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第2章 冒険者編

119話 一難去ってまた一難

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 吹きすさぶ風に騒めく木々。そして時折聞こえてくる周囲の声や虫の音。目を瞑るとそれらが一層耳に響いた。しかしそれらが気にならなくなるほど夜空に浮かぶ星々は綺麗だった。

 眠りにつく直前にそのような光景を目にするのは彼らの殆どが初めての経験で、中にはそれを含め現在の状況に喜び興奮し、眠れぬ者もいた。しかし大河にはとても喜ばない事態だった。

 何故ならそこは何も隔てる物がない屋外《そと》で彼らは野宿する事になっていたから

どうしてこうなった?

 遡る事数時間前

   戦闘終了から半日が経った頃、ベットの上で眠っていた大河らは目を覚ました。

「ここは…」

 身体中の痛いみを痛感しながら起き上がろうとすると近くにいた看護師と思われる女性が気付いて急いで部屋から飛び出していき、少しすると人を引き連れて駆け寄って来た。

「大丈夫ですか?今先生を呼んできますから」
「あの、俺と一緒にいた女子二人は?」
「ああ、あのお二人でしたら…」
「ふっふっふ、ようやく目覚めたか同士よ!」

 聞き慣れた声の方に目をやると全身を包帯でぐるぐる巻きにしている身長差のある二人組が前に出て来た。

うわ…想像していたよりもかなり酷いな

「その…悪かったな」
「ん?何がだ?」
「その怪我だよ。よっぽどの怪我を…」
「いや、大したものではないぞ?」
「いや、その姿どう見たって…」
「まあ多少焼かれてはいるが日焼けの延長線上程度のレベルだから心配には及ばん。珍しい機会なので一度やってみたかっただけだ」

…さっきまでの俺の純粋な心配を返してくれませんかね?

 そう口にしかけたがエルノアの足が震えているのに気づき、ダメージの程度はわからないがかなりやせ我慢をしていることを察し口を噤んだ。

「何事もなかったみたいに言われてますが全然軽傷ではありませんからね ⁉」
「そうか?私は平気だぞ」
「今はまだ興奮状態が抜けてなかったりで正常な感覚が戻っていないだけです。明日にでもなれば泣いて叫びだすほど激痛で苦しみますよ」
「え?痛みはちゃんと正常に感じられるが寧ろそのお陰で絶好調だぞ?」

 看護師らしき人は『何言ってんのこの子?』とでも言いだけな視線を送り、他の人たちもエルノアの台詞にドン引きしていて、クラリスだけがエルノアのハツラツとした表情に笑顔を浮かべていた。

「貴方の方は大丈夫なのですか?起きて早々ですが動けそうですか?」

 彼女の隣にいたクラリスが口調では確認する感じで尋ねて来たが、大河に向ける視線は少しきつめのものであり『大丈夫かどうか関係ありません。エルノアが踏ん張っているのですから貴方も男なら意地を見せて立ち上がりなさい』とでも言いたげな目をしていた。そして彼女の膝もエルノア同様少し震えていた。

仕方ないか

「流石にこの怪我で動くのは無茶で…」
「いや、もう大丈夫だ。寧ろ寝すぎて体がなまってしまってるから動かさないと」

 そういうと大河が立ち上がろうとするのを止めようとする人たちを制止ししながらなんとか立ち上がった。

「ほら、もう一人で立てるし問題ないから」

 笑顔で言ってのける大河だったが悟られないように表情に出さないようにするので必死だった。

痛っっっっっ!!痛い!痛い!痛い!体中が痛いんですけど!立っているだけなのに体の所々が軋む感じが半端ないのですが!?

 肉体が修復しようと回復に向かっているが故にくる体の正常な反応戦闘によるダメージと、気絶する間際の光景と周りの反応から戦闘が終了しているのが確定的な事からも見栄を張らずに今すぐ再びベットで横になりたい気分に駆られた。

 しかしエルノアとクラリスの二人が周りに心配かけないように丈夫そうに振舞おうとしているのがギリギリ理解できてしまったため、なんとか腰を下ろさずに踏みとどまれていた。

「うむ、流石は我が同士だ!それではさっそくで悪いが共に戦った冒険者たちに顔を見せに行くとしよう。私たちが倒れたれてから随分心配かけてしまったみたいだからな」

やっぱり他の人たちを安心させる為か。正直やっぱりベットでおねんねしてたいけど、それなら流石に断れないな

 一歩一歩歩みを進める毎にこれ以上動くなと身体中に警告音《激痛が》が鳴り響き、それらからなんとか気を逸らさんと話しかけた。

「お、お前らはどれくらい前に起きたんだ?」
「私たちも目を覚ましたのはつい先ほどです」
「他の冒険者の方もこの病院・診療所に?」
「はい、今回の戦闘ではかなりの数の冒険者さんが負傷されましたから。貴女方が運ばれた後も次々と冒険者の方々が軽症者が重傷者を運ぶ形で訪れて、流石に数が数でしたから人手が足らず大変でしたけど」

「うぅ、何かすみません」
「いえいえ、仕事ですから。それに大変でしたけど怪我人の割に幸い死傷者は出ませんでしたし、今は
「それは良かったです」
「はい。ですがその、別の問題も発生しておりまして」

「別の問題?はっ!もしかして別の魔王軍の軍団が攻めて来たとかですか!?それもとも別の何らかの組織が侵攻して来たとか…」

「いえ、そういった事態には至っていませんし、そこまで大事ではないのですが、その…」

何だろう?すごく歯切れが悪そうだけど

「街を救っていただいた方にこのような事を口にするのは大変恐縮で言いずらいのですが、できればお連れ様を引き取っていただけると有難いです」
「はい?」

 最初はお願いの意味がわからなかったので呆然としていたが、少しすると心当たりのありそうな二人の方に視線を向けた。

「お前ら一体何をやらかしたんだ?」
「な、何故疑いの目を真っ先に向けるのだ?もしや我々を疑っているのか?」

疑っていない。寧ろ信用すらしている。目を離すと必ず問題を起すであろうという事に関しては

「先程も言いましたが私たちも少し前に目を覚ましたばかりで疑われるような行動は起こしておりませんよ」

本当だろうか?でもまあ確かにこの二人嘘はつかない…


『あいつらフルネームじゃなかった上に偽名じゃねーか!』

『別に2人に暴行なんて俺は…』
『…その通りです。私たちはその無法者に言葉では言い表しようもないほど酷い目に遭わされました』

『突然何を言い出すかと思えばよくもぬけぬけと。騙されてはいけませんよ父上。先程申し上げた通りこの者は『ガチャリ』私と姉上を非道な行いをオワアアアアアー』


………つかれてるな、嘘。それも結構な回数と冗談で済まない内容のものばかり

「いえお二人は特になにも。強いて言うならちゃんと安静にして下さらないことぐらいですかね」

だとすると一体誰が?連れなんて身に覚えが…

 回り切らない頭で悩むも答えは出ず歩き続けて病院のホールにたどり着いた。そして着いて早々にリーゼントと虹色モヒカンヘアーの二人組の姿が目に入った。そして視界に入った瞬間に理解した。これが彼女らの言っていた引き取ってほしいお連れの方お荷物なのだろうと。




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