国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

普通に考えればヒく

ラルスを無視して馬車で出かけたキアラが向かう先は、いつも通っている劇場であった。
ここ最近は父ダグラスの公爵位の引継ぎに向けていろいろと準備があって忙しかったが、キアラは脅威の集中力と記憶力で彼の仕事などを凄まじい速度で吸収した。そんなわけで予定していたよりも早く準備が進んでいるので、この日は気晴らしにキアラの好きな演劇に来ていたのだ。

だが、こうして出かけているのはただ気晴らしのためではない。


「おい、あれはルーデル家の馬車か？」


「・・・いや、違う。あれはルーベルト家の紋章が入ってる。似てるけど別物だ」


「え、だけどあの色は・・・」


「あぁ、最近ルーベルト家の馬車は・・・いや、ルーベルト嬢のシンボルカラーからしてああ変わったんだ」


貴族街を走るルーベルト家の馬車・・・その車体は黒の色で再塗装されている。
かつて王都でもにぎわせていたルーデル家の馬車と良く似てはいるが違う・・・が、明らかに意識されているのは間違いのないデザインだ。

そして降りてくる漆黒に身を包んだキアラ。当然目立つ。誰もが二度見、三度見する。
キアラはこうして目立つために、あえて大した用がなくても自ら出かけるようにしていた。
ルーベルト家のキアラはルーデルを意識してる、まずはその程度の認識で良い・・・彼女がショウのことを忘れていないと、あくまで自分はショウのものと周知させるためにやっていた。


「わざわざルーデル仕様に身を包むとは・・・ルーベルト嬢は・・・ルーデル家と自分から距離を取ったんじゃなかったのか？」


「俺もそうだと噂で聞いたが・・・まさか違ったのか？」


「そうだとして、わざわざルーデル家のシンボルカラーを真似するか？意味がわからん・・・」


「あぁ、そうだとしたら正直ちょっとヒくな・・・」


「まさかあのような人だったとは・・・」


ただ、世間は少しだけキアラが思っていたのとは違う方向で受け止めていた。
しかし、キアラがラルスと組んでショウに冤罪をかけたという噂については、少しばかり人によって捉え方が変わっていた。