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第2章

番外編 ⑥ ~星くんの恋愛相談~

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 番外編  ⑥




 放課後。今日は部活が休みらしく、朱里と佐藤さんは隣のクラスの首藤さんに早速話を聞きに行くようだ。

 去年のクラスメイトでそれなりに仲も良かったようだ。
 同じ文系で、クラスが別れてしまったので久しぶりに話しをするという事で、なんだか嬉しそうだった。

 詩織さんは早速家に帰ってから脚本の執筆に取り掛かってくれるようだ。
 正直な話。かなり楽しみだ。
 彼女の作品を読む機会はまだ訪れていないので、実力は未知数だが、かなり期待しても良いのでは?そう思っている。

 そして、真面目に授業を受けてくれ。そうお願いした健は、五時間目と六時間目の授業をしっかりと『寝て』受けていた。……本当にいい根性してるな。

 そして、俺は……


『新聞部』


 怜音先輩に『依頼』をする為に、新聞部の部室の前に来ていた。

 この案件の成功には、新聞部の協力が必要不可欠。
 そして、普通に話しただけでは、怜音先輩は首を縦に振らないだろう。
 きっちりと『利益』と『面白い』話をしないとあの人は動かない。
 逆を言えば、そこさえしっかり提示出来れば動いてくれる。とも言える。

 さて、ここが腕の魅せ所だぞ!!

 俺は扉をノックして声を張り上げる。


 コンコン

「生徒会の副会長。桐崎悠斗です!!怜音先輩に会いに来ました!!」

 すると、中から

「私なら居るよお!!マイダーリン!!」

 と言う声が聞こえてきた。

 ……はぁ。最近その手のからかいが増えてきたな。

 俺は軽くため息を吐いてから扉を開けた。

「やぁ、悠斗くん。今日はどうしたんだよ?」

 と、部屋の中で椅子に座っていた怜音先輩はニマニマと笑いながら話しかけてきた。

「……あなたのダーリンになったつもりはありませんし、名前呼びも許した記憶はありませんよ?」

 俺はそう言いながら、怜音先輩の正面の椅子に座る。

 彼女と話す時の定位置だ。

「ちぇ。冷たいね桐崎副会長」
「俺は冷たいかも知れませんが、話題はホットなのを持ってきましたよ」

 俺がそう言うと、

「へぇ?もしかして、『学園の王子様』についてかな?」
「えぇ、そうです。学食で俺らが集まって話をしてたのはもう掴んでますよね?」

 俺が挑戦的な口調でそう言うと、怜音先輩はニヤリと口元を歪める。

「まぁね。で?君がここに来たってことは私たちの『力が必要』ってことだね」
「違いますよ」

 優位に立とうとする怜音先輩を俺はバッサリと切り捨てる。

「あくまでも俺と怜音先輩は対等の関係です。きちんとギブアンドテイクで行きましょう」
「トキメクことを言うじゃないか。それで、君はうちになんの利益を持ってきたんだ?」

 そう言う怜音先輩に俺はニヤリと笑って言う。

「学園の王子様の恋愛話。興味はありませんか?」

 俺のその言葉に、新聞部の女性部員のほとんどが悲鳴を上げた。なるほど、かなりファンがいるようだ。

「……君。わざとやったね」
「さぁ?なんのことでしょうか」

 半眼で睨む怜音先輩に、俺は両手を広げてすっとぼける。

「はぁ……で、桐崎副会長。君の話を詳しく聞かせてくれないか?」

 よし。これでこちらの話を向こうが求めて来た。という形に出来た。

「はい。まずはこの話は他言無用でお願いしたいんですよね。怜音先輩は心配していませんが、後ろの方々は特に」

 と、俺は牽制をかける。

「わかったわかった。言論統制はきっちりとやる。もし漏れ出るようなことがあるなら、桐崎副会長への『大きな貸し』にしてあげるよ」
「了解です」

 俺はそう言うと、持ってきていたペットボトルのお茶をひと口飲む。

「まず最初に、星くんから俺は恋愛相談を受けたんです。内容としては、彼には好きな人が居るけど告白が出来無い状態にある。と」
「ふぅん……まぁ、理由の想像は着くね。支援金のせいだろ?」

 流石。頭がキレる怜音先輩。

「おっしゃる通りです。詳しい金額は伏せますが、既に五桁の金額が、彼個人に支援金として振り込まれています」
「まぁ、その内の一割は新聞部の取り分になってるからね。こちらとしても悪くない話だね」

「えぇ。ですが、彼にもし彼女が出来たりなんかしたら、支援金が減ることは目に見えています」

 俺はチラリと怜音先輩の後ろの女子生徒を見る。
 みんなはサッと目を逸らした。

「なので、彼は自分の恋心は封印して、部活に専念しようと考えていたのですが、事情が変わりました」
「王子様が恋慕する相手にライバルでも出来たのかい?」
「そうです。そして、その星くんが恋慕する相手は、その男の人を迷惑に思っています」
「なるほどね。だけど、支援金の絡みがあるから王子様は迂闊に動けない。そこでどうしたもんかと、君に相談をしたわけか」

 怜音先輩の言葉に俺は首を縦に振った。

「そこで俺は考えたんですよ。どうにかする方法ってのを」

 そう言う俺に、怜音先輩が聞く。

「ちなみに桐崎副会長。王子様が恋慕する相手は誰なんだい?」
「サッカー部のマネージャー。首藤美月さんです。深緑の令嬢というあだ名が付いている方ですね」
「……へぇ、彼女か。王子様はなかなか女を見る目があるね」
「ですね。俺もそう思いました」

 後ろの女性たちは絶望的な表情をしてるが。
 まぁ、そのくらいの支援金減は許容範囲だろう。

「それで、桐崎副会長の『案』と言うのは何なんだ?」
「『学園の王子様が深緑の令嬢を悪漢の手から救い出す』そういうストーリーを作り上げることにしました」

 俺がそう言うと、怜音先輩はニヤリと笑った。

「なるほどね。その全容を新聞部が記事にする。そういう事か」
「流石怜音先輩。理解が早いですね」
「そんな見え見えのお世辞は要らないよ。まったく。君の手のひらの上で踊らされてしまったよ」

 怜音先輩はそう言うと、流し目で俺を見る。

「……なぁ、悠斗くん。君、私の男にならないか?」
「…………はい?」

 怜音先輩の言葉に、新聞部の空気がザワつく。

「藤崎朱里や黒瀬詩織。私の親友の蒼井空では無く、私の男にならないか?何、退屈はさせないよ?」
「……ご冗談を」

 俺がそう言うと、怜音先輩は自分の胸を持ち上げる。

「ほら、私も黒瀬さんほどではないけど中々のおっぱいだろ?楽しませてあげられるよ?」

 なんて言う彼女に、俺は言う。

「怜音先輩」
「……ん、なんだい?」

「確かに魅力的な提案に心が動きそうになりますが、遠慮しておきます。それに、俺と怜音先輩は『男と女の関係』になるよりも『今の関係』の方が楽しいと思いますよ?」
「……へぇ」

 スっと目が細くなった怜音先輩に俺は続ける。

「それに、あなたの性格上『俺の恋愛関係の渦中に入る』より『俺の恋愛関係の観測者』でいることの方が好みだと思いますよ?」

 俺がそう言うと、怜音先輩は大きく笑った。

「確かに、そうだね。君は本当に私の事を良く知ってる」



 本気で欲しくなっちゃうじゃないか。



 ボソリと呟かれたその一言は。聞かなかったことにした。

「では、怜音先輩。どのような記事にするかはお任せします。面白可笑しく煽り立ててください」

 俺はそう言うと、椅子を立ち上がる。

 そして、俺は怜音先輩に最後こう言った。


「この案件が上手くいったら、俺の事を名前で呼んでもいいですよ。怜音先輩」

 パチン。とウィンクを一つして、俺は背中を向けた。

「あはは!!それはかなりの報酬だな!!是が非でもやり遂げてあげるよ、桐崎副会長」


 俺はその言葉を聞きながら、新聞部の扉を閉めた。






「はぁ……疲れた」


 何とか新聞部の……怜音先輩の協力を得ることは出来た。

 ホント、あの人と話すと疲れるんだよな。


「そんな人と男と女の関係になる?無理無理。死んじゃうよ」


 俺は軽く苦笑いを浮かべながら、欲望に流されなかったさっきの自分の対応を褒めてあげた。




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