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第2章 後編
永久side ①
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永久side ①
放課後。私は南野さんと一緒に体育館の裏へとやって来ていました。
教室では落ち着いて話が出来ないのはわかっていましたからね。
まぁ昼ごはんの後の教室での質問攻めには私も些か辟易していましたし。
クラスメイトの心無い質問に、霧都くんがかなりイライラを募らせているのもわかっていました。
『北島さんと二股するつもりなのか』
なんて言う質問に対して、
『そういう頭の悪い事は言わないでくれないか?』
との答えが聞こえてきました。
普段の彼からは考えられないような冷たい声色に、クラスが凍りつきました。
その後、教室へとやって来た南野さん。
『あら、どうしたのかしら?教室の空気が重いわね』
彼女は霧都くんに向かって言いました。
『昼の放送のことなら私の本音よ。まぁ霧都があれを聞いてどうするかは任せるわよ』
『そうか……』
『私は別に北島さんと別れろなんて言うつもりは微塵も無いわよ。でもね、霧都とこのまま疎遠になるのは寂しいわ。また昔のように仲良く過ごせることを望んでるだけよ』
なるほど。そう来ましたか。
今の言い方の南野さんを、私や霧都くんが邪険にするようなことをすれば、こちらが悪者になるでしょう。
本心はともかくとして、彼女の話の要点は
『私と霧都くんの仲を邪魔するつもりは無い』
『南野さんの望みは霧都くんと幼馴染として仲良くすること』
この二点です。
『彼女』としての立場なら、『この程度のこと』を容認するのは普通と見られるでしょうね。
ですから、私はこの事に関しては何も言いませんでした。
やはり彼女は本気にさせると怖いですね。
『味方』を作るのが上手な方です。
桐崎さんや星くんが味方でなかったら、ゾッとします。
そんなことを考えながら放課後を迎えました。
SHRが終わったあと、南野さんが私の机の前に来て言いました。
『ちょっと話したいことがあるのよ。ここだと人の目があるから私に着いてきてちょうだい』
『ふふふ。良いですよ。私も南野さんとお話がしたかったので』
そう言って私と南野さんは教室を後にしました。
そして、やって来たのが『体育館の裏』という訳です。
「悪かったわね。こんなジメジメしたところに連れてきて」
「いえ、気にしないでください。ここなら誰にも聞かれずに話が出来ますからね」
私がそう答えると、南野さんは少しだけ唇の端を釣り上げました。
「昼の放送で話したこと。あとは教室で私が言ったこと。それは一部分では本当よ」
「どこが本当なのかは聞かせてくれるんですか?少なくとも貴女の望みが『霧都くんと幼馴染に戻ること』では無いことはわかってますよ」
私がそう答えると、南野さんはヤレヤレと手を広げました。
「そうね。私の望みは霧都と『本当の家族』になることよ。夫婦としての家族。と言えるわね」
「私はね貴女たちが『付き合っていても構わない』そう思っているわ」
「……どういうことですか?」
私の質問に南野さんはニヤリと笑いました。
不愉快ですね。何がそんなに余裕なんですか。
「北島永久さん。貴女は現状霧都の『彼女』よ。他人の『最上位』と言えるポジションに居るわ」
「そうですね。南野さんはせいぜい彼の『幼馴染』恋人の『下位互換』ですね」
私のその言葉に、もはや南野さんは表情すら変えません。
「私は霧都に彼女が居ても構わないわ。だって私がなりたいのは彼女では無くて『妻』なのだから」
「……理解に苦しみますね。南野さん。貴女は何が言いたいんですか?彼女の先に妻があると私は思いますよ」
「私はね、霧都が貴女と手を繋いで、デートをして、腕を組んで、キスをして、セックスをして、子供を作っても構わないと思ってるのよ」
「そんな行為は彼女の身分でも出来ることよ。でもね、私は霧都の妻になりたい。藤崎朱里が言ったわ。日本では市役所に婚姻届を出した人物と家族になる。とね」
「血の繋がった家族では無く、本当の家族になる為には、あの紙切れが必要なのよね。だから私はその紙切れ一枚の為に、貴女に全てを譲り渡しても構わない。そう思ってるわ」
南野さんの言葉を全て聞いた私は、大きくため息をつきました。
「はぁ……なるほど。南野さんの言いたいことは理解しました。ですが、その上で私の答えを言いますね」
私はしっかりと南野さんの目を見て言います。
「答えは当然『NO』です。私は霧都くんの全てが欲しい。一欠片だって貴女には渡しませんよ」
私のその言葉に、南野さんはニヤリと笑いました。
「あはは。まぁ、当然よね。私はここで貴女から『YES』なんて答えが聞けるとは思ってないわ」
「だったら、なんでそんなことを言ったんですか?」
私のその問いに、南野さんは少しだけ遠い目をしました。
「黒瀬詩織が『覚悟』について話をしたのよ」
「く、黒瀬先輩が……」
「あの女は凄いわね。桐崎悠斗の『一番』になる為には一生を賭しても構わないと思ってる。一日でも、一時間でも、一秒でも一番になれる瞬間があるなら諦めない。あの先輩はそう語ったわ」
「そうですね。あの人はそういう人です」
そういう私に、南野さんは言いました。
「だから私も諦めないわ。霧都の『妻』なれる時が来るまで。その期間が一日でも、一時間でも、一秒でも、貴女より長生きをして、貴女がこの世から消え去った時に、私が霧都の妻になる。そんなポジションを掴み取ってやるわよ」
「そうですか。ですが、南野さん。それは多分無理だと思いますよ」
私はそう言って少しだけ悲しい思いを持ちながら言いました。
「寿命がありますからね。男と女でしたら女の方が長生きします。私は霧都くんが死んだらその場で死のうと思ってますから」
「あはは。貴女もなかなか愛の重い女ね。その時は私も一緒に死んでやるわよ」
その言葉に、私は笑いました。
「でしたら、死んだあとの世界でも、霧都くんの妻に私はなります」
「死んだあとの世界でも、私は霧都の妻になるために頑張るわよ」
「それが貴女の『覚悟』ですか?」
「そうよ。これが私の『覚悟』よ」
私の問いに、彼女はそう答えました。
「はぁ……わかりました。それでしたら、南野さんの覚悟に免じて今日に限り、『帰宅時間だけ』彼を譲りますよ」
「あら?太っ腹ね。豊かなのは胸だけかと思ってたわ」
「口の減らない人ですね。胸は貧相ですが口は豊かなんですね?」
「……なんですって?」
「なんですか?」
そう言った後、私と南野さんは笑い合いました。
「貴女とは一生戦い続けるわ」
「望むところです。受けて立ちますよ」
「永久。貴女は私の敵よ」
「凛音さん。貴女は私の敵です」
私たちはお互いを『名前』で呼び合いました。
そして、凛音さんは私の横を通り過ぎる時に言いました。
「霧都との『帰宅時間』は大切に使わせてもらうわよ」
「私は彼を信じてます。これも『正妻としての器』として必要だと思いますからね」
私はそう言って彼女に笑いかけました。
「じゃあね、永久。また明日」
「さよなら凛音さん。また明日」
そう言って私たちは対話を終えました。
そして、私はスマホを取りだして、彼にメッセージを送りました。
『凛音さんとのお話が終わりました。今日は私一人で帰らせてもらいます。霧都くんは凛音さんと帰ってください』
と。
「霧都くん……私は、貴方を信じています」
体育館の裏で、私は小さくそう呟きました。
放課後。私は南野さんと一緒に体育館の裏へとやって来ていました。
教室では落ち着いて話が出来ないのはわかっていましたからね。
まぁ昼ごはんの後の教室での質問攻めには私も些か辟易していましたし。
クラスメイトの心無い質問に、霧都くんがかなりイライラを募らせているのもわかっていました。
『北島さんと二股するつもりなのか』
なんて言う質問に対して、
『そういう頭の悪い事は言わないでくれないか?』
との答えが聞こえてきました。
普段の彼からは考えられないような冷たい声色に、クラスが凍りつきました。
その後、教室へとやって来た南野さん。
『あら、どうしたのかしら?教室の空気が重いわね』
彼女は霧都くんに向かって言いました。
『昼の放送のことなら私の本音よ。まぁ霧都があれを聞いてどうするかは任せるわよ』
『そうか……』
『私は別に北島さんと別れろなんて言うつもりは微塵も無いわよ。でもね、霧都とこのまま疎遠になるのは寂しいわ。また昔のように仲良く過ごせることを望んでるだけよ』
なるほど。そう来ましたか。
今の言い方の南野さんを、私や霧都くんが邪険にするようなことをすれば、こちらが悪者になるでしょう。
本心はともかくとして、彼女の話の要点は
『私と霧都くんの仲を邪魔するつもりは無い』
『南野さんの望みは霧都くんと幼馴染として仲良くすること』
この二点です。
『彼女』としての立場なら、『この程度のこと』を容認するのは普通と見られるでしょうね。
ですから、私はこの事に関しては何も言いませんでした。
やはり彼女は本気にさせると怖いですね。
『味方』を作るのが上手な方です。
桐崎さんや星くんが味方でなかったら、ゾッとします。
そんなことを考えながら放課後を迎えました。
SHRが終わったあと、南野さんが私の机の前に来て言いました。
『ちょっと話したいことがあるのよ。ここだと人の目があるから私に着いてきてちょうだい』
『ふふふ。良いですよ。私も南野さんとお話がしたかったので』
そう言って私と南野さんは教室を後にしました。
そして、やって来たのが『体育館の裏』という訳です。
「悪かったわね。こんなジメジメしたところに連れてきて」
「いえ、気にしないでください。ここなら誰にも聞かれずに話が出来ますからね」
私がそう答えると、南野さんは少しだけ唇の端を釣り上げました。
「昼の放送で話したこと。あとは教室で私が言ったこと。それは一部分では本当よ」
「どこが本当なのかは聞かせてくれるんですか?少なくとも貴女の望みが『霧都くんと幼馴染に戻ること』では無いことはわかってますよ」
私がそう答えると、南野さんはヤレヤレと手を広げました。
「そうね。私の望みは霧都と『本当の家族』になることよ。夫婦としての家族。と言えるわね」
「私はね貴女たちが『付き合っていても構わない』そう思っているわ」
「……どういうことですか?」
私の質問に南野さんはニヤリと笑いました。
不愉快ですね。何がそんなに余裕なんですか。
「北島永久さん。貴女は現状霧都の『彼女』よ。他人の『最上位』と言えるポジションに居るわ」
「そうですね。南野さんはせいぜい彼の『幼馴染』恋人の『下位互換』ですね」
私のその言葉に、もはや南野さんは表情すら変えません。
「私は霧都に彼女が居ても構わないわ。だって私がなりたいのは彼女では無くて『妻』なのだから」
「……理解に苦しみますね。南野さん。貴女は何が言いたいんですか?彼女の先に妻があると私は思いますよ」
「私はね、霧都が貴女と手を繋いで、デートをして、腕を組んで、キスをして、セックスをして、子供を作っても構わないと思ってるのよ」
「そんな行為は彼女の身分でも出来ることよ。でもね、私は霧都の妻になりたい。藤崎朱里が言ったわ。日本では市役所に婚姻届を出した人物と家族になる。とね」
「血の繋がった家族では無く、本当の家族になる為には、あの紙切れが必要なのよね。だから私はその紙切れ一枚の為に、貴女に全てを譲り渡しても構わない。そう思ってるわ」
南野さんの言葉を全て聞いた私は、大きくため息をつきました。
「はぁ……なるほど。南野さんの言いたいことは理解しました。ですが、その上で私の答えを言いますね」
私はしっかりと南野さんの目を見て言います。
「答えは当然『NO』です。私は霧都くんの全てが欲しい。一欠片だって貴女には渡しませんよ」
私のその言葉に、南野さんはニヤリと笑いました。
「あはは。まぁ、当然よね。私はここで貴女から『YES』なんて答えが聞けるとは思ってないわ」
「だったら、なんでそんなことを言ったんですか?」
私のその問いに、南野さんは少しだけ遠い目をしました。
「黒瀬詩織が『覚悟』について話をしたのよ」
「く、黒瀬先輩が……」
「あの女は凄いわね。桐崎悠斗の『一番』になる為には一生を賭しても構わないと思ってる。一日でも、一時間でも、一秒でも一番になれる瞬間があるなら諦めない。あの先輩はそう語ったわ」
「そうですね。あの人はそういう人です」
そういう私に、南野さんは言いました。
「だから私も諦めないわ。霧都の『妻』なれる時が来るまで。その期間が一日でも、一時間でも、一秒でも、貴女より長生きをして、貴女がこの世から消え去った時に、私が霧都の妻になる。そんなポジションを掴み取ってやるわよ」
「そうですか。ですが、南野さん。それは多分無理だと思いますよ」
私はそう言って少しだけ悲しい思いを持ちながら言いました。
「寿命がありますからね。男と女でしたら女の方が長生きします。私は霧都くんが死んだらその場で死のうと思ってますから」
「あはは。貴女もなかなか愛の重い女ね。その時は私も一緒に死んでやるわよ」
その言葉に、私は笑いました。
「でしたら、死んだあとの世界でも、霧都くんの妻に私はなります」
「死んだあとの世界でも、私は霧都の妻になるために頑張るわよ」
「それが貴女の『覚悟』ですか?」
「そうよ。これが私の『覚悟』よ」
私の問いに、彼女はそう答えました。
「はぁ……わかりました。それでしたら、南野さんの覚悟に免じて今日に限り、『帰宅時間だけ』彼を譲りますよ」
「あら?太っ腹ね。豊かなのは胸だけかと思ってたわ」
「口の減らない人ですね。胸は貧相ですが口は豊かなんですね?」
「……なんですって?」
「なんですか?」
そう言った後、私と南野さんは笑い合いました。
「貴女とは一生戦い続けるわ」
「望むところです。受けて立ちますよ」
「永久。貴女は私の敵よ」
「凛音さん。貴女は私の敵です」
私たちはお互いを『名前』で呼び合いました。
そして、凛音さんは私の横を通り過ぎる時に言いました。
「霧都との『帰宅時間』は大切に使わせてもらうわよ」
「私は彼を信じてます。これも『正妻としての器』として必要だと思いますからね」
私はそう言って彼女に笑いかけました。
「じゃあね、永久。また明日」
「さよなら凛音さん。また明日」
そう言って私たちは対話を終えました。
そして、私はスマホを取りだして、彼にメッセージを送りました。
『凛音さんとのお話が終わりました。今日は私一人で帰らせてもらいます。霧都くんは凛音さんと帰ってください』
と。
「霧都くん……私は、貴方を信じています」
体育館の裏で、私は小さくそう呟きました。
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