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第2章
第五話 ㉘ ~激戦の予算会議~ 放課後 蒼井視点 その⑤
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第五話 ㉘
蒼井視点
『俺、生徒会に募金するよ』
僕の目の前の画面に、その言葉が映し出された。
そして、その言葉を皮切りに、画面一面に、僕を支援する言葉が溢れ出した。
『俺、生徒会に募金するよ』『私もするよ!!』『みんなでお金集めようぜ!!』『蒼井生徒会長を助けようぜ!!』『そこまで悲壮な覚悟してたなんて知らなかった……』『俺たちで蒼井生徒会長を支えるんだ!!』
そのコメントを見て、僕の目に涙が浮かぶ。
な、泣いちゃダメだ!!僕は生徒会長だぞ!!情けない姿をみんなに見せる訳には……でも、さっきまでの僕は、本当に情けない姿だった。
……そうか、そんな僕だから、こうしてみんなが『支えよう』って思ってくれたんだ。
そして僕は、目に浮かんだ涙を気合で引っ込め、桐崎くんを見る。
「……え?」
彼は動画のコメントを見ても笑顔ひとつ見せることなく、気を引き締めた表情をしてる。
……そうだ。僕は何を勘違いしているんだ。まだ、勝ったわけではない。ようやく戦える環境になっただけだ。
それなのに、僕だけこんな緩んだ気持ちでいてどうする!!
そんな僕の背中を押すように、桐崎くんは須藤くんと向き合い、議論を再開させた。
「須藤部長。このコメントを見て、まだ『くだらない妄想』と言えますか?」
このコメントを見れば『募金で予算を賄える』そんな可能性は見れる。これが桐崎くんのひとつの武器なんだ。
「……なるほどな。確かに動画のコメントを見ると、貴様たち生徒会を支えようと考える生徒が多くいることがわかるな」
「いえ、須藤部長。そのお言葉は少しだけ違います」
「……なに?」
え、違うのかい?桐崎くん。
「みんなが支えたいと思ったのは生徒会と言う組織では無く、蒼井生徒会長です。全ては彼女の献身の姿勢のおかげです。俺はその姿をみんなに教えただけです」
そして、この教える。という行為が大切なんです。
な、なんだかさっきから桐崎くんには恥ずかしいことばかり言われてる気が……
「蒼井生徒会長の見目の麗しさは皆の知るところでした。しかし、その内面。人間性の素晴らしさを生徒の皆様は知りませんでした。しかし、こうして動画を配信することで、教えることが出来、その姿に感銘を受ける生徒が多数いた。そしてこれは皆様にも言えることでは無いのでしょうか?」
み、見目の麗しさああああああああああああああああああああ!!!!!!????????
さっきから本当に彼はその言葉を多用してるけど、僕を辱めたいのかな……
い、いや……外見を褒められることは結構あったけど、彼にそれを言われると、顔が熱くなる……
「広報を通じて皆様の目に見える活躍だけでなく、その内面。部活動の素晴らしさを伝えることが出来れば、お金以上のものが手に入るかも知れません」
「お金以上のもの。ペテン師が良く言う、好きそうなセリフだな。一体それはなんだと言うんだ?」
ペテン師という言葉。それに対してのイメージ。
桐崎くんはこれにどう答えるんだ?
「たくさんの部員を抱える、野球部の須藤さんには分からないかも知れません。そしてそれは会話には参加してませんが、サッカー部の館山さん、バスケ部の堀内さんにも言えるかもしれません」
桐崎くんのその言葉に、運動部のトップ3が目を細める。
その挑発的とも取れる言葉に、僕は『彼は本当に年下の男の子なのか?』と疑問にすら感じた。
そして、桐崎くんは僕に話してはいなかった、自身の案の隠されていた部分をどんどんと露わにして行く。
「部員が増える。その可能性が大きくなります」
彼のその言葉に、中小の部活の部長が反応した。
確かに、部活の存続に関わる問題だ。野球部やサッカー、バスケならそんな心配は無いだろう。
「新聞の一角を彩る小説を読んで、文芸部に入るかもしれません。広報の魅力を通じて新聞部や放送部に入るかもしれません。山登りの達成感や美しさを知り山岳部に入るかもしれません。演劇の素晴らしさを見て演劇部に入るかも知れません。これはほんの一例ですが、部員の数は中小の部活動にとっては死活問題です」
そうだろう。自分が卒業したら、廃部になった。
そういう部活も毎年出てきている。
「そして、部員の増加は皆様に副次的な効果ももたらします」
「副次的な効果?」
「はい。来年以降の話になりますが、部員が増えれば基本となる予算が増えます。基本の予算は部員数に比例しますからね。そして部員が増えれば出来高の達成も容易になります」
「……なるほど」
「そして、広報は学園内で留めるつもりはありません」
そう言うと桐崎くんは新聞部の怜音を見た。
もしかして、今日の朝に彼女と話しをしたというのは……
「新聞部の三輪部長とも話をしてあります。これまでは学内だけだった公報を、学外にも広げます。新聞部の皆様には仕事が増えてしまいますが、了承を得ています。そうすることによって得られることもあります」
「……持って回した言い方を好む奴だな。早く結論を言え」
珍しく、感情を露わにする須藤くん。
すごい……さっきからずっと桐崎くんのペースで話が進んでいる。
そして、桐崎くんは須藤くんに答える。
「生徒数が増える可能性があります」
ざわり……
会議室の空気が乱れる。それはそうだ。
一生徒の案によって、生徒数が増えるなんて……
「皆様の活躍や部活の素晴らしさを知り、この学園の魅力を学外にも伝えることが出来れば、志望校に悩む中学生、そしてその親御さんにも響く可能性もあります。そうすれば、来年以降の新規入学生徒が増えます。生徒数が増えれば、会費も増えますので、予算の底上げにも繋がります」
「……なるほどな」
すごい。本当に彼が話している内容は理にかなっている。
そして、そんな桐崎くんが、突然頬を緩める。
「そして、自分にはふたつ下の可愛い妹が居ます」
「……それがどうした?」
「その妹は来年。うちの学園に入るそうです。手前味噌ですが、とてもとてもとても可愛い妹です。あ、手を出したらいくらみなさんでも許しませんよ?まぁその頃にはみなさんは卒業してるでしょうけど」
こうして少しの冗談を混じえて場の空気をコントロールする。僕はさっきから感心してばかりだ。
動画には、彼をからかうコメントがたくさん寄せられてきた。
そして、桐崎くん緩ませた頬を引きしめ、一転して真面目な口調で話をする。
「その妹がこの学園に入学した時に、今でも良い学園ですが、さらに良い学園にしたいと思っています。俺の言う良い学園と言うのは、『各部活動が活発に活動している』という事です」
「自分は生徒会に入会する時に、蒼井生徒会長に言いました。『広報の活性化は学園全体の活性化に繋がる』と。ですので、今後も生徒会は新聞部と連携をしながら、色々なことをしていこうと考えています」
そう。彼はずっとそのことについて、話をしていた。
そして、桐崎くんは怜音に視線を向けると、やれやれと首を横に振った。
「まぁ、流石に『ペテン師』という記事は今後は勘弁していただきたいところですがね」
その言葉に、みんなが笑いだした。
……彼にとっては、『ペテン師』という悪評すら、冗談のネタのひとつに過ぎないのか。
そして、和やかな雰囲気のまま、彼は会議を締めにかかった。
「さて、以上がこの予算会議における自分の案に対しての補足事項になります。ご理解いだけたでしょうか?」
桐崎くんがそう言うと、皆は渋々と言った感じだが、首を縦に振った。
……変だな。てっきり、みんなしっかり納得したと思ったけど。
そんな僕の思惑とは別に、桐崎くんは声を張り上げた。
「それでは、今年の予算会議はこれにて終幕とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!」
……うーん。これで本当にいいのかな?
そんなことを思っていたが、
桐崎くんは怜音には視線を向け、カメラを止めた。
動画の配信が終了し、会議室の中の様子を普通の生徒が知る手段が無くなる。
そして、そんな会議室に、桐崎くんの声が響いた。
「さて、皆さん。『裏の予算会議』を始めましょう」
と。
蒼井視点
『俺、生徒会に募金するよ』
僕の目の前の画面に、その言葉が映し出された。
そして、その言葉を皮切りに、画面一面に、僕を支援する言葉が溢れ出した。
『俺、生徒会に募金するよ』『私もするよ!!』『みんなでお金集めようぜ!!』『蒼井生徒会長を助けようぜ!!』『そこまで悲壮な覚悟してたなんて知らなかった……』『俺たちで蒼井生徒会長を支えるんだ!!』
そのコメントを見て、僕の目に涙が浮かぶ。
な、泣いちゃダメだ!!僕は生徒会長だぞ!!情けない姿をみんなに見せる訳には……でも、さっきまでの僕は、本当に情けない姿だった。
……そうか、そんな僕だから、こうしてみんなが『支えよう』って思ってくれたんだ。
そして僕は、目に浮かんだ涙を気合で引っ込め、桐崎くんを見る。
「……え?」
彼は動画のコメントを見ても笑顔ひとつ見せることなく、気を引き締めた表情をしてる。
……そうだ。僕は何を勘違いしているんだ。まだ、勝ったわけではない。ようやく戦える環境になっただけだ。
それなのに、僕だけこんな緩んだ気持ちでいてどうする!!
そんな僕の背中を押すように、桐崎くんは須藤くんと向き合い、議論を再開させた。
「須藤部長。このコメントを見て、まだ『くだらない妄想』と言えますか?」
このコメントを見れば『募金で予算を賄える』そんな可能性は見れる。これが桐崎くんのひとつの武器なんだ。
「……なるほどな。確かに動画のコメントを見ると、貴様たち生徒会を支えようと考える生徒が多くいることがわかるな」
「いえ、須藤部長。そのお言葉は少しだけ違います」
「……なに?」
え、違うのかい?桐崎くん。
「みんなが支えたいと思ったのは生徒会と言う組織では無く、蒼井生徒会長です。全ては彼女の献身の姿勢のおかげです。俺はその姿をみんなに教えただけです」
そして、この教える。という行為が大切なんです。
な、なんだかさっきから桐崎くんには恥ずかしいことばかり言われてる気が……
「蒼井生徒会長の見目の麗しさは皆の知るところでした。しかし、その内面。人間性の素晴らしさを生徒の皆様は知りませんでした。しかし、こうして動画を配信することで、教えることが出来、その姿に感銘を受ける生徒が多数いた。そしてこれは皆様にも言えることでは無いのでしょうか?」
み、見目の麗しさああああああああああああああああああああ!!!!!!????????
さっきから本当に彼はその言葉を多用してるけど、僕を辱めたいのかな……
い、いや……外見を褒められることは結構あったけど、彼にそれを言われると、顔が熱くなる……
「広報を通じて皆様の目に見える活躍だけでなく、その内面。部活動の素晴らしさを伝えることが出来れば、お金以上のものが手に入るかも知れません」
「お金以上のもの。ペテン師が良く言う、好きそうなセリフだな。一体それはなんだと言うんだ?」
ペテン師という言葉。それに対してのイメージ。
桐崎くんはこれにどう答えるんだ?
「たくさんの部員を抱える、野球部の須藤さんには分からないかも知れません。そしてそれは会話には参加してませんが、サッカー部の館山さん、バスケ部の堀内さんにも言えるかもしれません」
桐崎くんのその言葉に、運動部のトップ3が目を細める。
その挑発的とも取れる言葉に、僕は『彼は本当に年下の男の子なのか?』と疑問にすら感じた。
そして、桐崎くんは僕に話してはいなかった、自身の案の隠されていた部分をどんどんと露わにして行く。
「部員が増える。その可能性が大きくなります」
彼のその言葉に、中小の部活の部長が反応した。
確かに、部活の存続に関わる問題だ。野球部やサッカー、バスケならそんな心配は無いだろう。
「新聞の一角を彩る小説を読んで、文芸部に入るかもしれません。広報の魅力を通じて新聞部や放送部に入るかもしれません。山登りの達成感や美しさを知り山岳部に入るかもしれません。演劇の素晴らしさを見て演劇部に入るかも知れません。これはほんの一例ですが、部員の数は中小の部活動にとっては死活問題です」
そうだろう。自分が卒業したら、廃部になった。
そういう部活も毎年出てきている。
「そして、部員の増加は皆様に副次的な効果ももたらします」
「副次的な効果?」
「はい。来年以降の話になりますが、部員が増えれば基本となる予算が増えます。基本の予算は部員数に比例しますからね。そして部員が増えれば出来高の達成も容易になります」
「……なるほど」
「そして、広報は学園内で留めるつもりはありません」
そう言うと桐崎くんは新聞部の怜音を見た。
もしかして、今日の朝に彼女と話しをしたというのは……
「新聞部の三輪部長とも話をしてあります。これまでは学内だけだった公報を、学外にも広げます。新聞部の皆様には仕事が増えてしまいますが、了承を得ています。そうすることによって得られることもあります」
「……持って回した言い方を好む奴だな。早く結論を言え」
珍しく、感情を露わにする須藤くん。
すごい……さっきからずっと桐崎くんのペースで話が進んでいる。
そして、桐崎くんは須藤くんに答える。
「生徒数が増える可能性があります」
ざわり……
会議室の空気が乱れる。それはそうだ。
一生徒の案によって、生徒数が増えるなんて……
「皆様の活躍や部活の素晴らしさを知り、この学園の魅力を学外にも伝えることが出来れば、志望校に悩む中学生、そしてその親御さんにも響く可能性もあります。そうすれば、来年以降の新規入学生徒が増えます。生徒数が増えれば、会費も増えますので、予算の底上げにも繋がります」
「……なるほどな」
すごい。本当に彼が話している内容は理にかなっている。
そして、そんな桐崎くんが、突然頬を緩める。
「そして、自分にはふたつ下の可愛い妹が居ます」
「……それがどうした?」
「その妹は来年。うちの学園に入るそうです。手前味噌ですが、とてもとてもとても可愛い妹です。あ、手を出したらいくらみなさんでも許しませんよ?まぁその頃にはみなさんは卒業してるでしょうけど」
こうして少しの冗談を混じえて場の空気をコントロールする。僕はさっきから感心してばかりだ。
動画には、彼をからかうコメントがたくさん寄せられてきた。
そして、桐崎くん緩ませた頬を引きしめ、一転して真面目な口調で話をする。
「その妹がこの学園に入学した時に、今でも良い学園ですが、さらに良い学園にしたいと思っています。俺の言う良い学園と言うのは、『各部活動が活発に活動している』という事です」
「自分は生徒会に入会する時に、蒼井生徒会長に言いました。『広報の活性化は学園全体の活性化に繋がる』と。ですので、今後も生徒会は新聞部と連携をしながら、色々なことをしていこうと考えています」
そう。彼はずっとそのことについて、話をしていた。
そして、桐崎くんは怜音に視線を向けると、やれやれと首を横に振った。
「まぁ、流石に『ペテン師』という記事は今後は勘弁していただきたいところですがね」
その言葉に、みんなが笑いだした。
……彼にとっては、『ペテン師』という悪評すら、冗談のネタのひとつに過ぎないのか。
そして、和やかな雰囲気のまま、彼は会議を締めにかかった。
「さて、以上がこの予算会議における自分の案に対しての補足事項になります。ご理解いだけたでしょうか?」
桐崎くんがそう言うと、皆は渋々と言った感じだが、首を縦に振った。
……変だな。てっきり、みんなしっかり納得したと思ったけど。
そんな僕の思惑とは別に、桐崎くんは声を張り上げた。
「それでは、今年の予算会議はこれにて終幕とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!」
……うーん。これで本当にいいのかな?
そんなことを思っていたが、
桐崎くんは怜音には視線を向け、カメラを止めた。
動画の配信が終了し、会議室の中の様子を普通の生徒が知る手段が無くなる。
そして、そんな会議室に、桐崎くんの声が響いた。
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