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第1章

最終話 ~誕生日。美凪からお手製のケーキを振る舞われた件~ 前編

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 最終話

 前編



 ガチャリ


「美凪かな?」

 買ってきた漫画本を読み終わり、居間でボーッとテレビを見ながら時間を潰していた俺の耳に玄関の鍵が開く音が聞こえた。

 椅子から立ち上がり、意気揚々と玄関へと向かう。

 あはは。やはり少し寂しかったようだ。

 あいつが来た。と言うだけで俺はかなりテンションが上がっていた。

「ご飯はそろそろ炊けると思うから、これから一緒に夕飯を作るか!!美……」
「こんばんは、隣人さん」

 ふわりと微笑みを浮かべた美凪は、白いワンピースに身を包み、薄らと化粧を施していた。

 何もしないでもとんでもないレベルの美少女の美凪が、下界に降り立った天使なのではないか?と思うレベルの存在になっていた。

「ど、どうしたんだよ……その格好は」

 ドキドキと脈を打つ心臓を抑えながら、俺は彼女に問いかける。

「貴方の誕生日ですよ?普段着では失礼かと思いました」
「お、俺は普段着なんだけど……」

 俺がそう言うと、美凪はイタズラっぽく笑う。

「これも一つの誕生日サプライズだと思ってください」

 そんなお前の笑顔は初めて見たよ。

 俺はやばいくらいに脈打つ胸を抑えながら、美凪を居間へと案内する。

「食事の用意は俺が一人でするよ。流石にその服装で台所には立たせられないし……」
「そうですね。誕生日の人に全てをお願いするのは申し訳ないとは思いますが、お言葉に甘えようと思います」

「まぁ、気にすんなよ。お前の役目は『目の保養』なんだろ?」
「あはは。そうですよ?これ程までに気合いを入れておめかしをしたのは貴方が初めてです。光栄に思ってくださいね」

 美凪はそう言うと、ふわりと笑みを浮かべる。

「食後は私の部屋に来てください」
「……え?」

 俺が疑問符を浮かべて聞くと

「貴方の誕生日ケーキを作りました。これが私から貴方に贈る誕生日プレゼントですよ」

 そう答えた。



「わぁ……ご馳走ですね」

 美凪はそう言うと、手を合わせて目を輝かせる。

「そう言ってくれると嬉しいよ。まぁ、自分の誕生日の為にステーキ用の肉を買うとか卑怯だとは思ったけどな」

 昨日のスーパーでステーキ用の肉を二枚買っていた。

 俺の誕生日に二人で食べようと思っていたものだ。

 親父の一件がなかったら、そのタイミングで話そうと思っていたんだよな。
 まぁ、そんなタイミングで話してたら、美凪にガチで怒られてたかもしれないな。とは思う。

 俺はナプキンを持ってきて美凪に渡す。

「使ってくれ。子供っぽいって思うかもしれないが、お前のその綺麗な服が汚れるのは耐えられない」
「ありがとうございます。ふふふ、貴方の気遣いに感謝こそすれ、怒るなんてしませんよ?」

 美凪はそう言うと、ナプキンを着ける。

 そんなものを着けても、彼女の美しさには微塵も陰りは見れなかった。

「……美人は三日で飽きるってのは嘘だな」
「……どうかしましたか?」

 こいつの姿を三日で飽きるってのはありえないな。
 一生見てられる。そう思った。

「何でもないよ。じゃあ食べようか」
「はい!!」

 そして、俺と美凪は「いただきます」と声を揃えて夕飯を食べ始めた。

「わぁ!!隣人さん、美味しいですね!!」
「あはは。ステーキなんか肉焼いただけだけどな」

「そんな事ないですよ!!焼き具合とか完璧ですよね。あとはお肉に下処理とかもしてるんですよね!!そういう所がすごいと思います!!」
「あはは。そう言ってくれると嬉しいよ」

 俺と美凪はそう話ながら、ステーキに舌鼓を打つ。

 確かに、この肉を美味しく食べるための下処理には時間をかけた。
 でもな、その手間をした理由は俺が、美味しく食べるため。
 だけじゃないんだ。

「いつの間にか、俺はこうしてお前と一緒に食べる食事を、幸せだと感じるようになってたんだな」
「私も、貴方とこうして食べる夕ご飯はとても幸せです」

「ありがとう、美凪。俺はお前と出会えて良かったよ」
「……も、もう。どうしたんですか。照れるじゃないですか」

「あはは。なんか伝えたくなったんだよ」

 照れて赤くなる美凪に、俺も自分で言っておいて自分で恥ずかしくなっていた。

 そして、そんな会話をしながら夕飯の時間は進み。

「ご馳走さまでした!!」
「お粗末さまでした」

 俺と美凪は夕飯を食べ終わった。

「じゃあ食器を流しに入れてくるよ」
「はい。私は飲み物の用意をしてきます」

 そう言って俺が流しに食器を入れて、軽く水で油を落としていると、美凪はテーブルにコップを用意してくれていた。

 それを見た俺は冷蔵庫から麦茶を持って行く。

「ありがとうございます」
「コップ用意してくれてありがとな」

 俺はそう言ってコップに麦茶を注ぐ。

 冷えた麦茶を飲むと、口の中の油っぽさが無くなった。

「なぁ、美凪」
「はい、なんでしょうか?」

 先程から考えていたことがある。
 俺はそれを美凪に伝えることにした。

「悪いけど、先に自分の部屋に行って待っててくれないか?」
「え?良いですけと、どうかしましたか?」

 首を傾げる彼女に俺は言う。

「俺も気合いをいれてオシャレをしてお前の部屋に行く。だから少しだけ時間をくれ」
「あはは。そうですか。わかりました。それなら納得です」

 美凪はそういうと、椅子から立ち上がる。

「それでは自分の部屋で待ってます。あの部屋に一人で居るのは辛いので、なるべく早く来てくださいね?」
「わかったよ。支度をしたら直ぐに向かうよ」

 俺がそう言うと、美凪はポケットから『鍵』を取りだした。

「私の部屋の合鍵です」
「マジかよ……」

「それを使って入って来てください。そのあとは『自由に使って貰って構わない』ですからね?」
「あはは。そうか、じゃあ大切に使わせてもらうよ」

 そう言うと、美凪は微笑みを浮かべながら居間を後にした。

「よし。俺も気合を入れて来るか!!」

 俺はそう言って頬を叩く。

 向かうのは自室。あの美凪に見劣りしないレベルと言うのは難しいかもしれないが、出来る限りのオシャレをしてもう一度あいつの前に立とう。

 俺はそう決意した。
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