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第2章 前編

永久side ①

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 永久side  ①



『あんたがまだ学校に残ってるというのは知ってるわ。話したいことがあるから体育館の裏まで来てちょうだい』

 放課後。霧都くんが野球部のバッティングピッチャーをすることになったので、私はその勇姿を見ていました。

 マウンドに立つ彼は、やはりとてもかっこ良くて、並み居る強打者の先輩たちを意図も簡単に打ち取っていました。

 ですが、武藤先輩だけは難しく、特大ホームランを打たれてしまっていました。

 その打球は生徒会室の窓ガラスを割ってしまい、犯人の武藤先輩だけでなく、何故か霧都くんも一緒に謝りに行くことになりました。

 ふふふ。少しだけ笑ってしまいました。

 そんな一幕があり、そろそろ彼の部活動も終わるかな。
 と思ってた時でした。

 私のスマホに、南野さんからのメッセージが届きました。

 内容は、私を呼び出すものです。

 きっと……霧都くんとのことですよね。

 ふふふ……良いでしょう。
 彼女とは一度キチンと話をしないといけない。

 そう思っていましたから。

 私は

『はい。了解しました。今から向かいますね』

 と、返事をして、彼女の待つ体育館の裏へと向かいました。



『体育館裏』


 指定された場所へと辿り着くと、制服姿のツインテールの女子生徒が私を待っていました。

「ふん。いきなり呼び付けて悪かったわね」
「いえ、気にしないでください。私も南野さんとは話をしたかったので」

 南野凛音さん。霧都くんの初恋の相手。そして、私の最大のライバル。

 こうして霧都くんと恋人同士になった今でも、彼女の存在は、私にとって脅威です。

「そう。私もあんたとは話したかったのよね。まぁ、なんの話題かなんて、わかるでしょ?」
「えぇ。霧都くんのこと。ですよね?」

 私がそう言うと、南野さんはニヤリと笑いました。

 ……イラつきますね。
 何ですか、その表情は……

「あんたには感謝してるのよ。北島永久さん」
「……感謝?何を言ってるんですか。南野さんの『大切な家族』の霧都くんが私に奪われてるのに」

 敢えて私は強い言葉で彼女に話をします。

「あはは。そうね、結果を見れば私の元からあんたの所に霧都は行った。恋人同士という『他人の延長』みたいな間柄にあんたと霧都はなったわね」
「『幼馴染』なんて言う、『恋人の下位互換』みたいな立場の南野さんにしては、随分と強気な発言ですね?」

 私のその言葉に、南野さんは笑います。

「あはは。やっぱりあんたは良いわ。ここまで私に食ってかかる女は今まで居なかった」
「ふふふ。そんなぬるま湯に浸かってたから、霧都くんが奪われたんですよ?」

 私がそう言うと、南野さんはスっと目を細めて言いました。

「まだ勝負は着いてない。私が諦めない限りは……ね?」
「南野さん。あなたのその自信はどこから来てるんですか?」

 私のその質問に、南野さんは笑いながら答える。

「あんたの敬愛する黒瀬詩織先輩に助言を求めに行ったわ」
「く、黒瀬先輩に!?」

 な、なんで先輩が、そんな事を!!??

「あはは。随分といい顔をするじゃない?そうよ。あの先輩からはとても有用なアドバイスをいただいた。そう言えるわね。流石は藤崎朱里と言う『彼女』が居る状況で、桐崎悠斗の『一番大切な女性』なんて言う地位を得た女よ」
「な、何を言われたんですか……」

 私のその言葉に、南野さんはヤレヤレと手を振る。

「敵にそれを言うと思うのかしら?まぁでも、話してあげても良いわ」

 その代わり。条件があるわ。

「条件……?霧都くんと別れろ。とか言わないですよね」
「はぁ?馬鹿なこと言わないでちょうだい。私はそんなくだらないことは言わないわ。あんたとは真正面から戦って、叩き潰してやるわよ」

 南野さんはそう言うと、私に指を突きつける。

「あんたの土俵で勝負を挑むわ。今度の中間テストの総合得点で勝負よ」
「私が勝ったら、南野さんは、霧都くんから手を引く。そう見て良いですか?」

「そうね。もう今後一切あいつには手を出さない。そう誓ってあげるわ。そして、あんたらの結婚式では喜んで祝辞を読み上げてあげるわよ」
「……そこまでの覚悟をして、何を求めてくるんですか?」

 私のその言葉に、南野さんは答える。

「霧都と一日デートをさせなさい。それが私が勝った時の要求よ」
「……それだけでいいんですか?」

 賭けているものに対しての要求が低すぎる気がする。

 そんな私の心を読んだのか、南野さんは手をヒラヒラと振った。

「霧都の性格上。あんたと恋人同士になった時点で、私と二人で出掛けるという行為は絶対にしないわ。その絶対にしない行為をさせるためなら、このくらいの賭け金は必要よ」

 あんたの了承。そのカードがどうしても必要なのよ。

「わかりました。その条件で戦いましょう」
「あはは。ありがとう、北島永久さん。じゃあ私が黒瀬詩織先輩から言われたことを教えてあげるわ」

 南野さんはそう言うと、私の元まで歩いてくる。

 そして、すれ違いざまに言ってきた。

「私は本気で霧都に告白をする。あんたのことを、男として好きだと。夫婦としての家族になりたいと。北島永久と別れて私のところに来なさい。ってね」
「……そんなことをしても、もう遅いですよ」

 私のその言葉に、南野さんは笑います。

「そうね。十中八九。九分九厘。そんな確率の余地すらない。100パーセント振られるわ。でもね、それで良いのよ」

「黒瀬詩織先輩に言われたわ。振られてからが勝負だと。霧都の心に『南野凛音に告白されて、それを振った』その記憶を刻み付けろ。そう言われたわ」
「……っ!!」

「あいつの心にもう一度。南野凛音の存在を刻み付けてやるわ。それが私があの先輩から得た助言よ」

 南野さんはそう言うと、私から離れるように歩いて行きました。

「じゃあね、北島永久さん。今のうちに霧都と『恋人同士』なんていうごっこ遊びを、せいぜい楽しんでおくといいわ」

 そう言い残して私の元を去りました。


「……っ!!」

 私は思わず地面を蹴りました。

 悔しい!!今のやり取りはわたしの負けだ!!

 霧都くんの恋人。と言う圧倒的優位の状況でありながら、南野さんの後手に回ってしまった。
 でも、その原因はやはり……

「黒瀬先輩……なんで……」

 敬愛している先輩に裏切られたような感覚。

 私は思わずスマホを取り出して、先輩に電話をしました。


 プルル……

 少し長い呼び出し音の後、先輩は出てくれました。

『はい。もしもし。黒瀬です。ふふふ……北島さんが電話してくるのは少しだけ予想してましたよ?』
「せ、先輩!!どうして南野さんに手を貸すような助言をしたんですか!?」

 私のその言葉に、黒瀬先輩は笑いながら言いました。

『ふふふ。北島さん。敵が弱いラブコメライトノベルは面白くないと思いませんか?』
「……え?」

『貴女と桜井くんが付き合って、そのままなんの障害もなく、お付き合いをして、結婚して……そんなのつまんないですよね?』
「……つ、つまらない」

『北島永久さん?貴女には『正妻』としての覚悟が足りてませんよ』
「……っ!!」

『朱里さんは、私の挑戦を真正面から受け止めてくれています。それが正妻としての役割だからです。北島さん。貴女も桜井くんの正妻でしたら、南野さんの挑戦を正面から受け止めてあげなさい』
「で、でも……なんで先輩は南野さんに助言をしたんですか!?私の味方だと思ってたのに……っ!!」

『ふふふ。北島さん?勘違いしてもらっては困りますよ』
「……え?」

『私は『困っている人』の味方です。これは悠斗くんがそうだからですね。電車であなたを助けたのも困って居たから。今回の南野さんの件もそうです。困っているから助言をしたんです』
「……なら、私が困ったら助言をくれますか?」

『ふふふ。そうね、あなたが困ってしまったら助言をしますよ?でもそうね……今の貴女は困ってそうだから、一つ助言をしてあげるわね』
「……お願いします」

『常に先手を打ちなさい。南野さんより先にキスをしなさい。南野さんより先に彼の性処理をしなさい。南野さんより先にセックスをしなさい。そうすることで貴女は南野さんに対して『貴女は常に私の後追い』と言う意識で戦えますよ?そうすれば仮に彼が南野さんとそういう事をしなければならない不測の事態になっても、彼を許せるはずです』
「……わかりました」

『ちなみにですが、悠斗くんの『性処理』を先にしたのはこの私です』
「えっ!?」

『ふふふ……朱里さんはその事がすごくすごくすごーく悔しかったみたいですからね?あなたはそうならないようにしてくださいね?』
「……わかりました。肝に銘じます」

『ふふふ。では私は貴女たちが描く『ラブコメライトノベル』を楽しく眺めさせてもらいますよ?』

 プッ……

 と電話が切れました。


「常に……先手を取る……」

 キスはもう済ませてます。

 それより先のことを彼とする……

 ふふふ。そうですね、今度のデートでするとしましょうか。

 彼とする二回目のデート。今から楽しみです。


『お待たせしてごめんね!!着替えが終わったから一緒に帰れるよ!!』

 と霧都くんからメッセージが来ました。

『はい。では校門の前で待ち合わせましょう』

 私は彼にそう返信をして、校門へと向かって歩きました。
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