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第2章 前編

第十二話 ~永久さんとの二回目のデート・彼女の手料理に舌鼓を打ちました~

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 第十二話


「ただいま」
「お邪魔します」

 スーパーでの買い物を終え、自宅へと戻ってきた俺と永久さん。

 家の中にはやはり誰も居なかった……

 買い物袋を居間のテーブルの上に置きに行くと、俺の視界に小さな箱とメッセージが書かれた紙が挟まってた。

「……なんだこ……れっ!!??」

『0.01mm』
『お兄ちゃんへ。使うか使わないかは自由だけど持ってるのがエチケットだからね!!』

「お、俺の周りの女性が持ってる性への考え方がわからない……」

 とりあえず俺はその避妊具をポケットの中に入れた。

「どうかしましたか、霧都くん?」

 洗面所から手洗いとうがいを終えた永久さんが居間へと顔を出す。

「な、何でもないよ……」

 俺は苦笑いを浮かべながらそれに答えた。

「……?そうですか」

 首を傾げ、訝しげな表情の永久さんの横を通り、

「俺も手洗いとうがいを済ませてくるね」

 と洗面所へと足を運んだ。


「ど、どうしよう……」

 俺は洗面所で手洗いとうがいをしながら考える。

 前回までのお泊まりとは事情が違う。

 前回までは交際をしていない男女の関係。
 今回は交際をしている男女の関係。

『そういうこと』をしても許される関係ではある。

『お互いの同意』があれば……

「そ、そういうのって普通は、男の方から求めていって女性に了承を得るんじゃないかなぁ……」

 付き合い始めて一週間。
 ちょっと……その、ちょっと早いんじゃないかなぁ……

 俺はそんなことを思いながら、あまりここに居すぎるのも問題か。と思って居間へと向かう。

 すると、

「~~~♪」

 鼻歌を歌いながら、玉ねぎをとんとんと切っている永久さんが台所に居た。

「……結婚したらこんな感じなのかな」

 その後ろ姿に、俺は思わずそう呟いた。

「ねぇ、永久さん。なにか手伝えることはあるかな?」

 包丁の動きが止まった頃を見計らって、俺はそう言いながら、彼女に話しかける。

「ふふふ。お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。霧都くんはテレビとかを見て待っててください」
「あはは。そうか、じゃあ楽しみに待たせて貰うよ」

 やんわりとお断りを受けた俺は、居間へと戻る。

 そして、大して興味も無いけどニュースをつける。

『円安がー』『ミサイルがー』『検討します』

 そんなニュースを見ていると、台所から良い匂いがしてきた。

「……腹減ったなぁ」

 思わずそう呟いた俺に、

「ふふふ。お待たせしました、霧都くん」

 永久さんが出来上がったカツ丼を持ってきてくれた。

「うわぁ……美味しそう……」
「ふふふ。あと、豆腐のお味噌汁と千切りキャベツとトマトとレタスのサラダもあります」

 そう言って永久さんはテーブルの上に夕飯を並べてくれた。

「ご馳走じゃないか」
「そう言って貰えると嬉しいです」

 目の前並んだ永久さんの手料理。冷めないうちに食べよう。

 俺と永久さんは「いただきます」と声を揃えて言い、夕飯を口にした。


「美味しい……」
「ふふふ。ありがとうございます」

 しっかりと火が通った玉ねぎと、一口大にカットされた豚カツが、麺つゆで味付けされてとろとろの卵でとじられている。
 カツ丼の美味しさに舌鼓を打っていた。

「味噌汁も美味しいね」
「ありがとうございます。そんなに褒められると照れてしまいます」

 そんな会話をしながら食事をしていると、永久さんが話を切り出した。

「……やはりご迷惑でしたか?」

 泊まりのこと……だよな。
 迷惑では決してない。ただ、やはり心の準備は欲しかったかなぁ……

「迷惑なんかじゃ決して無いよ。たださ、俺も少しは心の準備が欲しかったなぁって」
「そうですよね。その……次回からは気を付けます」

 次回から……
 お、お泊まりは今後も何回もすることは決まってるんですね……

 俺は彼女の言葉の内側に秘められた意味に、少しだけ胸が重くなった。



「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」


 夕飯を全て食べ終わった俺と永久さん。
 食器を流しへと持っていく。

「洗い物は俺がやるからね?」

 作ってもらうだけじゃ流石に申し訳無い。

 せめてこれくらいはさせてもらいたい。

「ふふふ。ありがとうございます。それではよろしくお願いします」

 永久さんはそう言うと洗い物を俺に任せてくれた。

 そして、俺は手早く洗い物を済ませる。

 美鈴が料理を作ってくれるから、こうした洗い物は俺の当番にもなっている。
 何年も続けてきたから手馴れたものだと思う。

 そうして洗い物を終えて、タオルで手を拭いてから居間のテーブルへと戻ると、永久さんが食後の麦茶を用意してくれていた。

「どうぞ。お疲れ様です」
「ありがとう、永久さん」

 俺は氷の入っていない麦茶を一口飲んで息を吐く。

「そろそろお風呂に入ろうと思うんだ」
「そうですね。明日は学校ですので、遅くならないうちにベッドに入りましょう」

 ふわりと笑う彼女に俺は問掛ける。

「……その。やっぱり寝る場所は」
「霧都くんのベッドですよ?」

 で、ですよね……

「じゃあ。お風呂に湯を張ってくるよ」
「はい。お待ちしてます」

 俺はそう言うと、お風呂場へと向かった。






『お風呂が湧きました』

 しばらくすると、お風呂の準備が整ったアナウンスが聞こえてきた。

「出来ましたね。一番風呂は当然ですが、家主の霧都くんです」
「あはは。ありがとう永久さん」

 俺はそう言うと、風呂場へと向かう。

 服を脱いで洗濯機へと投げ入れ、裸になって浴室へと入る。

 軽く身体をお湯で流してから湯船に身を沈める。

「……はぁ。疲れが抜けていく」

 北島家のお風呂には遠く及ばないけど、我が家のお風呂もでかい俺が脚を伸ばせるくらいには浴槽は広い、

「何だかんだで結構歩いたからなぁ……」

 俺はそう呟きながら、顔にお湯をかける。

 そうだよ。もしかしたら『そういうこと』をする間もなく、永久さんは寝てしまうかもしれない。

 とても寝付きの良い彼女。そういう心配をしているのはむしろ俺で、自意識過剰なのかもしれない。

「そうだよ。一緒に寝るのだって、別に恋人同士なら普通の事だよ、明日は学校だし、きっとすぐ寝ることになる」

 俺はそう結論付けると、浴槽から立ち上がって身体と頭を洗った。



「お待たせ、永久さん」

 俺は風呂を済ませると、居間でテレビを見ていた永久さんに話しかける。

「テレビを見ていたので大丈夫ですよ。それではお風呂をいただきますね」

 彼女はそう言うと、持参していた荷物を持ってお風呂場へと向かった。

 俺は風呂上がりに牛乳を飲もうと思い、冷蔵庫を開ける。

 牛乳をコップに注ぎ、少しだけ手のひらで温度を上げてから口にする。

 すると、お風呂場からシャワーの音と永久さんの鼻歌が聴こえてきた……

 駆り立てられる想像。否応なしに我が家のお風呂場で彼女が裸になっているという事が理解出来てしまう……

「り、理性……理性を強く持つんだ……桜井霧都!!」

 俺は牛乳を飲んだコップを洗い、そう呟きながら自室へと戻った。
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