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第1章 前編

美鈴side ① 後編

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 美鈴side  ① 後編


「昨日のあのメッセージはどういうつもりよ?」

 そんな言葉と共に、あの女はお兄ちゃんに食ってかかった。

「どういうつもりも何も、あのメッセージの通りだよ」
「な、なんで一緒に登校しないって話になるのよ!!おかしいじゃない!!ずっと一緒に登校してきたのよ!!」

 そんな言葉をまるで悲鳴のように撒き散らす。

 無様だね……

 私はチラリとお兄ちゃんの顔を見る。
 そこには、私が見たことの無いような冷たい目をしたお兄ちゃんが居た。

 あぁ……かっこいいなぁ……

 普段の優しいお兄ちゃんも好きだけど、こうして相手をはっきり拒絶する姿もかっこいい。大好き。

「なぁ俺はお前の『弟』なんだろ?」
「……え?……そ、そうよ!!大切な家族で、弟よ!!昨日は『出来の悪い』なんて言って悪かったわね!!あなたはそこそこ優秀な弟よ!!」

 この女は一体何を言っているんだろうか?

 まさかとは思うけど、お兄ちゃんが泣いた理由を『出来の悪い』という言葉だと思っているのだろうか……

 だとしたら本当に救いようのない人間だよ。

 そんな女に、お兄ちゃんが冷酷に告げる。

「もう高校生なんだから、そろそろ『弟離れ』しろよ。凛音『お姉ちゃん』」
「……っ!!」

 『凛音お姉ちゃん』という言葉。

 それはお兄ちゃんがこの女を『異性としてみることが無くなった』と言う証。

 お前が俺を『弟』として扱い、異性として見ないのなら、
 俺もお前を『姉』として扱い、異性としては見ない。

 それは、お兄ちゃんがこの女に対して突きつけた『決別』

 こんなかっこいいお兄ちゃんを間近で見られるなんて、私はなんて幸せなんだろう。

「ま、待ちなさいよ!!」
「ヤダよ。これ以上時間をかけると、北島さんを待たせちまうだろ」

 縋り付く女を振り払い、お兄ちゃんは自転車へと歩み寄る。

 ガチャン

 と自転車のカギを外して、お兄ちゃんは自転車に跨る。

「じゃあ、行ってくるよ美鈴」
「うん。行ってらっしゃい!!」

 私は最高の笑顔でお兄ちゃんを見送る。

 自転車で走り去るお兄ちゃんを追いかけようとする『敵』の肩を、私は掴む。

 行かせない。お兄ちゃんはこれから未来の嫁の元に行くんだ。

 その邪魔をアンタなんかにさせてたまるか。

「離しなさい、美鈴!!」

 敵が私を睨みながら言ってきた。

 私は目を逸らさずに言う。

「断る。あなたをお兄ちゃんの元には行かせない。もうお兄ちゃんはあなたのモノじゃない」
「……み、美鈴」

 いつもの私じゃないような喋り方に、敵が怯む。

 そうだね、今まではあなたを『お義姉さんになるかも知れない人』として扱ってきたから。

 そうではなくなった今。何かを取り繕う必要は皆無だ。

「お兄ちゃんはもうあなたの元へは帰らない」

「な、何でよ!!私たちは家族よ!!美鈴だって私の妹じゃない!!幼稚園の頃からずっとずっとずっとずっと一緒に育ってきた家族よ!!!!」

 泣き喚くような言葉。私には何も響かない。

「何を言ってるの、あなたは」
「…………え」

 冷めた目で私は敵を見る。その目に、敵は後ずさった。

 私は一歩前に出る。

「家族?違うよ。他人だよ」
「…………な、何を言ってるのよ」

 一歩下がる敵。私はもう一歩踏み出す。

「家が隣なだけの他人だよ」
「ち、違うわ!!私たちは!!」





「小さい頃から遊ぶことが多かった他人だよ」





 私のその言葉に、敵は膝から崩れ落ちる。

「私はあなたを絶対に許さない」
「……み、美鈴」

 絶望したような表情の敵。

 何よその顔。お兄ちゃんの方がもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!!!!!!!!!!!!!!
傷ついたし!!!!!!!!絶望したんだ!!!!!!

 今更被害者みたいな顔をするな!!

「お兄ちゃんと北島永久さんの邪魔はさせない。私はお兄ちゃんが大好きだから。お兄ちゃんの幸せのために生きてるから。あなたとは違って、私はお兄ちゃんの『家族』だから」
「……っ!!!!」



「バイバイ。家が近くて昔から遊ぶことが多かった人」


 私はそう言い残して、家の中へと戻ると、玄関の扉を閉めて

 ガチャン

 とカギを掛けた。





「……あ、靴を履いてなかった」

 裸足のまま外に出てしまったみたいだ。

 私の足は真っ黒になっていた。

 汚れた足を洗わないと。

 ……あはは。小さい頃は三人で土手を走ってよく足を汚したものだね。その度に帰ってきた時に家の中を足跡だらけにして怒られたよね。

 この足に着いた汚れを落とした時、あの女との関係も綺麗さっぱりに出来るんだ。そんな感じが私にはした。


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