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第17話 失敗

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返球されたボールを握りしめて何やら考え込んだまま立ち尽くしていつまでも投球動作に入らないので不審に思っていたら自由に向かって輝明が一歩一歩重い足取りで歩みを進める。

 しかし自由の下に向かう途中で輝明はかつての中学時代でのある光景がフラッシュバックして彼の足をすくませて歩みを止めた。

(思い出すな!あれは事故みたいなものだったんだ!それにこの人なら、前沢先輩ならきっと…)

 大きく息を吐き、拳を固く握り締めると再び自由は向かって歩み始めた。

 急にキャッチボールを中断しこっちへ歩き始めたかと思うと途中で立ち尽くしたりと彼の行動を不審に思っていたが、同時にこれまで能面の様にほとんど表情を変えることの無かった彼がここにきて強張ったような顔つきをしており、きっと赤坂輝明にとって重要な何かを伝えようとしているのだろうと周囲も薄々理解していた。それ故自由含め周りも普段は無い妙な緊張感が走っていた。

 そして自由の側に着いてから一度恐る恐る顔を見上げると二人の視線が交差した。

「………」

「………?」

 しかしそのまま何事も無くただ時間だけが過ぎ、輝明は結局何もせぬまま俯いてしまった。

 何か伝えたい事があるのは理解できるが、ただでさえ無口な上に身振り手振りすらも無いとなると彼の伝えたい事を察する事など自由には不可能に近かった。

(怯えるな、せっかく母さんが僕をこの寮に送り届けてくれたんだから勇気出せ!この人ならきっと大丈夫だ!だから…)

 意を決して顔を上げて口を開こうとした、その瞬間だった。

『俺の許可なく俺以外の奴と勝手に喋んなって何度言えば分かんだお前は!また体に叩きこまれねーと分からねーかお前は ⁉』

(!!)

 口を開こうとした瞬間に怒鳴り声が脳内でリプレイされ全身が硬直し恐怖で、足が震えた。言葉を発しようにもまるで呪縛でも掛けられているかのように声は出ず、対照的に溢れてくる恐怖に呼吸が荒くなる。

 物理的要素などまるで無いのにまるで喉を締め付けられているような感覚に襲われて輝明は自身の喉を両手で覆った。

(い、息が…やっぱり駄目、なのか…)

「お、おい前沢!俺らの見てない間に本当になにもしないよな!?」

「してないですって!ええっと、ええっと…気分悪いのか?大丈夫か?」

 明らかに普通ではない照明の様子に彼らのやり取りを見守っていた他の野球部員も照明の周りに集まり、突然の事で状況が飲み込めず混乱する自由はただひたすら輝明の背中を摩った。

 そして輝明が落ち着いたと思われる頃に再び声を掛けた。

「だ、大丈夫そうか?」

 "コクコク"

「そ、そっか。もう夕飯の時間だし食堂に移動しようか」

(ごめんなさい、ごめんなさい)

 道中自由に背中に手を当てがわれながら届かない謝罪を心の中で口にし続けていた。
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