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暗愚な王は敵より怖い
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ランドールの隣国、マイク帝国の宰相ヒムルは帝国城の一室で配下の報告を受けていた。
「ほぉ、それではここ三か月以上・・・ただの一度もランドールにおいてドラゴンの姿を見た者はいないと?」
ヒムルはその報告を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべながら、手元のグラスに入ったワインに口をつける。
「王都はもちろんのこと、ルーデル領であるルード地方に巡らせた密偵からも目撃の知らせはありません」
ヒムルの前で跪く男はマイク帝国の諜報組織の者だった。
彼らは何十年にも渡りランドールのみならず周辺各国に正体を隠して潜み、祖国である帝国へ情報を流していた。帝国はこうして周辺各国の情報をリアルタイムで掴みその動向を探っている。
ここ最近のヒムルの感心はランドールにあった。
「やはりランドールが追放したショウ・ルーデルこそが、唯一の竜騎士だったと言うわけか。ルーデルの後を継いだ長男には素質はなかったようだな」
かつてランドールへの侵攻を考えていたヒムルは、ドラゴンに乗って建国記念式典に登場してきたショウを見て腰を抜かした。
ドラゴンは千の騎士すらも数分立たずに焼き殺してしまうほどの力を持つと言われている。そんなドラゴンを駆る男が次期辺境伯であるというのだから、ヒムルは少なくとも自分が生きている間はランドールへの侵攻は絶望的であると考え、侵攻計画を白紙にした。
しかし数か月前に信じられない情報がヒムルの耳に飛び込んだ。
ランドールの王太子であるラルスが、国防の要と言えるショウ・ルーデルを私怨で追放したというのである。
『まさか。誤報にも程があるだろう。今一度確認しろ』
我が耳を疑ったヒムルは報告を受けた当時、流石に誤報だと思い念入りに裏取りをした。だが事実だとわかると、まず喜びより先に呆れの感情が勝った。
『王太子は優秀という話ではなかったのか?まさかここまで愚かなことをするとは・・・国王バレスもそれを承知したのか?信じられん・・・ 聡いダリスが外遊中でなければ間違いなく止められたであろうがな』
ショウの追放は誰から見ても愚かな行為だった。竜騎士がいるからこそランドールは一等国ではないにも関わらず、大国からの侵略を受けずにいられたのだ。
だが、その強大な傘をランドールは自ら手放した。
竜騎士についての伝説は国によって伝わり方が様々だが、帝国はその情報力を駆使し、どの国よりも正確に竜騎士についての詳細を把握していた。
それによると竜騎士の素質は血によって覚醒したり継承したりすることはない、とされている。ルーデルの血ならばドラゴンを飼いならせるという保証はないのだ。
ランドール王室は・・・いや、恐らくルーデル現当主自身もそれを知らない。ショウを追放してもルーデルの血筋があれば代わりは務まる・・・そういった早合点をしている可能性が高い。
「だからあっさりとショウ・ルーデルを手放した。正気の沙汰ではないな」
これが自国だったなら、追放に関わった者全てを処刑にしても足りないほどの大惨事だとヒムルは思う。何しろそれが発端となり、国を失うことになるのだからーーー
「ランドールでは現国王バレスと王太子ラルスが上王ダリスの怒りを買い、失脚の可能性があるという。それだけでなくハルトマン辺境伯家が王室に対し敵対する姿勢を見せ、ルーデルは新当主と騎士団の溝が埋まらず対立している。マルセイユ辺境伯家は内戦状態も同然ときている。これはまさに好機であろう」
ヒムルはニヤリと笑い、ワインを飲み干した。
「ランドールを無傷で頂くチャンスかもしれんな。引き続き探り続けろ」
隣国マイク帝国は、ランドールを蹂躙しようと密かに動き始めていた。
「ほぉ、それではここ三か月以上・・・ただの一度もランドールにおいてドラゴンの姿を見た者はいないと?」
ヒムルはその報告を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべながら、手元のグラスに入ったワインに口をつける。
「王都はもちろんのこと、ルーデル領であるルード地方に巡らせた密偵からも目撃の知らせはありません」
ヒムルの前で跪く男はマイク帝国の諜報組織の者だった。
彼らは何十年にも渡りランドールのみならず周辺各国に正体を隠して潜み、祖国である帝国へ情報を流していた。帝国はこうして周辺各国の情報をリアルタイムで掴みその動向を探っている。
ここ最近のヒムルの感心はランドールにあった。
「やはりランドールが追放したショウ・ルーデルこそが、唯一の竜騎士だったと言うわけか。ルーデルの後を継いだ長男には素質はなかったようだな」
かつてランドールへの侵攻を考えていたヒムルは、ドラゴンに乗って建国記念式典に登場してきたショウを見て腰を抜かした。
ドラゴンは千の騎士すらも数分立たずに焼き殺してしまうほどの力を持つと言われている。そんなドラゴンを駆る男が次期辺境伯であるというのだから、ヒムルは少なくとも自分が生きている間はランドールへの侵攻は絶望的であると考え、侵攻計画を白紙にした。
しかし数か月前に信じられない情報がヒムルの耳に飛び込んだ。
ランドールの王太子であるラルスが、国防の要と言えるショウ・ルーデルを私怨で追放したというのである。
『まさか。誤報にも程があるだろう。今一度確認しろ』
我が耳を疑ったヒムルは報告を受けた当時、流石に誤報だと思い念入りに裏取りをした。だが事実だとわかると、まず喜びより先に呆れの感情が勝った。
『王太子は優秀という話ではなかったのか?まさかここまで愚かなことをするとは・・・国王バレスもそれを承知したのか?信じられん・・・ 聡いダリスが外遊中でなければ間違いなく止められたであろうがな』
ショウの追放は誰から見ても愚かな行為だった。竜騎士がいるからこそランドールは一等国ではないにも関わらず、大国からの侵略を受けずにいられたのだ。
だが、その強大な傘をランドールは自ら手放した。
竜騎士についての伝説は国によって伝わり方が様々だが、帝国はその情報力を駆使し、どの国よりも正確に竜騎士についての詳細を把握していた。
それによると竜騎士の素質は血によって覚醒したり継承したりすることはない、とされている。ルーデルの血ならばドラゴンを飼いならせるという保証はないのだ。
ランドール王室は・・・いや、恐らくルーデル現当主自身もそれを知らない。ショウを追放してもルーデルの血筋があれば代わりは務まる・・・そういった早合点をしている可能性が高い。
「だからあっさりとショウ・ルーデルを手放した。正気の沙汰ではないな」
これが自国だったなら、追放に関わった者全てを処刑にしても足りないほどの大惨事だとヒムルは思う。何しろそれが発端となり、国を失うことになるのだからーーー
「ランドールでは現国王バレスと王太子ラルスが上王ダリスの怒りを買い、失脚の可能性があるという。それだけでなくハルトマン辺境伯家が王室に対し敵対する姿勢を見せ、ルーデルは新当主と騎士団の溝が埋まらず対立している。マルセイユ辺境伯家は内戦状態も同然ときている。これはまさに好機であろう」
ヒムルはニヤリと笑い、ワインを飲み干した。
「ランドールを無傷で頂くチャンスかもしれんな。引き続き探り続けろ」
隣国マイク帝国は、ランドールを蹂躙しようと密かに動き始めていた。
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