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第2章 冒険者編
106話 再びピンチからの始まり(後編)
しおりを挟むちょっと待て、今こいつ…なんて言った?
「ばくはつ?…バクハツ?…爆発⁉ま、まさこれば、爆弾なのか⁉」
「勿論そうだぞ」
「勿論じゃねーよ!何でそんな恐ろしい物《ブツ》をポケットなんかに忍ばせてんだよ!」
「おいおい、乙女の口から言わせるのか?そんなのいつ滑って爆発するからわからない緊張感を常日頃から味わう為に決まってるじゃないか」
「……ぁ…あぁ…!」
「ふ、流石に私もこれを口にするのは恥ずかしいんだぜ。そいうプレイだということは理解するが、あまり言わせないでくれよ」
「今の発言内容のどこに恥じる要素があったんだよ⁉自分のネジの外れ具合の方を自覚して恥じろよ!」
「女性に恥をかかせて楽しむだなんて、なんて嫌らしい男。ですが…ああ、エルノアが恥じらっている姿も新鮮で可愛いわ!」
こんなののどこを楽しめってんだ!って、違う違う!今はこいつらの奇行を気にしている場合じゃなかった
「何で助かる方法が爆弾なんだよ!」
「「???」」
「2人して『何言ってるのかわからない』みたいない表情するのやめろ!どうしてこの危機的状況で助かる手段が爆弾なんていう危険極まりない代物なんだよ⁉」
「そんなもん爆発と地面衝突の2つのコンボを味わえるからに決まってるだろう?」
「爆発の衝撃で落下の速度を殺して爆発と地面への打撲による衝撃のみで無事瀕死状態で到着。エルノアの言う通り2度も快感を味わえ、目的地にも到着出来る一石三鳥の策だというにどこに不満があるというのですか?」
「不満だわ阿呆!『無事瀕死』なんていう矛盾しまくった単語を簡単に口にしている時点でな!そもそもそんなもん食らったら地面とゴッツンコする前に体がバラバラになる未来が容易想像出来るんだが⁉」
「ふ、安心しろ。『自分の体を使って確認している』と言っただろう?私も姉上も日頃の努力によって爆発関連の耐性《レジスト》を持っているから大丈夫だ」
「俺はその耐性《レジスト》とやらは恐らく所持していないからアウトなんだが⁉」
「大丈夫だ、同士ツンデレよ」
「何が大丈夫だってんだよ⁉というかその呼び方やめろ!」
「ビリビリくんを常に所持するくらいのマニアたるお前なら日頃から鍛えられているその体にあらゆる耐性《レジスト》以上の耐性がついている筈だ。さあ、これまでの自分の努力を信じてようじゃないか」
「俺が渇望しているのはこの危機的状況からの脱出だけだ!」
いや待て、落ち着け俺。こんな時だけど、こんな時たからこそ落ち着くんだ。冷静になって考えるんだ。今の俺にはアレがあるじゃないか!
大河の脳裏にあるスキルが浮かんできた。
【一応の保険】
死亡のダメージを受けたとき一度だけ瀕死状態で留める事が出来る。この効果は一日一度しか適用されない
*このスキルを所持している間、食器が割れやすくなる
そ、そうだ。これがあれば死ぬほどの激痛に見舞われるかもしれないけど死ぬ事はないんだ。これなら!…
ふと湧いた希望にパァ~っと顔が明るくなりかけたが影がさした。
待てよ。でもこのスキルって確か…
『いいかタイガ、お前の持つスキルにある【一応の保険】。あれは確かにレアスキルだ。突然の奇襲により即死の攻撃を受けたりしたとしても存命できるたりと便利ではある。だが文字通り【一応の保険】でしかない。
攻撃を受けた後も続くような永続効果と違ってほぼ瀕死に留めた状態からなんらかの攻撃やダメージ受けたら間違いなく死ぬたろうから『俺は死んでも1日1回までなら大丈夫』とかいう馬鹿な考えを持ってたら早死にするから気をつけろよ。まあ、お前なら大丈夫だとは思うけどな』
マルグレアの忠告を思い出し、それを踏まえて今の状況を分析した。
爆発に巻き込まれるにしても地面とごっつんこするにして一回は助かるわけだ、一回は。だけどほぼ瀕死である事に変わりないからその後になんらかのダメージを追加で受けたら死ぬ。つまり爆発とごっつんこのどちらかを回避できれば一応生き残るとはできる。そしてこの状況で最も可能な選択は…消去法で爆発の回避しかない。そうなると俺が取るべき行動は…
僅か1秒足らずで己の状況を理解し、危険を回避せんと一人離れて距離を取ろうとするも隣にいたクラリスに”ガシッ”と腕を掴まれ阻まれた。
「何処に行こうとしているのですか?離れたら爆発で受ける威力が半減してしまいますよ。ここまでエルノアが尽くしてくれているのですから食わず嫌いせずに味わいなさい」
「離せ!いや離して下さい!今だけでいいから離して下さいましやがれ!」
振りほどこうともがくものの落下中による強い空気抵抗のせいか上手く抜け出すことができずにもがいていた。
「姉上の言う通りだ。大丈夫、初めての未知の味《快感》に不信感を抱くのは仕方ないがきっとお前にとっても美味の筈だから何も心配せずに新たな扉を開こうじゃないか!」
クラリスだけでなくエルノアからももう片方の腕を掴まれしまい、両手をホールドされて身動きが取れなくなってしまった。
「ええい!目をキラっキラさせながそういうことを言う…オイー!なに爆弾のスイッチに指を当ててんだよ⁉そしてなに超楽しそうな顔してんだよ⁉」
大河が何とか腕を振りほどいて脱出しようともがいているとエルノアが大好物を目の前に差し出されながら待ったをされて、今か今かと待ちわびているペットの様に息を切らして興奮していた。
「ああ、やはりこの今すぐに手に入りそう手を出せないもどかしい感覚は…たまりませんね姉上!」
「ええ、私もそんな高揚した貴女の表情を見ていると胸が高鳴ってきます!
「だからそんなことの心配はしてねー!というか離せ―!頼むから腕を離してくれ!」
2人の美少女。それも一国の王女に左右それぞれ腕を掴まれている様は両手に花といった状態であり、男子ならば血の涙を流しながら大河を羨む場面だった。尚、上空からの落下中及び爆発数秒前であるという状況を省いた場合に限る。
「押すなよ!絶対に押すなよ!」
大河自身もこれまでの経験とこの2人の性格からして停止はおろか中止すらしないであろうことは理解しており、同時に自分の必死の訴えも意味のないものだと理解はしていたが叫ばずにはいられなかった。
「分かっている、分かっている。そういうフリなんだろう?本当に素直じゃない奴だな~ツンデレは」
「だから違ーう⁉」
「仕方ないな。それなら…ほい」
”ポチッ”
それは一瞬だった。気付いた時には大河の人差し指はエルノアの指に重ねられており、そして指の腹にはなにかつるつるとした物体に触れている感触があった。
「はぁ?」
”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”
状況を理解しきれない間に触れていた器具から断続的な点滅音を鳴りだした。恐る恐る目線を下げるとW・K・Bのボタンをエルノアの手によって自ら押してしまっている現状が目に入ったが直ぐには理解が追い付かなかった。
何でこんな爆発寸前みたいなヤバイ感じの音が鳴ってるんだ?ああそうか、俺の指がボタンを押しちまってるからか。ははははは…
「て、てめー!なに恐ろしい物を人様の手で押させてんだよ⁉」
「同志が押したがっていたから押させてやったんだが?」
「俺がいつそんなこと言ったんだよ⁉」
「『押すな、押すな』と騒いでおったのは自分で押したかったからじゃろう?」
「はぁ、ははあぁぁ!?」
「ふ、私は気を遣える女だからな。本当は自分で押したかったのだがお前の指の上から押すことで我慢してやったぞ」
『どうだ、私はえらいだろう』とでも言わんばかりにドヤ顔をかますエルノアのその顔を空中という特殊な場所でなければ今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいとう気持ちだけが沸々と湧き上がってきた。
「浸る気持ちも分かりますが、エルノアそろそろ10秒程経ちましたよ」
「そうですね」
エルノアはポイっと爆弾を投げ捨て、そのまま大河たちより早く落下していった。
「さあ同士ツンデレよ!新しい世界はすぐそこだ!」
「これが私達の新しい門出」
「いいっやぁぁーー‼︎誰か助けてー‼︎」
爆発のタイムリミットが近づく中で大河の叫びは虚しく空に響き渡るのだった。
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