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第1章 異世界転生編

52話 トンデモナイ所に連行されました

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 行き先も知れない目的地に向かう途中、何度か宙に浮くような感覚が走り、予期せぬ事態に動揺したりと視覚的にも感覚的にも恐怖を感じながら歩き続けること数分後、突如命令された。

「ここで止まれ。そしてそのまま跪け」

 大河は言われた通りに正座する形で地面に足を下ろした。ズボン越しにも床の硬さとひんやりとした冷たさが伝わってきた。

「これは出発前に言ったように没収する」

 レッドはそう言うとすぐに大河からフライパンをはぎ取った。その直後被されていたマント剥ぎ取られ突如として視界に入ってきた室内の明るさに目が眩んだ。数時間視界が遮断されたも同然の状態が続いていた大河は、目をが見える素晴らしさと視界を照らしてくれる光の有り難みをヒシヒシと感じていた。

 しかし感動に浸っているのも束の間、見上げていた目線を落として前を向くと驚愕した。装飾を施された壁紙に、何かを象徴するように描かれている垂れ幕。女神の彫刻に豪華なシャンデリアと視界に入れるだけで見入りそうな美品の数々だったが、そんな物より驚くべきものを目にしていた。

(小さな階段に赤いカーペットが敷かれ、その先一つだけ置かれた豪華そうな椅子。そしてそこに座っている高貴そうな中年くらいと思われる一人の金髪の男性。これってまさか…いや、そんなことがあるわけが…)

「陛下、ただいま戻りました」

 エルド隊長を始めとした兵士達が膝まづいて国王に対して敬礼していた。

(へいか?ヘイカ?陛下?…ああつまり国王か。どうりで立派な格好だと…)

 長時間視界を奪われた状態で連行され続けていたため事により思考が回っておらず呑気な感想を抱いていた大河だったが、視界がクリアになり解放感から徐々に余裕を取り戻すとともに、ようやく自分が聞き逃そうとした言葉が割と重要なものであったのだと理解していった。

(は?いや、ちょ。えっ?待って本当に理解が追いつかないんだが?あの人王様?てことはこの街って王都!何で?)

 何処に連れてこられたかと思いきや、何故かこの世界で一番の権力者たる人物が自分の眼前で玉座に座っているとかいう突然すぎる事態に大河が状況を呑み込み切れずいる中、やり取りは続けられていた。

「行方不明となっていたクラリス様とエルノア様の両名を発見・保護しお連れすることができました」

「うむ、よく無事に我が2人の娘を連れ帰っったな。毎度毎度手間をかけさせてすまんな」

「勿体ないお言葉でございます」

(この王様の娘ってことはあの二人って王女様!?服装や兵士たちの態度から何となく身分が高いであろうことは予想していたけど、俺に対しては品性のかけらも感じさせない言葉遣いの猫かぶりドMエルノアと一見真面目そうで妹より更にこじらせた特殊変態《アブノーマル》な性癖の持ち主クラリスが王族だと…!)

 大河が衝撃の事実を耳にして、その事実を受け止めきれず硬直しているとその2人が大河の横へとやって来た。

「父上!実は今回私達は盗賊めから拉致されただけでなくこの男に耐えがたい屈辱を与えられました」

「泣き叫ぶ私達を気にも留めず兵士の皆さん駆けつけてくれるまで、私達は殴られ、蔑まれ、あられもない姿にされるなど非道の限りを尽くされて。うぅ…」

(ま~た始まったよ。よくもまあ悪びれもずにスラスラと嘘を口にできるもんだな。これが王女様だなんて冗談もいいところだ)

「厳重な盗賊達の監視のスキを何とかついて命からがら逃げだし姉上と喜び合っていたのも束の間この男と出くわしてしまったがために…」

 エルノア達姉妹がありもしないでっち上げを涙と演技によって訴えけている最中、大河は無視してこれからの事について考えていた。

(今日何度思ったかわからないけど、どうしようかこの状況。どうにかしてこの理不尽ゲーを突破しないといけないけど、どうするか)

「父上。どうか私達の恨みを晴らすためにもこの者に死刑をお与えください」

「…ああ、まあそうだな。うん」

(あれ?なんだろう、このまるで心のこもっていない感じは。仮にも娘達が非道な目に遭ったと訴えているのに無関心というか、反応が薄いというか。もしかしたら王女達に対してあまり情がないのか?普段であれば色々思う所だけど今回ばかりは有り難い。もしかしたら軽罰で済んだり…)

「エルド隊長。その…この者の処罰はそなたに一任する」

「はっ!ではいつも通りクロム炭鉱送りとします」

(どうでもいいけど罪人の名前すら問わないのこの世界は?でもそれは置いとくとしてこれって軽罰…なのか?わかんないけど)

「エルド。私はそろそろ直接私達を貶め辱めた者の死をこの目で見届けたいので打ち首等にしていただきたいのですが」

「申し訳ありませんがそれはできません。王女様方に報いた重罪を自覚し償わせるためにも楽に死なせる方法を取るわけにもいきません。それにどの道、凄惨な現場をお2人にお見せするわけにはまいりません」

「やはりだめですか。まあ仕方ありませんわね」

(具体的にどういう場所かわからないけど連行する罪人を『楽に死なせない』と言ってる以上、相当ヤバイ所に放り込まれることだけは嫌でも伝わった。恐らく文字通り行くくらいなら死んだ方がマシ的な場所だろうな。でも…)

 ほぼ絶対絶命の状況をどう切り抜けるか大河は必死で頭を捻り考え策を練っていた。





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