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第1章 異世界転生編
12話 門番に確保されました
しおりを挟むお婆さんの家を出発してから数時間後いわれていた通りの方向を目指して歩き続けていると街を覆っている巨大な城壁と入口と思われる門が見えてきた。
「もっと簡素なものだと思ってたんだけど思ってたよりかなり立派だな」
近くで見ると20、30メートルは優に超える高さの壁に圧倒された。感心しながら門を通ろうとしたその時。
「止まれ!」
門を通過しようとすると突然制止する声が聞こえてきたので立ち止まり門番に声のした方向に顔を向けた。するとそこには受付か門番と思われる前の世界のヤンキーでも昔にしかあまりいなさそうな小麦色の髪をしたリーゼントの男性が大河の方を観察するように覗いていた。
「この辺じゃ見ない顔だな。通行証を見せろ」
(通行証?通行証って何だっけ?ああ、あれか。一定の場所を通過するときに必要なあれだなうん……ていうか通行証ってなんだよ?今までのどの異世界転生でもそんなの存在しなかったぞ多分)
大河は自分のズボンのポケットに手を入れて確認するものの何も入っておらず、わかってはいたが通行証なる物体を所持してはいなかった。
「ちょっとすいません」
そう言うと大河は後ろを向き少し距離を置いて、強く念じながら小声で訴えかけた。
「おいクソ神、返事しろ」
『なんじゃ、ワシは今休憩して英気を養っておるんじゃ。邪魔するでない』
「お前ほとんどサボってしかいないのに何処に休憩挟む余地があるんだよ。いや、今はそんな事はどうでもいい。おいクソ神、通行許可証ってのはなんだ」
『お主ホントに無知じゃのう。よいか、通行許可証というのはだな文字通り通行する際に必要な…』
「知ってるわ!何でお前は俺が物を知らないから聞いてきてる前提で話を進めるんだよ意味が解らないとかじゃないわ!なんでこの街に入るのに許可証が必要なんだよ」
『そりゃお前、その街にはそういう規制があり必要だからじゃろう?』
「確かにそうだが、なんでそれが理解できるのに俺に通行許可証を持たせてないんだよ」
大河が質問してから神は小難しい顔をして無言のまま数秒が経った。
『許可証が必要だったのか。まあ…あれじゃな、ドンマイ』
「違うだろう!俺の運が悪かったみたいな話で終わらせようとすんじゃねー!発行する必要があると分かっていたものを何で俺に持たせてないのかって話だろうが」
(何でこの神は必要最低限を遥か下回る物すら持たせずに転生してくれてるんだろうか?無駄ゆびをふるなのは否定しても付けたのに)
『お前を転生させた近くの街に入るのにそんなものが必要などワシも初めて知ったのじゃ』
「は?」
『恐らくワシの知らんうちに時代や文明が進んでそういった決まり事が出来たのじゃろう』
「なん…だと」
次から次へと降りかかる災難にまたしても大河の頭はショート寸前だった。
(つまりクソ神が仕事をサボりまくって異世界の様子を見ていない間に変化が起きてしまい、通行証が必要な事を分からないまま転生された最悪な状況って事か。はあ~)
大河は頭を抱えながら項垂れる様に大きなため息を吐いた。
(どうして俺はこうつくづく運がないのかね。大抵は門番とかいなくて普通に入れたり、町中から始まったりとかでスムーズに進められるのに、なんで俺だけこんなとこで足止め食らってるんですかね。少なくとも序盤から門番に阻まれてストーリー進行出来ないとか嬉しくない超レアケースなんて俺の知る限り初めてなんですがね。ガチャで言えばSSR数体やURキャラ当てるより珍しいことだね。ラッキーやったねクソが!)
大河は一度深呼吸して落ち着きを取り戻してから後ろを振り返ってリーゼントと向かい合った。
「すみません通行証は所持していないのですが」
「ならば紹介状を見せろ」
「…残念ですがそれも持ち合わせていません」
「ならば冒険者カードなどの身分証明書は」
「……それも」
「………」
「………」
なんとも言えないいたたまれない空気になり、静寂に包まれる中で空を飛ぶ鳥の鳴き声が鮮明に響き渡るがこの空気を壊すにはインパクトが足りなかった。
(どうしよう、冒険を始める前から詰んでるですけど…何この展開?こうなったら仕方ない一度おばあさんの家に戻って別の街への行き方を聞くしかないな)
「すみません。また出直して来ますね」
「待て」
「何か?」
「俺が通行証の事を切り出したとたんに背中を向けて何やら話し出したかと思えばぼそぼそと小声で話しおって。その上この街に入る方法が一つもないなどと怪しき奴め。悪いと思わないが色々聞かせてもらう」
リーゼントは言い終わる前に大河の手に手錠をかけてきた。
「は?えっ、ちょっと!」
(何で!)
大河は訳もわからぬままに掴まれてリーゼントに街の中へと連行された。
(おおーい!どうなってんだよこの展開。何処の世界に冒険前に門番に手錠で拘束される転生者がいるんだよ!)
大河は心の中で強く叫ぶものの、それに答えられる者はいなかった。
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