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危機は去った

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「俺がいなくてもちゃんと仕事できるかどうか気になって様子を見ていたが、まさか全滅させられるとはな」


頭と思われる男は、転がっている自分の仲間たちの死体に目をやって溜め息をついた。その瞳に映るのは憐憫の感情ではなく、ただただ呆れの色のみであった。

先ほどまで相手をしていた山賊達より少し歳をとっているが、眼光は鋭く、肉体も鍛え上げられており、漂う気配も段違いに強さを意識をさせられるものであった。

ーーー強い。

オミトは一瞬で目の前に現れた山賊の頭が強い男であることを確信する。
先ほどまでは山賊の頭数にこそ脅威を感じていたが、今は純粋に目の前にいるただ一人の男の強さに恐れを抱いていた。


(全盛期の自分なら勝てるだろう。だが、今の自分ではキツイかもしれないな)


オミトの呼吸は戻っていない。しかし、呼吸が戻ったところでオミトの息が続く一分以内で片を付けられる相手かどうかは不鮮明なところであった。
馬車の用心棒はかなりできるほうだということはオミトもわかっていたが、どうやら彼に賭けるしかなさそうだと息を切らしながらオミトは考えた。しかしーー


「もういい。片付けろ」


頭がそう言うと、岩陰や木陰から二人の山賊が飛び出した。


(まだいたのかーー!)


頭一人でも微妙なところであるのに、更に二人の増援が出たことでオミトは一気に焦り出す。
しかも後から出てきた山賊は、身のこなしからしても先ほど倒した山賊より腕が立つだろうことを察してしまった。
状況は絶望的だ。せめて自分の体が動いていたらーー


(頼む、頼む動いてくれーー!)


オミトは息切れで動かない自分の体を呪う。腕が立つだのイケおじだのライラに言われていい気になっていた自分が情けないと思う。結局人並みに戦うこともできないポンコツではないか!


だがそんなときだった。

増援の二人の山賊のうち、一人が一瞬にしてボウッと火だるまになったのである。


「!?」


オミトがハッとして目をやると、ライラが魔法を使ったことがわかった。完全に意識外だったところからの攻撃魔法に、山賊はもろに攻撃火炎魔法を身に受けて絶命した。
これに山賊達も驚愕しているようだが、その隙を用心棒は見逃すことなくついて一気に斬りかかる。


「がっ!」


山賊は素早く反応を見せたが、それでも受けきるまでには至らなかった。タッチの差で用心棒の剣は山賊の胴を切り裂いたのだ。
そのまま用心棒は山賊の頭にも斬りかかろうとするが、流石にそこまではすんなりいかなかった。


ガキン


用心棒と頭の剣がぶつかった。


「やるじゃねえか。正直ここまでとは思わなかったぜ」


一瞬の気の緩みが絶命に繋がる鍔迫り合いだが、用心棒の剣を受けた頭はどこか余裕のある態度だ。


(自分が加勢出来れば・・・!)


オミトは焦るが、気ばかり焦っても体は動いてはくれそうになかった。


「・・・・・・」


ライラは次の魔法の詠唱に入っているようだが、その魔法の発動までの数秒の間に決着がついた。


「ぬっ!?」


鍔迫り合いをしていた頭の体が一瞬にして用心棒の体を軸にぐるんと左に回った。用心棒が頭の重心を崩したのである。


ドシャッ


ついには頭の体はなすすべもなく地面に転がされる。素早く体勢を立て直そうとした頭だが、立て直すより先に用心棒の剣が彼の体に突き刺さっていた。


「あがっ!」


致命傷に声を上げる頭。
更に追い打ちで用心棒の剣が彼の体に突き立てられ、頭は反撃することなく絶命した。


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