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第2章 前編

第二十話 ~予算会議の質問には何とか答えることが出来ました~

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 第二十話




「それでは、第50回海皇高校 部活動予算会議を始めたいと思います。皆さんどうぞよろしくお願いします」



 俺がそう言って頭を下げると、桐崎先輩を中心に拍手が起きる。

 そして、頭を上げてからマイクを持ち会議に入る。

 大丈夫。上手くやれるはずだ。
 前年度の予算会議の動画は穴が空くほど見てきた。

『表』も『裏』も両方。

『では、まずは前年度の数字からご覧下さい』

 俺がそう話をすると、永久さんの手によってプロジェクターに数字が出させる。

 そう、会計職の仕事も彼女が主体的に行うようになっている。
 隣に居る黒瀬先輩はフォローに入るような形だ。

 桐崎さんは当然ながら書記として会議の内容を書き留めている。

 つまり、俺だけかっこ悪いところは見せられない。

『前年度繰越金が0の状態でスタートした去年の予算金額です。約八百万円が収入になり、七百万円の予算が組まれました。この百万円のマージンの部分が出来高で支払う部分に充てられました』

『そして、実績としては各部活動へ出来高としては約百五十万円の支払いが発生しました。本来なら払えないこの五十万円に関しては、前任の生徒会長への支援金とOB寄付金の増加で賄えた形です』

『そして、この支援金と寄付金は約百万円を計上しました。ですので、今年は前年度繰越金は五十万円になります。桐崎生徒会長。たくさんのお金を残してくれて、ありがとうございます』

 俺が桐崎先輩に頭を下げると、先輩は笑いながら

「空さんのお陰だよ。俺は何もしてない」

 と手をヒラヒラと振っていた。

『そして、今年は新入生の数も増加し、基本となる予算金額が増加しました。昼の放送では約八百万円と発言をしましたが、正確には八百五十万円です。前年度繰越金との合算で今年の予算総額は九百万円になります。これは一昨年の金額とほぼ同額の過去最高額になります』


 おー!!

 と各部の部長から声が上がる。
 つまり『予算の増額に期待が込められている』という事だ。
 だけど、簡単にそれを認めてしまっては『来年以降』が大変になってしまう。

 それを考えていなかったのが去年までのうちの高校の予算会議における悪癖だった。

『しかし、ここで簡単に予算の増額をしてしまっては過去の悪癖から抜け出すことは出来ません。今年の予算組をご覧下さい』

 俺がそう言うと、プロジェクターには今年の予算組が映し出される。

 それを見た部長たちの表情が曇った。

 理由は去年と同じ予算組。つまり七百万円の予算になっているからだろう。

 これに関しては桐崎先輩から

『基本となる予算に関しては変動させない。ここを固定化することで予算組にかける時間が大幅に短縮される』

『変動させるのは出来高の部分だ。出来高の金額の増加。対象となる行為の増加で予算の増減を図るのが目的だ』

『あくまでも、部活動の頑張りで自分で部活の予算を増やす。この流れを今後主流にしたいんだ』

 そう話していた。

 ここで放送部の三郷先輩が挙手をした。

「山野先生。発言を求めます!!」
「良いぞ。三郷。発言を許そう」

 山野先生の了承で、部長側のマイクが三郷先輩に渡される。

『放送部の三郷です。まずは桜井庶務に質問です』
『はい。答えます』

『過去最高額の九百万円の予算に対して、組まれた予算が七百万円。これは今年の予算を縮小して、来年以降の自分のために予算を残す行為とも取れます。なぜこの予算を組んだのか、その理由の説明を求めても良いですか?』

 かなり厳しい質問内容。
 ……では無い。

 これは、三郷先輩から
『君に説明の機会をあげるよ。うまく説明しなよ?』
 というメッセージだ。

 優しい先輩だな。

『はい。この質問に関しては三郷先輩だけでなく、ほぼ全ての部長さんの心にあると思います。もちろん、説明をさせていただきます』

『まずは、今年の予算を意図的に縮小して、来年以降に予算を残す。こんなことをするつもりは微塵もありません。そこに関しては皆さんに誓います』

『そして、基本となる予算に関しては変わりませんが、出来高の部分での増加を考えています』

 そう話した後に、プロジェクターには『出来高金額の増加』と『新規出来高項目』が表示される。

『基本となる予算額は変わりませんが、出来高の部分に厚みを持たせる形になっています。あくまでも部活動の頑張りで予算を増やす。この流れを主流にしたい。これが生徒会としての考え方です』

『出来高金額の増加に関して言えば前年度の一割増。そして、新規出来高項目に関しては、地域ボランティアの参加など学外行動にも伸ばしています。これにより『海皇高校のイメージアップ』にも繋がり、これは来年以降の新入生の増加にも繋がる可能性があります』

『生徒数の増加は基本となる予算の増加にもなります。皆さんが卒業した後の、来年以降の予算に関してはこういう形でアプローチをかけて行こうと考えています』

『三郷先輩への質問の応えはこちらになります。ご納得頂けたでしょうか?』

 俺がそう言うと、先輩はニコリと笑って返事をくれた。

『納得しました。あくまでも部活動の頑張りで予算を増やす。生徒会の考えを理解しました。桜井庶務。ありがとうございます』

 先輩はそう言うと、席に座った。

 よし。上手く行ったぞ。

 一息ついたところで、

「おう!!桜井!!今度は俺からの質問だ!!」

 武藤先輩が手を挙げていた。

『はい。では武藤先輩。質問をどうぞ』

 俺がそう言うと、武藤先輩は「そんなもん必要ねぇ!!」とマイクを断って肉声で話し始める。

「野球部とサッカー部とバスケ部には出来高上限が俺達には設定されているはずだ。それに関してはどうなる?そこが増えないと予算の増加にはならないぞ」

 …………そこに関して言えば、説明のレクチャーは受けていない。

 つまり、自分で考えて答えなければならない。

 そして、武藤先輩は桐崎先輩の親友だ。きっと狙ってこの質問をさせてるはずだ。

 だってこの人が『お金のことを考えてるような人』には見えないからだ。

 これは桐崎先輩からの
『このくらいの質問は自力で答えろよ』
 というメッセージ。

 三郷先輩より断然厳しい質問だ。


『はい。その質問に関して言えば出来高の上限を撤廃する。もしくは引き上げる。このことをするつもりはありません』

「何でだよ!!それじゃあ俺たちは予算増加の恩恵を受けられないぞ!!」

『武藤先輩。貴方は来年は居ない人です。野球部三年間の成績は、失礼ながら貴方の貢献度が非常に大きいです』

「来年以降はお前が野球部のエースだ!!同じくらいの成績を残せるはずだろ!?」

 そんな話は受諾していないぞ……

『…………あくまでも自分は生徒会の人間です。野球部は助っ人として考えて欲しいです。ですが、武藤先輩。居なくなる人間が、残る人間に何かを残すことが出来る。それならどうですか?』

「どういう意味だよ?」

 俺はきっとこの質問があると考えていたので、答えを用意していた。

『出来高上限を超えた分の金額は、来年度以降に請求出来る制度にしようと考えています』

『簡単に言えば、今年出来高上限を五万円超えることが出来れば五万円分の金券を発行します。その金券は来年以降いつでも使うことが出来ます。生徒会のお金から支払う形になります』

『武藤先輩が頑張れば頑張るほど、来年の野球部にお金を残すことが出来ます。これは一人のエースが卒業して、成績が仮に下降しても、一定のお金は確保出来る。そうしようと考えています』

『この答えでどうでしょうか?』

 と、俺は武藤先輩を見ながら、桐崎先輩に聞いてみた。

 先輩は俺の視線に笑って答えた。

『悪くない答えだな』

 そう言ってるように見えた。

「おう、悠斗!!俺はこの答えで納得したけど、お前はどうなんだ!?」

 ……やっぱり繋がってたのかよ

「まぁ、悪くない案だな。きっと自分の中で質問を予想していたんだろうな」

 そう言ったあと、先輩は俺を見て話をした。

「桜井庶務。金券の考え方は悪くない。あとは『簡単には複製出来ないように細工をすること』と『使用期限』も付けた方が良いな。でないと制度が悪用される可能性があるな」
『桐崎生徒会長。自分の腹案の改善ありがとうございます。こちらの案に関しては、後日自分と話し合いで煮つめていきましょう』
「あぁ、それで構わない」


 そして、俺は部長たちに問いかける。

『他になにか質問はありますか?』


 俺のその言葉に、挙手は無かった。

『それではこれで第50回 海皇高校予算会議を閉会しようと思います。皆さんご協力ありがとうございました!!』

 俺がそう言って頭を下げると、桐崎先輩を中心に拍手が起きた。


 良かった。無事に役目を果たせたみたいだな。

 俺は頭を下げながら、ホッと一息をついた。

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