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第1章 前編

第九話 ~身の上話が終わったら親睦を深める為にゲームセンターに向かいました~

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 第九話



 桐崎さんによる、

 母親が他界していて、片親です。
 からの
 お兄さんが二股してる。

 の二つの爆弾発言から始まった身の上話。

 二人目は北島さんだった。

「え、えーとですね。桐崎さんと違って私はごく普通の家庭です」

 そう言って始めた彼女の身の上話は確かに『普通』だった。

「お父さんとお母さんと私の三人家族です。お父さんはシステムエンジニアの仕事していて、お母さんは専業主婦です。仕事上、食事が不規則なお父さんの為に、お母さんは毎日お弁当を作ってます。夫婦仲が良い証拠ですね。ムカつくことがあったことが無いのかも知れませんね」

 と、北島さんは桐崎さんを見てイタズラっぽく笑った。
 それを見た桐崎さんも笑っていた。

 良かった。空気は良くなってきたかな。

「小学校の五年生まではここの近所に住んでいたのですが、引越しをして今の場所になりました。この海皇高校を選んだのは引越しして離れ離れになってしまった霧都くんに会えたらいいな。と思ったからです」
「……へぇ、言うじゃない」

 と、凛音が北島さんを睨む。
 そんな視線はお構い無しに彼女は話を続ける。

「まさか同じ高校に進学していて、クラスまで一緒で、更には席まで隣なんて、運命を感じてしまいますね」

 そう言うと、北島さんは俺にパチンとウィンクをする。

「それこそ、幼稚園からの幼馴染にも負けないくらいの運命を」

 そう言う彼女に、凛音が食いついた。

「私と霧都はただの幼馴染じゃないわよ」
「え?」

 ……え?

 疑問符を浮かべる北島さん。俺も良くわからなかった。
 そ、そういう関係を脱したくて告白したんだけど?

「私と霧都は『家族』よ。幼馴染なんてちゃちな関係じゃないわ」

 先程も凛音から出たその言葉。

『家族』

 いったいどういうつもりで言っているんだ?

「まぁ、あなたごときにはわからないわよ。高々同じクラスになって席が隣になった程度の女なんて敵じゃないわ」
「……へぇ、言うじゃないですか」

 一触即発。教室の時と同じような空気が立ち込めるが、

「はいはーい。そこまでだよー」

 と、ポテトフライをつまみながら桐崎さんが言う。

「ここ、お店の中ね?あと、ここに来たのは『親睦を深める為』だよ。『喧嘩をする為』じゃないよ?」

 プラプラとつまんだそれを振りながら注意を促す。

「……はぁ、そうね。私も大人げなかったわ。ごめんなさい、北島さん。謝るわ」

 め、珍しいこともあるもんだ……あの凛音が謝るなんて

「いえ、私も少しカッとなってしまいました。申し訳ございません」

 お互いに謝罪しあったところで、俺に白羽の矢がたった。

「さて、この空気を変える、素晴らしい身の上話を披露してくれるのは桜井くんだね?」

 と、桐崎さんがニコリと笑いながら言う。

「あはは。そんな面白いもんじゃないよ」

 そう言ってから、俺は自分のことを話し始めた。

「まぁ、凛音は俺の事を家族だって言ってたけど、まぁそうだね。家族同然に育ってきた。とは言えるよね」

 俺のその言葉に、凛音は満足そうに「ふん」と鼻を鳴らしていた。

「幼稚園の頃にこっちに引っ越してきてね、同じ建て売りの家に同時に隣の家に引っ越してきたのが凛音の家族だったんだ。そこからの付き合いだね」

「俺の両親も凛音の両親もアウトドアが好きでね、夏休みの時期なんかに小さい頃は良く一緒にキャンプに行ったりもしたよ。凛音は嫌がるだろうから言わないけど、結構恥ずかしい思い出話なんかもたくさんあるよ?」
「霧都……命が惜しいなら口を塞ぐ事ね?」

 人を殺せそうな視線で睨みつけてくる凛音。
 あはは……言わないよ。
 だってこれは『俺とお前だけの大切な思い出』にしたいから。

「そうやって大きくなってきたからね、面白いのは俺と凛音の家にあるアルバムは全く同じ写真が納められてるってところだよね。まぁ、お互いに中学になったらそう言うのは無くなったよ。親の仕事が少し忙しくなってきたから。てのが大きいかな」
「桜井くんのご両親はなんの仕事をしてるんですか?」

 北島さんの質問に、俺は笑って答える。

「親父は作家だよ。それもライトノベルの。お袋は編集。そう言えば、どんな出会いだったかは想像が難しくないよね」

「ライトノベル作家さんだったんですね!!その、書いてるタイトルを聞いても良いですか!?」

 …………だよねぇ。
 聞かれるよね。

「そ、その。あんまり良いタイトルじゃないんだ……」

 と俺は少しだけ言葉を濁す。
 その俺の表情から、北島さんは『違う意味で』察したように言う。

「もしかして、『なろう系』みたいなタイトルですか?私も良く読むので気にしませんよ?」

 あーーーそうじゃないんだ。

 そんな俺の態度を見た凛音が口を開く。

「『私は愛人でも構わないから』」

「……え?」

 凛音の言葉に、北島さんが疑問符を浮かべる。

「霧都のお父さんが書いてるライトノベルのタイトルよ。全く、ふざけたタイトルよね」

 凛音はそう言うと、やれやれと手を広げる。

「そんなんでもね、売れてるのよ。今何巻まで出てるんだっけ?四巻くらい?」
「今は四巻。次は五巻が出ることも決まってる。半年後にはコミカライズが待ってるかな」

 俺はそう言うと苦笑いを浮かべる。

「北島さんが好きなラブコメとはちょっと外れてるかな」
「そうですね。ですが、そのタイトルは見たことも聞いたこともあります。読んだことは無いですが、ライトノベルコーナーで平積みされるレベルの作品ですよ」

 そんな会話をしていると、桐崎さんが口を挟む。

「ねぇ、桜井くん。あなたのお父さんが書いてるライトノベルの事、『絶対に』詩織さんには言わないでね?」

 詩織さん……あ、黒瀬先輩のことか

「え?どうしてかな。特に話す機会があるとは思えないけど」
「詩織さんがとても好きで読んでるライトノベルがそれなのよね。あなたのお父さんが書いてるなんて知ったら、どうなるかわからないわ」

 こんな身近にファンがいたのか……
 てかあのめちゃくちゃ美人な先輩が、ライトノベルを読むなんて意外すぎるな。

「うん。わかったよ。まぁ話すことなんか無いとは思うけど、黙ってるよ」

 と、俺はそう言ったところで提案する。

「身の上話も悪くなかったけど。こうして話してるだけだと飽きると思うし、隣にゲームセンターもあるから少し遊んでく?」

 その言葉に桐崎さんが食いついた。

「お!?良いねぇ。私さぁ、あんまりゲームセンターって行ったことが無いんだよね」
「そうなんだ。なんか理由があったの?」

 と、俺が聞くと彼女にしては意外な理由が返ってきた。

「おにぃが過保護だからねー。一人でなんてもってのほか。女友達だけでも行くなって言ってたんだよね。あそこには『変なおじさん』が居るからって」
「私もあまり……と言うか、初めてです」

 北島さんは何となく、そういうのは行ったことが無いような感じがしていた。

「じゃあみんなで行こうか。そんな危ないところじゃないし、万が一のときは男の俺が居るから平気だよ」

 と笑って言っておいた。

「そうね。霧都は図体がデカいし、筋肉質な身体をしてるから、中身はともかくとして見た目の威圧感はあるわね」

「万が一の時は期待してるぞー桜井くん」

「桜井くんが守ってくれるなら安心ですね」

 ……やべぇ、責任重大じゃねぇか。

 俺は残ったポテトフライをつまんで食べながら、何回も行ったことがあるゲームセンターなのにものすごい緊張感を持って行くことになったなぁと思った。
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