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第16話 いつの頃だろう
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(ここなら安定して大丈夫そうだな…)
「ま、待てぇー!」
輝明が一人で作業を行なっていると何故か先輩の前沢が今にも泣きそうな表情で血相変えてこちらに向かってやって来た。
「ま、ま、ま、待つんだ輝明君!とりあえずおち、おち、落ちるくんだ!!」
「いや、まず前沢が落ち着きなよ。ちゃんと発音できてないじゃん」
「しかもさっきまで呼び捨てだったくせに恐怖で君付けしてるし」
「ま、ま、ま、まさかと思うがお、お、俺が対象なのか?」
「???」
「おい、何を聞かれてるのかわからないって顔してんぞ後輩君。せめて最低限回答が可能な質問しろよ」
「俺を呪おうとしてないよな?してないよな?」
(のろう?のろうって何?………もしかし日本の呪術的な『呪う』なのかな?………何でそんなこと問われているのだろうか?)
「指摘の仕方が間違ってたな。すまん」
「仕方ねーよ、本当に結論付けた質問だけとは。それも懇願するように」
「後輩君、今質問の意味以上に質問の意図がわからないよな?何でそんなことを聞かれる状況になってるのか」
”コクコク”
「ああ~なんて言えばいいだろう?君の取り出したその角材。それを見てこのビビり先輩が変な妄想をしてしまったというか…まあつまりこのお馬鹿な先輩が聞きたいのは…」
「俺のこと恨んでないよね?ね?ねっ!?」
「その図体で迫って精神的圧迫で無理矢理首を縦に振らせようとするのやめろ」
(正直話を聞いても何がどうしてこうなっているのかイマイチ理解できなかったけど特に恨み?などは抱いたりしてないのですが…どうしてその結論に至ってしまったのかこっちが尋ねたい)
輝明が首を縦に振るとさっきまでの泣きべそ搔いていたいたような表情はすぐに消え去り憑き物が取れた様に明るい表情へと戻った。すると中田が輝明の手にしていた器具が目に入った。
「さっきから何か組み立ててるな~と思ったらそれ投球用ネット?」
”コク”
「便利なのあんのね。これから投球練習でもするつもりだったのかな?」
(にしても普通のと比べて数字の数が凄いな。9分割よりもかなり細かく区切られてる見たーだけど…)
「な~んだそんな事だったんだ!それならそうと言ってくれれば良かったのに。キャッチボールくらい付き合うから一緒にやろう!」
(…一緒に?)
ウキウキで提案する由自だったが輝明は戸惑ったように表情を曇らせ、そしてぎこちなくゆっくり頷いたが他の部員達はその表情を見逃さなかった。
(これまでのはどうかしらないけど今のは間違いなく圧力で首を振らせたな)
(ああ、一緒にやりたくないという気持ちが僅かながら確実に顔から滲み出ていたからなら)
「まずは肩慣らしも兼ねて軽いキャッチボールやろう!ほらほら早く、今すぐに!」
(もう肩は温まってるから別に必要は無いんだけど…折角のご好意だし感触を確かめながら投げよう)
少し距離を離してから二人はキャッチボールを始めた。
「いや~偶にはこうやって誰かとキャッチボールすのもいいもんだな」
「偶にはって…今日だって普通にやってだろうにあいつの頭はどうなってんだ?」
誰かと…そういえばさっきマウドでな気づかなかったけどこうやって立った状態ゴールするのはいつぐらいだろうか1年くらい前か?いや、あの頃は基本的にキャッチャーを座らせた状態でしかしてなかった多分本格的に野球を始めるよりも前…
つい物思いにふけっていると自由からの返球の対応が遅れてしまい気付いた時にはもう目の前まで来ており、掴み損ねて球を後ろに逸してしまった。
「大丈夫か?」
"コク"
(そういえば前にもこんな事があった気がする。あの時も誰かが笑ってボールを投げてくれて、そのボールをこんな風にボールを掴み損ねて…)
『〇〇◯◯ったね。〇◯◯?』
(あれは…誰だったっけ?)
薄らしか浮かび上がらない過去に浸りながら輝明が投げたボールを掴むと自由はその場で腰を下ろした。
「それじゃそろそろ座るわ」
「おいおい、まだ早くね?10球ぐらいしか投げてねーだろ」
「さっきの間を考えたくないのか、かなりペース早めだな。けど今回は普通に頷いてたから大丈夫なんじゃね?」
「よし、こい!」
自由がミットをバシバシ叩きながら声を掛けると輝明は後ろを振り返りある物を手にした。そして前を振り向くとその手にはあの釘付き角材が握られていた。
それを目にした周囲が怯えていると照明は角材をそれぞれTの字になるように地面に突き刺さし、しっかり刺さった事を確認するとその上に立って動作確認を行いだした。
「ああ、あれああやって使う物なのか。簡易マウド的な?び、ビックリした!」
「だ、だだ、大丈夫そうならなげ、投げてきていいぞ!」
若干震え声の自由の言葉に頷いてから投じられた輝明のボールの収まる音は夕暮れの静かな時間に一際周囲に響き渡った。
(この捕球音にミットがブレず綺麗に制止できる技術。やっぱりこの人キャッチング上手いな。この人なら…)
「相変わらずいいとこ決まるな」
「キャッチ座らせて投げた一球目なのにな。ほんと誰かさんも見習ってもらいたいものだな」
「よぉーし、もう一球!」
「………」
「ど、どうした」
(この人ならもしかしたら…)
輝明はごくりと息を飲み込んで自由へ向けて一歩踏み出した。
「ま、待てぇー!」
輝明が一人で作業を行なっていると何故か先輩の前沢が今にも泣きそうな表情で血相変えてこちらに向かってやって来た。
「ま、ま、ま、待つんだ輝明君!とりあえずおち、おち、落ちるくんだ!!」
「いや、まず前沢が落ち着きなよ。ちゃんと発音できてないじゃん」
「しかもさっきまで呼び捨てだったくせに恐怖で君付けしてるし」
「ま、ま、ま、まさかと思うがお、お、俺が対象なのか?」
「???」
「おい、何を聞かれてるのかわからないって顔してんぞ後輩君。せめて最低限回答が可能な質問しろよ」
「俺を呪おうとしてないよな?してないよな?」
(のろう?のろうって何?………もしかし日本の呪術的な『呪う』なのかな?………何でそんなこと問われているのだろうか?)
「指摘の仕方が間違ってたな。すまん」
「仕方ねーよ、本当に結論付けた質問だけとは。それも懇願するように」
「後輩君、今質問の意味以上に質問の意図がわからないよな?何でそんなことを聞かれる状況になってるのか」
”コクコク”
「ああ~なんて言えばいいだろう?君の取り出したその角材。それを見てこのビビり先輩が変な妄想をしてしまったというか…まあつまりこのお馬鹿な先輩が聞きたいのは…」
「俺のこと恨んでないよね?ね?ねっ!?」
「その図体で迫って精神的圧迫で無理矢理首を縦に振らせようとするのやめろ」
(正直話を聞いても何がどうしてこうなっているのかイマイチ理解できなかったけど特に恨み?などは抱いたりしてないのですが…どうしてその結論に至ってしまったのかこっちが尋ねたい)
輝明が首を縦に振るとさっきまでの泣きべそ搔いていたいたような表情はすぐに消え去り憑き物が取れた様に明るい表情へと戻った。すると中田が輝明の手にしていた器具が目に入った。
「さっきから何か組み立ててるな~と思ったらそれ投球用ネット?」
”コク”
「便利なのあんのね。これから投球練習でもするつもりだったのかな?」
(にしても普通のと比べて数字の数が凄いな。9分割よりもかなり細かく区切られてる見たーだけど…)
「な~んだそんな事だったんだ!それならそうと言ってくれれば良かったのに。キャッチボールくらい付き合うから一緒にやろう!」
(…一緒に?)
ウキウキで提案する由自だったが輝明は戸惑ったように表情を曇らせ、そしてぎこちなくゆっくり頷いたが他の部員達はその表情を見逃さなかった。
(これまでのはどうかしらないけど今のは間違いなく圧力で首を振らせたな)
(ああ、一緒にやりたくないという気持ちが僅かながら確実に顔から滲み出ていたからなら)
「まずは肩慣らしも兼ねて軽いキャッチボールやろう!ほらほら早く、今すぐに!」
(もう肩は温まってるから別に必要は無いんだけど…折角のご好意だし感触を確かめながら投げよう)
少し距離を離してから二人はキャッチボールを始めた。
「いや~偶にはこうやって誰かとキャッチボールすのもいいもんだな」
「偶にはって…今日だって普通にやってだろうにあいつの頭はどうなってんだ?」
誰かと…そういえばさっきマウドでな気づかなかったけどこうやって立った状態ゴールするのはいつぐらいだろうか1年くらい前か?いや、あの頃は基本的にキャッチャーを座らせた状態でしかしてなかった多分本格的に野球を始めるよりも前…
つい物思いにふけっていると自由からの返球の対応が遅れてしまい気付いた時にはもう目の前まで来ており、掴み損ねて球を後ろに逸してしまった。
「大丈夫か?」
"コク"
(そういえば前にもこんな事があった気がする。あの時も誰かが笑ってボールを投げてくれて、そのボールをこんな風にボールを掴み損ねて…)
『〇〇◯◯ったね。〇◯◯?』
(あれは…誰だったっけ?)
薄らしか浮かび上がらない過去に浸りながら輝明が投げたボールを掴むと自由はその場で腰を下ろした。
「それじゃそろそろ座るわ」
「おいおい、まだ早くね?10球ぐらいしか投げてねーだろ」
「さっきの間を考えたくないのか、かなりペース早めだな。けど今回は普通に頷いてたから大丈夫なんじゃね?」
「よし、こい!」
自由がミットをバシバシ叩きながら声を掛けると輝明は後ろを振り返りある物を手にした。そして前を振り向くとその手にはあの釘付き角材が握られていた。
それを目にした周囲が怯えていると照明は角材をそれぞれTの字になるように地面に突き刺さし、しっかり刺さった事を確認するとその上に立って動作確認を行いだした。
「ああ、あれああやって使う物なのか。簡易マウド的な?び、ビックリした!」
「だ、だだ、大丈夫そうならなげ、投げてきていいぞ!」
若干震え声の自由の言葉に頷いてから投じられた輝明のボールの収まる音は夕暮れの静かな時間に一際周囲に響き渡った。
(この捕球音にミットがブレず綺麗に制止できる技術。やっぱりこの人キャッチング上手いな。この人なら…)
「相変わらずいいとこ決まるな」
「キャッチ座らせて投げた一球目なのにな。ほんと誰かさんも見習ってもらいたいものだな」
「よぉーし、もう一球!」
「………」
「ど、どうした」
(この人ならもしかしたら…)
輝明はごくりと息を飲み込んで自由へ向けて一歩踏み出した。
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