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第2章

美凪side ② 後編 その①

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 美凪side ② 後編 その①



 ショッピングモールを出ると、辺りは少しだけ薄暗くなっていました。

 これから帰ることになりますが、この後どこかで買い物をして帰る。とかをしていたら、かなり遅くなっていたことでしょう。

 やはり、あのタイミングで買い物をしていたのは正解だったと思います。

 流石は隣人さんです。先見の明がある方だと思いました!!


 そして、私と彼は荷物を分担して持つことにしました。

 野菜やお肉の入った重い荷物は隣人さんが。
 洋服が入った軽い荷物は私が。

 空いているほうの手は繋いで歩いています。


 ……えへへ。随分と自然と手を繋げるようになりました。
 今日一日で、かなり彼と近づけたと思います。

 明日も一緒にいられますからね。
 もっともっと彼と仲良くなりたいです!!


「いやー、隣人さん!!とても楽しい一日でしたね!!」
「そうだな。連休初日としては最高のスタートだったと思うよ」

 ふふーん。やはり彼もこの超絶美少女の美凪優花ちゃんとの一日を楽しんで頂けたようです!!

 彼の言うように、連休初日は最高のスタートを切れたと思っています!!

「自宅に着いたら夕飯の支度をしましょうね。私の華麗なピーラー捌きをお見せしましょう!!」
「あはは。調子に乗って指を剥いたりするなよ?」

 ぴ、ピーラーで指の皮を剥く……
 や、やばいくらい痛そうです!!

 も、もー!!隣人さん!!痛い想像をさせないでくださいよ!!

 ですが、彼のその言葉で私はより一層気を引き締めることにしました。

 そして、手を繋いで歩いている私たちの目の前に、住んでいるマンションが見えてきました。

 エレベーターに乗って隣人さんの部屋へと辿り着きます。

 私は、彼から貰った合鍵で、玄関の扉を解錠します


「ただいま」
「お邪魔しまーす!!」

 わたしは彼の部屋に入り、そう言いました。

 すると、隣人さんは私に向かって言ってきました。


「もうここはお前の家みたいなもんだから、お邪魔します。なんて言わなくて良いぞ?」
「……え?」

「いつまでも他人行儀なんて寂しいことしなくていいからな」
「……あ、ありがとう……ございます」

『お前の家みたいなもの』

 私のことを『家族』だと思ってくれてるという意味です。

 私は隣人さんのその言葉に、胸が温かくなりました。

 そんな会話をしたあと、私と隣人さんは洗面所で手洗いとうがいをしました。
 彼はその後お風呂場に向かいました。
 きっと部屋着に着替えるのでしょう。

 私は間借りしている彼の部屋で着替えを済ませました。

 そして、部屋着に着替えた私は台所へと向かいます。

 今日のご飯係は隣人さんです。彼は米びつから3合の米を取り出しているのが見えました。

 おおーー!!!!今日はたくさん炊くのですね!!
 私も彼もおかわり前提の量です!!

 私は彼がご飯を炊く準備を進めている横で、カレーに使う野菜を洗っていきます。

 時間は有効に使いたいですし、私は気が利く女ですからね!!このくらいのことはやって当然です!!

 そんなことを思っていると、隣人さんは引き出しから赤いピーラーをひとつ取り出しました。

「さて、美凪。まずはお前にピーラーの使い方を教える」
「はい!!」

 隣人さんはそう言うと、私が洗った人参とピーラーを持って説明の体制に入ります。

 背筋がピンと伸びててかっこいいです。

「こんなもんで怪我する奴なんか居ないだろ。という慢心が、怪我の元なのはわかるな?」

 彼の真剣な表情。私は甘い気持ちを捨て去り、気を引き締めて聞いていきます。

「はい!!わかります」

「ピーラーは力を入れ過ぎて引くなよ。刃をしっかりと当てて、適度な力で引く。そしてピーラーの進む先には絶対に指を置くな。それが怪我の元になるからな」
「はい!!」

 彼はそう言うと、私の目の前であっという間に人参を一本。皮をむいてしまいました。

「よし。じゃあ俺は隣で見てるからやってみろ」
「了解です!!」

 そして、私の初めてのピーラー使いが始まりました。

 人参はとても簡単でした。真っ直ぐでしたからね。

 しかし、丸くてでこぼこしたじゃがいもには苦戦を強いられました。

 私はその時……イラッとしてしまいました。

 ですが……この気持ちは行けません。
 怪我の元です。

 私は一度皮むきの手を止めて、深呼吸をしました。

 そして、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎながら皮むきを再開しました。


「焦らない。イライラしない。ゆっくりと、丁寧に……怪我しないように気をつける……」

 時間はどれだけかかってもいいです。

 じゃがいもが歪になっても構わないです。

 それよりも、何よりも、彼が大切にしていることは、

『私が怪我をしないこと』

 そんな彼の優しい心を裏切りたくありません。

 私はしっかりと時間をかけて、じゃがいもの皮剥きを終えました。



「出来ました!!」
「うん。良くやったな、美凪」

 まな板の上には、私が皮を剥いた野菜が並んでいます。
 じゃがいもは芽の部分もくり抜いてあります。

 時間はかかりましたが、綺麗に出来たと思っています!!


「そしたら次はこの人参とじゃがいもを一口サイズにカットする。人参の上と下は捨てるからな」
「はい!!」

「あと。皮を剥いたじゃがいもは滑りやすい。平らな面を下にして、滑らないように気を付けるんだぞ」
「了解です!!」

 隣人さんからの説明を受けた私は、緊張感を持って野菜を切っていきます。
 私から少し離れたところでは、隣人さんが玉ねぎの皮を剥いていました。

 なるほど。このカットが終わったら、玉ねぎのカットが待ってますね。

 私はより一層気を引き締めながら、人参とじゃがいものカットをしました。

「出来ました!!」

 私のその声に、ちょうど玉ねぎの皮を剥き終えた隣人さんがやって来ました。

「よし。じゃあ美凪。これが野菜カットの最終試練だ」
「わ、わかってます。玉ねぎ……ですよね?」

「そうだ。これを乗り越えればお前はひとつ上のステージに行けるだろう」
「はい!!頑張ります!!」

 ひとつ上のステージ。彼の言葉にはいつも私をやる気にさせるワードが含まれてますよね。

「良いか。辛かったら無理をするな。あと、絶対に玉ねぎを切った手で目を擦るなよ?」
「はい!!」

 私は彼から白い状態の玉ねぎを受け取ります。

「上と下を切って捨てる。そしたら一口サイズにカットする。俺の包丁は良く研いであるし、切る前には水で晒してある。それにみじん切りよりもダメージは少ないとは思う。ここで大切なことがある」

「涙が出るのは生理現象だ。防衛反応だ。それを我慢しなくていい。しっかりと切るところを見ながらやるんだ。辛いからといって目を背けて切るなよ?」
「はい!!」

 私は気合いを入れて、玉ねぎに一刀を入れました。

「……っ!!」

 プシュッと言う音が聞こえた気がします。

 私の目には涙が浮かんで来ました。

 ですが、想像していたほどではありません。

 やはり、彼の言うように良く切れる包丁だったり、切る前に水で晒すと、涙が出る防止に繋がるんですね。

 彼のお陰ですね。ありがとうございます。

 私は怪我だけば絶対ににしないように、玉ねぎをカットしていきました。


「……やりましたよ、隣人さん」
「うん。良く頑張ったな」

 全ての玉ねぎをカットした私は、包丁を置いてから彼にそう告げました。
 隣人さんは、優しく微笑みながら、私の頭を撫でてくれました。


 えへへ……私は貴方の期待に応えられましたか?

「……えへへ。これでまた一つレベルアップです」
「そうだな。何も出来なかった頃から比べたら、すごい進歩だぞ」

 そうですね。ほんの数日前までは何も出来ませんでした。

 ですが、貴方のお陰でたくさんのことを出来るようになりました。

 ありがとうございます。隣人さん。

「レベルアップした美凪には、肉のカットをしてもらう。玉ねぎよりは簡単だと思うが油断するなよ?」
「はい!!」

「じゃあまずは……」

 そして、私はお肉のカットをしっかりとこなし、一時間程かけてカレーを作って行きました。




「よし。あとは味が染み込むように食べる時まで寝かせておこう」
「はい!!了解です!!」

 鍋の蓋を閉めて、隣人さんがそう言いました。
 私と彼は手を洗ってから居間へと戻ります。

 そして、隣人さんが冷蔵庫から麦茶を取るのが見えたので私は棚からコップを二つとってテーブルへと向かいました。

 料理を終え、麦茶を飲みながら私と隣人さんはまったりとした時間を過ごしていました。

 ふふふ。貴方となら沈黙も楽しめます。

 そう思っていると、隣人さんがこの後のことを話し始めました。

「じゃあこれから風呂に入って、出たら飯にしよう。俺はこの後風呂の掃除をしてくるから、美凪はその間に使った調理器具を洗って元の位置に戻しておいてくれ」
「はい!!」

 毎日しっかりとお風呂を掃除する。
 私としてはとても好感度が高いです。

「今日は色々とやることがあったから疲れてると思う。包丁を洗う時には十分に気をつけてくれ。俺が初めて包丁で怪我をしたのは、洗ってる時だからな」

 ……え?貴方でも怪我をすることがあったんですか?

「り、隣人さんでも怪我することがあるんですね……」

「当たり前だろ。俺がお前によく『注意しろよ?』と言う時は、俺が怪我をしたり、失敗をした時の経験から言ってるんだよ」

 私のその言葉に、隣人さんは少しだけ苦笑いを浮かべながらそう言いました。

「お前にはなるべく怪我をして欲しくないからな。だから、十分に気をつけてくれよな?」
「はい!!」

 そして、私は彼のいいつけを守り、気を引き締めて包丁を洗っていきました。


『お風呂が沸きました』


 調理器具を洗い終え、お風呂が出来るのを二人で待っていました。

 少しすると、居間にアナウンスが流れました。

「じゃあ俺から行ってくるわ」

 彼はそう言うと椅子から立ち上がりました。

 ふふふ。一番風呂は家主の特権ですからね。

 お譲りしますよ。

「はい。一番風呂は家主の特権ですからね」
「あはは。ありがとう」

 私の言葉にお礼を言って、隣人さんは居間を後にしました。

 私は一人きりの部屋でのんびりとテレビを見ていました。

 お風呂場の方からは、彼が湯船に浸かる音が聞こえてきました。

『おとーさーん!!背中を流してあげるね!!』
『あはは!!お前も大きくなったな!!』

 テレビでは小さな子供がお父さんの背中を流すCMが流れてました。
 どうやら入浴剤のCMのようです。

「…………お、お世話になってる人の背中を流すのは当然では無いのでしょうか?」

 私の頭にそんな考えが浮かびました。

 そ、そうです!!これ程の美少女に背中を流してもらえるんですから!!隣人さんも泣いて喜ぶはずです!!



 私はそう結論付けると、隣人さんが入っているお風呂場へと向かいました。
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