上 下
57 / 94
第2章

第十二話 ~お風呂場では美凪の髪の毛を洗うことになった件~

しおりを挟む
 第十二話



「……し、失礼します」
「お、おぅ……」

 美凪に洗ってもらっていた背中は自分で洗い、頭以外の身体を洗い終えた時に、美凪が浴室に入ってきた。

「そ、その……私は湯船に入って待ってますね」
「……わかった。俺はあとは頭を洗うだけだから」

 俺の横を通り過ぎる美凪に一瞬だけ視線を向けると、当然のように身体を覆うように大きめのバスタオルを巻いていた。

「ば、バスタオルを巻いたまま湯船に入るのは許してください……」
「そんなことを気にする人間じゃないから平気だよ。てか……下はやっぱり裸なのか?その……実は下に水着を着てました……とか」

 俺が一縷の望みを掛けて聞いてみると、美凪はジトっとした目を向けてきた。

「着てません。その……隣人さんは漫画の読みすぎでは?この時期に水着なんてすぐに用意できませんよ」
「そ、そうか……すまん」

 俺はその目から逃げるように、シャワーを出して頭を濡らしていく。

「少し泡が跳ねるかもしれないけど、その時はすまん」
「平気ですよ。そのくらいでしたら我慢出来ますから」

 そんな会話をしながら、俺は手にシャンプーを取って頭を洗っていく。

「…………えい」
「うぉおおおい!!??」

 目を閉じて頭をシャカシャカしてる時に、美凪が俺の脇腹をつついてきた。

「えへへ。イタズラをしてしまいました」
「こっちは無防備なんだから、それは酷いと思うんですけど!!」

 思わず敬語で抗議する俺。あまり大きく身体を動かすと、腰に巻いたタオルが取れてしまう可能性が高まる。

 現在進行形で下半身は大変なことになってるので、流石にお見せすることは出来ない。

「ふふーん?いつもは冷静沈着な隣人さんの慌てふためく所は貴重です。もっとイタズラをしたくなってしまいますね」
「お、お願いします。美凪お嬢様。その……もう少しだけ猶予をくれませんか?」

 もう少しで頭を洗い終える。そしたらシャワーで流してお風呂場を出よう。

 そう考えていた。

「仕方ないですね。それでは私の頭を洗ってくれるのでしたら我慢してあげます」
「はぁあああ!!!???」

「ふふーん。この私の髪の毛を洗えるなんて光栄だと思ってくださいね!!」
「さ、さっさと風呂場から出て行きたいんだけど……」

 俺がそう抗議すると、

「ツンツンされたいんですか?」
「いえ、洗わせてもらいます!!」

 拒否権は無かった。

「ふふーん。今から楽しみです!!期待してますからね、隣人さん」
「……はい。丁寧に洗わせていただきます」

 シャワーで頭の泡を流し終え、俺は浴室の橋に移動する。

「ほら、椅子に座れよ」
「はい。了解です」

 美凪はそう言うと、ザパンと湯船から立ち上がる。
 お湯で濡れたバスタオルは彼女の身体にピタリと張り付いていた。

「……っ!!??」

 ガン見したい欲望を押さえつけ、俺はその扇情的な光景から目を逸らす。

 露出度は水着よりも少ない。それでも理性はガリガリ削られている。我慢だ……我慢をするんだ海野凛太郎っ!!

「それではよろしくお願いします」
「あ、あぁ……」

 お風呂場用の椅子に座って、美凪が俺にそう告げた。

 俺はシャワーがお湯に変わったのを確認してから、美凪の髪の毛を丁寧に濡らしていく。

 そして、『美凪用のシャンプー』で彼女の髪の毛を洗っていく。

「……どうだ?」
「……はい。とても気持ちいいです。隣人さんはお上手ですね」

 ………………コイツは、わざと言ってるのか?

「お客様ー痒いところはありませんかー」

 俺は床屋の人間になりきることで、理性を保とうとする。

「あはは。大丈夫ですよー」
「じゃあシャワーで流すからな」

 俺はそう言ってシャンプーの泡を洗い流していく。
 泡が残ると髪の毛が痛む原因にもなるので、しっかりと流していく。

 そして『美凪用のトリートメント』を髪の毛につけていく。

「髪の毛が長いと大変だな」

 俺はトリートメントを塗り込みながらそう言う。

「そうですね。ですが、こうした努力を普通の女の子ならみんなしてますよ?」
「そうなのか。女の子は大変なんだな」

「あはは。そうですよ。『気になる男の子』に、綺麗だねって言ってもらいたいですからね」
「………………そうか」

 気になる男の子……か。

 ほんと。思わせぶりなセリフが増えてきたよな。
 こうした行動も美凪の『アプローチ』なんだと理解してる。

 はぁ……両思いだってのはわかってる。
 だけど、まだそれを伝える時じゃない。

 勝負をかけるのはひと月後。

 恐らく、親父は仕事を一段落つけてから、『再婚相手』と一緒にこの家に来るだろう。

 俺はその時に向けて準備を進めておかないとな。

 きっと美凪は、ショックを受けるはずだからな。

「ありがとうございます。隣人さん。とてもお上手でしたよ」
「あはは。どういたしまして。じゃあ俺は風呂から出るよ」

「はい。では私も身体を洗いますね。お風呂から出たらご飯にしましょう」
「そうだな。じゃあな、美凪」

 俺はそう言って風呂場を後にした。



 この女を悲しませたくない。

 その為なら今まで貯めてた金を全て使ったって構わない。

『兄妹』では無く『夫婦』としての家族になるために、今から出来ることを進めていこう。

 俺はそう決意した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

美少女だらけの姫騎士学園に、俺だけ男。~神騎士LV99から始める強くてニューゲーム~

マナシロカナタ✨ラノベ作家✨子犬を助けた
ファンタジー
異世界💞推し活💞ファンタジー、開幕! 人気ソーシャルゲーム『ゴッド・オブ・ブレイビア』。 古参プレイヤー・加賀谷裕太(かがや・ゆうた)は、学校の階段を踏み外したと思ったら、なぜか大浴場にドボンし、ゲームに出てくるツンデレ美少女アリエッタ(俺の推し)の胸を鷲掴みしていた。 ふにょんっ♪ 「ひあんっ!」 ふにょん♪ ふにょふにょん♪ 「あんっ、んっ、ひゃん! って、いつまで胸を揉んでるのよこの変態!」 「ご、ごめん!」 「このっ、男子禁制の大浴場に忍び込むだけでなく、この私のむ、む、胸を! 胸を揉むだなんて!」 「ちょっと待って、俺も何が何だか分からなくて――」 「問答無用! もはやその行い、許し難し! かくなる上は、あなたに決闘を申し込むわ!」 ビシィッ! どうやら俺はゲームの中に入り込んでしまったようで、ラッキースケベのせいでアリエッタと決闘することになってしまったのだが。 なんと俺は最高位職のLv99神騎士だったのだ! この世界で俺は最強だ。 現実世界には未練もないし、俺はこの世界で推しの子アリエッタにリアル推し活をする!

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

もう彼女でいいじゃないですか

キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。 常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。 幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。 だからわたしは行動する。 わたしから婚約者を自由にするために。 わたしが自由を手にするために。 残酷な表現はありませんが、 性的なワードが幾つが出てきます。 苦手な方は回れ右をお願いします。 小説家になろうさんの方では ifストーリーを投稿しております。

処理中です...