとする事からその一歩を踏み出すんだ」
(その通りだ。そして僕はこれまでその選択をしないままここまで来てしまったんだ。だから…!)
「けどな、お前の踏み出そうとしている一歩は大き過ぎるんじゃないか?」
(大きく…過ぎる?)
「これはあくまで俺の勘なんだけどな。お前はいきなり一歩でゴールまで足を伸ばそうととしてないか?大きく前に踏み出そうとするのは決して悪いことではないがこれまでそのゴールに至るまで努力や経験が不足していたり、近くだと思っていたその距離が果てしなく遠くて一歩ではとても辿り着けない事もあると思う」
(ゴールまでの…距離)
「だからさ、手帳《コレ》を第一歩に。まずは言葉ではなく文字で思いを伝えていってたらいいんじゃないか?これから先はいやでも一緒に生活していく事になるんだ。仮に一人で無理だったとしても一緒なら、歩み続ければきっとお前の辿り着きたいところにも辿り着けるさ!大丈夫!きっとなんとかなるさ!」
何の確証もない。しかしひたすらに自分を信じて鼓舞してくれる眩いほどに真っ直ぐな輝明の言葉と笑顔に輝明は大きく背中を押された気がした。
そして僅かに迷いながらも手帳とペンを受け取り自分の伝えたかった事を書き記して自由に見えるよう裏返した。
『全力で投げてもいいですか?』
「へっ?」
予想外の問いに少し拍子抜けしてしまいマヌケな声を出すもすぐにいつもように高らかと笑い輝明の背中を彼なりに軽く叩いた。
「な~んだ、そんな事か!最初にも言った通り大丈夫だって。遠慮なんかせずにドォーン!と投げ込んで来いって!」
その言葉に頷いて元の位置に戻る背中を見てホッとすると同時に落胆の気持ちが彼を襲った。
(いや~よかった。雰囲気的にもっとなんか重~い話が来ると思ってたからな。けど、アレ?でもこれって…シンプルに俺がキャッチャーとして信用してされてなかった…って事だよな?)
まるでタライが頭上から落下して頭部に直撃したかのような精神的ダメージを受けた。
(なんだろうこの感覚。まるで一般男性が恋人から浮気でも疑われたような…ま、まあ。そもそも会って日も浅いんだから仕方ないよな。そう!これから信頼は気付いていけばいいだし)
若干足を震わせながら自分を奮い立たせようと強がった。そして気がつくと輝明が自由の方と自分の立ち位置を確認している事に気がついた。
(おっと、イカンイカン!集中しろ俺!わざわざああ言う事を伝えて来るって事は過去に捕手が上手く捕球できなかったりとかそういった何かがあったからだ。つまりこの最初の一球は今後輝明が安心投球する為にもしっかり受け止めてやらねーといけないって事だ)
これまで感じた事のないようなプレッシャーが岩のようにズシリと自由の体にのしかかり、それを吹き飛ばすかのように大きく息を吐いた。
「準備出来たらいつでもいいぞ!)
由自の声掛けに頷いた後、輝明はセットポジションを取って左足をゆっくりと上げた。
申し訳ないけどやっぱりまだ不安はある。でも…
(さっきまでが大体120㎞。そして『全力』ということは当然それ以上の筈。125くらいか?それとも130㎞超えてくるか?もしかしたらそれ以上いったりして!まあ、球速の上昇と引き換えにコントロールが使えないレベルにまで落ちる可能性もある。けど怖いようなでもワクワクするような…試合と同じそれ以上の肌がひりつくこな感じ!)
信じたい。前沢先輩が僕を信じてくれたように今度はぼくが先輩を…信じろ!
由自は輝明がこれまで以上に力を入れて投げようとしてくる球にワクワクしながらミットを構えていた。しかしそんな気持ちは一瞬で吹き飛ばされる事となった。
輝明が腕を振り切ったと瞬間に0.何秒にも満たないほんの一瞬ボールを見失い、気付いた時には
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