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6.ダンジョンコア
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襲撃の大将であるウルトラゴブリンを撃退。
魔族から妖精の泉を守り抜く事に成功した。
「シルフィアさま-」
「マサキー」
辺りに隠れ潜んでいた妖精さんたち。
降りそそぐ雨で森の炎もすっかり鎮火。
安全になった事を確認したのか、俺たちの元へ飛び付き祝福してくれていた。
だから髪の毛を引っ張るのは、やめなさい。
しかし、さすがは魔族。
ゴブリン500匹にインプ500匹。
こんな片田舎の森に1000匹も襲って来るとは予想以上の規模である。
いや……そもそもこのような辺鄙な森を襲撃するのは何故なのか?
何か狙いでもあるのだろうか?
「やはり……無理ですね」
大勢の妖精さんに抱き付かれたまま、シルフィア様がぽつり呟いた。
何か深刻な表情をしているが、頭に乗せた妖精さんがシルフィア様の顔を引っ張ったのでは、少々しまらない絵面である。
「笑わない」
ポカリ
痛い。
自分で変顔をしておきながらヒドイ言いようである。
まあ妖精さんの仕業ではあるが。
「ですが何が無理なのですか? 魔族というからビビリましたが、ウルトラゴブリン程度。楽勝でしたよ」
「あんなもの。魔族にとって塵芥の存在。本命が来ます」
ドカーン
突如。森の一角で黒い火柱が上がる。
今も雨が降りしきる中、その炎は弱まるどころか勢いを増し、数を増していた。
これは自然の炎ではない。
何者かの意志によって作り出された邪悪な炎。
赤黒く燃える森の先に。
3人の影が見えていた。
精霊の目で眺め見る。
その3人は──
────────────────────────────────────
名前:闇精霊 ダークウーマン
体力:2000
魔力:5000
────────────────────────────────────
名前:炎精霊 ファイアーウーマン
体力:500
魔力:6000
────────────────────────────────────
名前:土精霊 アースウーマン
体力:5000
魔力:4000
────────────────────────────────────
闇精霊。炎精霊。土精霊。だと?!
という事は、シルフィア様のお仲間だろうか?
いや。そんなはずはない。
俺たちの森を襲撃するのだ。
敵に決まっている。
「あれらは精霊の身にありながら邪神に魂を売った不届きものです」
しかし……これは分が悪いといわざるをえない。
俺は最強の魔法使い。
なぜなら精霊様の力を授かっているからだ。
だが、対する相手もまた精霊の力を宿すもの。
というか、精霊そのものである。しかも3人。
おまけに、手下だろう。黒い装飾をまとうモンスター。
赤い炎をまとうモンスターまでもが大量に付き従っている。
対するこちらは、可愛い妖精さんがたくさん飛び回っているにすぎない。
強者は引き際を心得るもの。
連中は初期マップに突如出現したレイドボスのような存在。
残念ながら今は戦う時期でない。
幸いにも相手の位置はまだ遠く、森に差し掛かったばかりである。
「これは……撤退するしかありませんよね?」
「……そうね」
意見が一致した。
シルフィア様にとっては住み慣れた森を、泉を離れるのだ。苦渋の決断であろう。
てっきり肉盾である俺に死んで来いなど言うかと思ったが、案外、気づかってくれているようである。
ありがたい。
「貴方たちは先に泉を離れて。逃げなさい」
頭に張り付く妖精さんを捕まえ、シルフィア様は空へ放り投げる。
「えーまたー?」
「こんどはたたかうぞー」
「えいえいおー」
「宝玉を取り出します。急いで」
「えーそんなー」
「とんずらよー」
「みんなーぶじでねー」
シルフィア様の言葉に妖精さんたちは、一目散に森の外を目指して飛び去って行った。
ひどい慌てようだが、後で無事に合流できるだろうか?
「……妖精の泉の中。泉の宝玉を取り出しなさい」
とにかく俺は泉の中央。
最も水底の深い場所へと、水中深く潜り降りる。
水中にあっても、周囲の水を近寄せない風の舞う空間。
その中心に、握りこぶし程度の大きさで輝く宝玉があった。
「宝玉を掴んだなら、一目散に安全な場所まで逃げなさい。決して戦おうなど考えないように」
そう言って、シルフィア様は俺の首に腕を回して背中へと身体を寄せていた。
「決して宝玉。それと……私を放さないように」
もちろんである。
何せ柔らかいのだ。放すはずがない。
宝玉を掴む。
その瞬間。まばゆいばかりの光が辺りに巻き起こった。
慌てて宝玉を胸に抱きしめ、水面を目指し泳ぎだす。
その背中で、シルフィア様の身体の重みが。
俺の首に回された腕の感触が。
どんどん失われていく。
ざぶんと水面に浮きあがる頃。
俺の背中にシルフィア様の姿はなかった。
光を失った水面に浮かぶのは、ただ俺1人。
いや……俺の背中に。
首筋にしがみつく1匹の妖精さんがいた。
金の髪に白のワンピース。
まるでシルフィア様そっくりの妖精さん。
いったいいつの間に?
妖精さんは全員、先に逃げ出したはず。
というより、シルフィア様はいったいどこへ?
とにかく今は泉の外へ。
首筋にしがみつく妖精さんを頭に乗せ、岸を目指して泳ぎ出す。
浅瀬まで辿り着き、ザブザブ水をかき分け走るが……身体が重い。
魔力パワーにより強化されたはずの身体能力。
それが、今は元の世界にいた頃と同じ。
貧弱な35男の身体能力に逆戻りしたかのようだ。
頭上を覆う雷雲はすっかり晴れ、晴天そのもの。
雨は降り止み、辺りの火勢は勢いを増すばかり。
これは……シルフィア様の魔力が消えたとでもいうのか?
俺は自身の身体を。力を精霊の目で確認する。
────────────────────────────────────
名前:マサキ+シルフィア
種族:地球人+精霊さん?
性別:男+女
年齢:35+18
体力:60+60=120
魔力:0+10=10
契約スキル
精霊アイ :F
道具ボックス:F
魔法スキル
光魔法: F
風魔法: E
水魔法: E
物理スキル
ひっかき :B
かみつき :A
たいあたり:A
パンチ :A
体力自動回復:C
特殊スキル
暴飲暴食
────────────────────────────────────
俺のステータスがヒドイ事になっていた。
いや。それよりも、問題はシルフィア様。
その種族が、精霊様から精霊さん?に変化していた。
という事は……俺の頭の上でブルブル震える小さな妖精さん。
これがシルフィア様だと。そういう事なのだろうか?
ようやく岸辺に辿り着いたは良いが、すでに周辺の森は火に覆われていた。
この中を走り抜ける。
シルフィア様の。風の加護が消えた今。
熱気と煙に巻かれて死ぬ可能性が高い。
それでも、この場に留まれば襲撃者に殺されるだけ。
行くしかないと覚悟を決めた俺の頭上で、不気味な轟音が響いていた。
ズゴゴゴゴ……
目を向ける頭上には、空を。
大気を切り裂いて落ちる1つの塊。
巨大隕石。
もはや躊躇はない。
俺は全力で炎が舞う森へと駆けこんだ。
唸りを上げる巨大隕石は、狙ったように妖精の泉。
その中央へと落着する。
ズドドドガーンッッッ!
泉の水が吹き零れ、風が舞い、炎に消える。
その衝撃波に森は、樹木が、俺の身体は大きく吹き飛ばされていた。
シルフィア様を胸に抱きこみ、宝玉を片手に抱え、俺は倒れこむ。
倒れる俺の上には、倒壊した樹木。
まるで盾となり、衝撃波から俺を守ってくれたかのようだ。
しかし……これはマズイ。
俺を隠すかのように覆い被さる樹木だが、その枝に炎が引火していた。
早く移動しなければ、樹木と共に丸焼けである。
身体に力を込めようとする俺の視界に、異形のモンスターの姿が映る。
全身から炎が噴き出た人型のモンスター。
サラマンダー男。
炎精霊の下僕にして炎を扱う異形のモンスター。
その姿は燃え盛る二息歩行のトカゲ男だ。
「グゴッ。もう誰もいやしねーゲッ」
「土のS級魔法。アース・メテオインパクトだゲッ」
「生き残りなんているはずないゲッ」
野郎。俺たちを探しているのか?
だとすれば、今は動けない。
「いちおう魔力サーチしてみるゲッ」
マズイ。俺は息を止め身を潜める。
魔力サーチ。
魔力で周辺の相手を探知する異世界の魔法。
「グゴッ?!」
「なんか引っかかったゲッ?」
魔力サーチに息を止める意味はないだろうが……
覆い被さる樹木に火が周り、触れる俺の身体までもが熱い。
それでも、男は忍耐。今は耐える時。
「……いや。何も引っかからねえゲッ」
「むっちゃ小さい魔力反応あるけど……ネズミか何かだゲッ」
元々俺の魔力は0。
そして、シルフィア様が魔力を失った今。
妖精さんになったシルフィア様の魔力は、わずかに10。
一般人ですら100程度はある中で、魔力10など小動物にしか見えないという。
「そんなん放っておくゲッ」
「それより泉を見るゲ。完全に干上がっているゲッ」
「こりゃ宝玉もろともペシャンコだゲッ」
俺の存在は無視されたようだ。
それは良いのだが……無駄話でサボっているんじゃない。
熱いから早くどこかへ行けという。
何せ今も俺の上では樹木が燃えているのだ。
熱で朦朧とする俺の脳内に、シルフィア様の知識が流れ込んでいた。
───シルフィア様情報───
宝玉。
それはモンスターを生み出す魔力の源。
一般にダンジョンコアと呼ばれる存在。
莫大な魔力を秘め、入手した物はその魔力を受け継ぐダンジョンマスターとなる。
そのため、モンスターも。人間も。ダンジョンコアを求めて争う。
妖精の泉の宝玉は、森の迷宮のダンジョンコア。
生まれ出るモンスターは、妖精。
妖精は魔力に優れる反面、体力に劣り、その寿命は約15年程度。
その体力、寿命を延ばすため、妖精は契約者を求める。
契約する事でお互いの体力、魔力、スキル、そして寿命までをも共有。
一心同体の存在となる。
そのため、なるべく若く生命力にあふれる相手。
そんな契約者を求め、成人した妖精は旅に出る。
契約の際、契約者は妖精の魔力を扱うことができる代償に、妖精の支配下に置かれることとなる。
ある時。
これまで例にない、おそろしく能力の低い妖精が生まれ出た。
その妖精は運動や勉強、魔法はおろか、喋る事すら出来ない落ちこぼれ。
そのため、成人したにも関わらず、いつまでも妖精の泉に。
誰も訪れない宝玉の間に引きこもるしか出来ないでいた。
長年にわたり宝玉の魔力を浴び続けたある時。
落ちこぼれであった妖精は、宝玉の。
ダンジョンコアの力を手に入れ、ダンジョンマスターとなっていた。
そして、その魔力は妖精を精霊へと進化させる。
ダンジョンマスターとして度重なる襲撃から泉を守るうち。
ついには魔族から使者が訪れる。
魔族の傘下に入るよう。ダンジョンコアを差し出すようにと。
魔族を制するのは邪神。
破壊と殺戮を好む邪神の配下になれば、妖精たちは無理矢理ゴブリンと契約させられてしまうだろう。
悩むダンジョンマスターの元へ1人の人間が泉を訪れた。
その能力を見た時、ダンジョンマスターは妖精の泉を。
妖精たちの暮らしを守るため戦う決意を固めていた。
──────────────
シルフィア様が妖精さんの。
自身の情報を隠していた理由。
妖精との契約。それは奴隷契約。
魔力を与えられる代償に、妖精の支配下に置かれるという。
そして、シルフィア様は本物の精霊様ではない。
宝玉の、ダンジョンコアの魔力により進化しただけの偽物。
ダンジョンから切り離されたダンジョンコアは魔力を失う。
ダンジョンコアの魔力が失われては、元の妖精さんに戻るのも必然だ。
「しかしダンジョンコア。もったいないゲッ」
「潰さなくても良いのにゲッ」
「邪神様に逆らった見せしめだゲッ」
世界を制しようとする邪神。そして魔族。
シルフィア様はそれに反抗したばかりに。
そうか……だからこその俺だ。
シルフィア様は襲撃により、いずれ逃げ出す羽目になると分かっていたのだ。
俺の特殊スキル。
暴飲暴食。
ダンジョンコアの魔力を失っても。
精霊の力を失っても生き残れるよう。
俺に付近のモンスターを狩らせ、スキルを習得させたのもそのため。
背中が熱い。
焼け落ちる樹木。
焼けただれる背中。
だが……大丈夫だ。
なぜなら、俺には力がある。
シルフィア様の指導の元。
手に入れた数々のスキル。
その1つ。体力自動再生。
焼けただれた背中の皮膚が、徐々に再生されていく。
シルフィア様は出会ったばかりの俺を信頼し、力を与えてくれた。
もちろん、それはシルフィア様に事情があり思惑があったからだ。
だが、それでも俺はシルフィア様からの信頼が嬉しかった。
何より……妖精の泉での暮らしは楽しかったのだ。
だから──なんとしても泉の宝玉を安全な場所まで。
再び妖精たちのダンジョンを作りだすため。
誰にも干渉されない妖精たちの楽園。
妖精キングダムを建国するため。
それこそが、俺がこの異世界で成すべき事であり、俺の命にかえてもやるべき事。
そして、新たな妖精の泉が、ダンジョンが生まれる時。
そのダンジョンコアもまた力を取り戻し。
シルフィア様も元の御姿を取り戻すはずだ。
魔族から妖精の泉を守り抜く事に成功した。
「シルフィアさま-」
「マサキー」
辺りに隠れ潜んでいた妖精さんたち。
降りそそぐ雨で森の炎もすっかり鎮火。
安全になった事を確認したのか、俺たちの元へ飛び付き祝福してくれていた。
だから髪の毛を引っ張るのは、やめなさい。
しかし、さすがは魔族。
ゴブリン500匹にインプ500匹。
こんな片田舎の森に1000匹も襲って来るとは予想以上の規模である。
いや……そもそもこのような辺鄙な森を襲撃するのは何故なのか?
何か狙いでもあるのだろうか?
「やはり……無理ですね」
大勢の妖精さんに抱き付かれたまま、シルフィア様がぽつり呟いた。
何か深刻な表情をしているが、頭に乗せた妖精さんがシルフィア様の顔を引っ張ったのでは、少々しまらない絵面である。
「笑わない」
ポカリ
痛い。
自分で変顔をしておきながらヒドイ言いようである。
まあ妖精さんの仕業ではあるが。
「ですが何が無理なのですか? 魔族というからビビリましたが、ウルトラゴブリン程度。楽勝でしたよ」
「あんなもの。魔族にとって塵芥の存在。本命が来ます」
ドカーン
突如。森の一角で黒い火柱が上がる。
今も雨が降りしきる中、その炎は弱まるどころか勢いを増し、数を増していた。
これは自然の炎ではない。
何者かの意志によって作り出された邪悪な炎。
赤黒く燃える森の先に。
3人の影が見えていた。
精霊の目で眺め見る。
その3人は──
────────────────────────────────────
名前:闇精霊 ダークウーマン
体力:2000
魔力:5000
────────────────────────────────────
名前:炎精霊 ファイアーウーマン
体力:500
魔力:6000
────────────────────────────────────
名前:土精霊 アースウーマン
体力:5000
魔力:4000
────────────────────────────────────
闇精霊。炎精霊。土精霊。だと?!
という事は、シルフィア様のお仲間だろうか?
いや。そんなはずはない。
俺たちの森を襲撃するのだ。
敵に決まっている。
「あれらは精霊の身にありながら邪神に魂を売った不届きものです」
しかし……これは分が悪いといわざるをえない。
俺は最強の魔法使い。
なぜなら精霊様の力を授かっているからだ。
だが、対する相手もまた精霊の力を宿すもの。
というか、精霊そのものである。しかも3人。
おまけに、手下だろう。黒い装飾をまとうモンスター。
赤い炎をまとうモンスターまでもが大量に付き従っている。
対するこちらは、可愛い妖精さんがたくさん飛び回っているにすぎない。
強者は引き際を心得るもの。
連中は初期マップに突如出現したレイドボスのような存在。
残念ながら今は戦う時期でない。
幸いにも相手の位置はまだ遠く、森に差し掛かったばかりである。
「これは……撤退するしかありませんよね?」
「……そうね」
意見が一致した。
シルフィア様にとっては住み慣れた森を、泉を離れるのだ。苦渋の決断であろう。
てっきり肉盾である俺に死んで来いなど言うかと思ったが、案外、気づかってくれているようである。
ありがたい。
「貴方たちは先に泉を離れて。逃げなさい」
頭に張り付く妖精さんを捕まえ、シルフィア様は空へ放り投げる。
「えーまたー?」
「こんどはたたかうぞー」
「えいえいおー」
「宝玉を取り出します。急いで」
「えーそんなー」
「とんずらよー」
「みんなーぶじでねー」
シルフィア様の言葉に妖精さんたちは、一目散に森の外を目指して飛び去って行った。
ひどい慌てようだが、後で無事に合流できるだろうか?
「……妖精の泉の中。泉の宝玉を取り出しなさい」
とにかく俺は泉の中央。
最も水底の深い場所へと、水中深く潜り降りる。
水中にあっても、周囲の水を近寄せない風の舞う空間。
その中心に、握りこぶし程度の大きさで輝く宝玉があった。
「宝玉を掴んだなら、一目散に安全な場所まで逃げなさい。決して戦おうなど考えないように」
そう言って、シルフィア様は俺の首に腕を回して背中へと身体を寄せていた。
「決して宝玉。それと……私を放さないように」
もちろんである。
何せ柔らかいのだ。放すはずがない。
宝玉を掴む。
その瞬間。まばゆいばかりの光が辺りに巻き起こった。
慌てて宝玉を胸に抱きしめ、水面を目指し泳ぎだす。
その背中で、シルフィア様の身体の重みが。
俺の首に回された腕の感触が。
どんどん失われていく。
ざぶんと水面に浮きあがる頃。
俺の背中にシルフィア様の姿はなかった。
光を失った水面に浮かぶのは、ただ俺1人。
いや……俺の背中に。
首筋にしがみつく1匹の妖精さんがいた。
金の髪に白のワンピース。
まるでシルフィア様そっくりの妖精さん。
いったいいつの間に?
妖精さんは全員、先に逃げ出したはず。
というより、シルフィア様はいったいどこへ?
とにかく今は泉の外へ。
首筋にしがみつく妖精さんを頭に乗せ、岸を目指して泳ぎ出す。
浅瀬まで辿り着き、ザブザブ水をかき分け走るが……身体が重い。
魔力パワーにより強化されたはずの身体能力。
それが、今は元の世界にいた頃と同じ。
貧弱な35男の身体能力に逆戻りしたかのようだ。
頭上を覆う雷雲はすっかり晴れ、晴天そのもの。
雨は降り止み、辺りの火勢は勢いを増すばかり。
これは……シルフィア様の魔力が消えたとでもいうのか?
俺は自身の身体を。力を精霊の目で確認する。
────────────────────────────────────
名前:マサキ+シルフィア
種族:地球人+精霊さん?
性別:男+女
年齢:35+18
体力:60+60=120
魔力:0+10=10
契約スキル
精霊アイ :F
道具ボックス:F
魔法スキル
光魔法: F
風魔法: E
水魔法: E
物理スキル
ひっかき :B
かみつき :A
たいあたり:A
パンチ :A
体力自動回復:C
特殊スキル
暴飲暴食
────────────────────────────────────
俺のステータスがヒドイ事になっていた。
いや。それよりも、問題はシルフィア様。
その種族が、精霊様から精霊さん?に変化していた。
という事は……俺の頭の上でブルブル震える小さな妖精さん。
これがシルフィア様だと。そういう事なのだろうか?
ようやく岸辺に辿り着いたは良いが、すでに周辺の森は火に覆われていた。
この中を走り抜ける。
シルフィア様の。風の加護が消えた今。
熱気と煙に巻かれて死ぬ可能性が高い。
それでも、この場に留まれば襲撃者に殺されるだけ。
行くしかないと覚悟を決めた俺の頭上で、不気味な轟音が響いていた。
ズゴゴゴゴ……
目を向ける頭上には、空を。
大気を切り裂いて落ちる1つの塊。
巨大隕石。
もはや躊躇はない。
俺は全力で炎が舞う森へと駆けこんだ。
唸りを上げる巨大隕石は、狙ったように妖精の泉。
その中央へと落着する。
ズドドドガーンッッッ!
泉の水が吹き零れ、風が舞い、炎に消える。
その衝撃波に森は、樹木が、俺の身体は大きく吹き飛ばされていた。
シルフィア様を胸に抱きこみ、宝玉を片手に抱え、俺は倒れこむ。
倒れる俺の上には、倒壊した樹木。
まるで盾となり、衝撃波から俺を守ってくれたかのようだ。
しかし……これはマズイ。
俺を隠すかのように覆い被さる樹木だが、その枝に炎が引火していた。
早く移動しなければ、樹木と共に丸焼けである。
身体に力を込めようとする俺の視界に、異形のモンスターの姿が映る。
全身から炎が噴き出た人型のモンスター。
サラマンダー男。
炎精霊の下僕にして炎を扱う異形のモンスター。
その姿は燃え盛る二息歩行のトカゲ男だ。
「グゴッ。もう誰もいやしねーゲッ」
「土のS級魔法。アース・メテオインパクトだゲッ」
「生き残りなんているはずないゲッ」
野郎。俺たちを探しているのか?
だとすれば、今は動けない。
「いちおう魔力サーチしてみるゲッ」
マズイ。俺は息を止め身を潜める。
魔力サーチ。
魔力で周辺の相手を探知する異世界の魔法。
「グゴッ?!」
「なんか引っかかったゲッ?」
魔力サーチに息を止める意味はないだろうが……
覆い被さる樹木に火が周り、触れる俺の身体までもが熱い。
それでも、男は忍耐。今は耐える時。
「……いや。何も引っかからねえゲッ」
「むっちゃ小さい魔力反応あるけど……ネズミか何かだゲッ」
元々俺の魔力は0。
そして、シルフィア様が魔力を失った今。
妖精さんになったシルフィア様の魔力は、わずかに10。
一般人ですら100程度はある中で、魔力10など小動物にしか見えないという。
「そんなん放っておくゲッ」
「それより泉を見るゲ。完全に干上がっているゲッ」
「こりゃ宝玉もろともペシャンコだゲッ」
俺の存在は無視されたようだ。
それは良いのだが……無駄話でサボっているんじゃない。
熱いから早くどこかへ行けという。
何せ今も俺の上では樹木が燃えているのだ。
熱で朦朧とする俺の脳内に、シルフィア様の知識が流れ込んでいた。
───シルフィア様情報───
宝玉。
それはモンスターを生み出す魔力の源。
一般にダンジョンコアと呼ばれる存在。
莫大な魔力を秘め、入手した物はその魔力を受け継ぐダンジョンマスターとなる。
そのため、モンスターも。人間も。ダンジョンコアを求めて争う。
妖精の泉の宝玉は、森の迷宮のダンジョンコア。
生まれ出るモンスターは、妖精。
妖精は魔力に優れる反面、体力に劣り、その寿命は約15年程度。
その体力、寿命を延ばすため、妖精は契約者を求める。
契約する事でお互いの体力、魔力、スキル、そして寿命までをも共有。
一心同体の存在となる。
そのため、なるべく若く生命力にあふれる相手。
そんな契約者を求め、成人した妖精は旅に出る。
契約の際、契約者は妖精の魔力を扱うことができる代償に、妖精の支配下に置かれることとなる。
ある時。
これまで例にない、おそろしく能力の低い妖精が生まれ出た。
その妖精は運動や勉強、魔法はおろか、喋る事すら出来ない落ちこぼれ。
そのため、成人したにも関わらず、いつまでも妖精の泉に。
誰も訪れない宝玉の間に引きこもるしか出来ないでいた。
長年にわたり宝玉の魔力を浴び続けたある時。
落ちこぼれであった妖精は、宝玉の。
ダンジョンコアの力を手に入れ、ダンジョンマスターとなっていた。
そして、その魔力は妖精を精霊へと進化させる。
ダンジョンマスターとして度重なる襲撃から泉を守るうち。
ついには魔族から使者が訪れる。
魔族の傘下に入るよう。ダンジョンコアを差し出すようにと。
魔族を制するのは邪神。
破壊と殺戮を好む邪神の配下になれば、妖精たちは無理矢理ゴブリンと契約させられてしまうだろう。
悩むダンジョンマスターの元へ1人の人間が泉を訪れた。
その能力を見た時、ダンジョンマスターは妖精の泉を。
妖精たちの暮らしを守るため戦う決意を固めていた。
──────────────
シルフィア様が妖精さんの。
自身の情報を隠していた理由。
妖精との契約。それは奴隷契約。
魔力を与えられる代償に、妖精の支配下に置かれるという。
そして、シルフィア様は本物の精霊様ではない。
宝玉の、ダンジョンコアの魔力により進化しただけの偽物。
ダンジョンから切り離されたダンジョンコアは魔力を失う。
ダンジョンコアの魔力が失われては、元の妖精さんに戻るのも必然だ。
「しかしダンジョンコア。もったいないゲッ」
「潰さなくても良いのにゲッ」
「邪神様に逆らった見せしめだゲッ」
世界を制しようとする邪神。そして魔族。
シルフィア様はそれに反抗したばかりに。
そうか……だからこその俺だ。
シルフィア様は襲撃により、いずれ逃げ出す羽目になると分かっていたのだ。
俺の特殊スキル。
暴飲暴食。
ダンジョンコアの魔力を失っても。
精霊の力を失っても生き残れるよう。
俺に付近のモンスターを狩らせ、スキルを習得させたのもそのため。
背中が熱い。
焼け落ちる樹木。
焼けただれる背中。
だが……大丈夫だ。
なぜなら、俺には力がある。
シルフィア様の指導の元。
手に入れた数々のスキル。
その1つ。体力自動再生。
焼けただれた背中の皮膚が、徐々に再生されていく。
シルフィア様は出会ったばかりの俺を信頼し、力を与えてくれた。
もちろん、それはシルフィア様に事情があり思惑があったからだ。
だが、それでも俺はシルフィア様からの信頼が嬉しかった。
何より……妖精の泉での暮らしは楽しかったのだ。
だから──なんとしても泉の宝玉を安全な場所まで。
再び妖精たちのダンジョンを作りだすため。
誰にも干渉されない妖精たちの楽園。
妖精キングダムを建国するため。
それこそが、俺がこの異世界で成すべき事であり、俺の命にかえてもやるべき事。
そして、新たな妖精の泉が、ダンジョンが生まれる時。
そのダンジョンコアもまた力を取り戻し。
シルフィア様も元の御姿を取り戻すはずだ。
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リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
美しい姉と痩せこけた妹
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若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
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『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
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修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
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★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
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現在、第二章シャーカ王国編
【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました
鈴宮ソラ
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オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。
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十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。
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養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。
前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~
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