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未練の別れ

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俺とアミルカは宿の入り口で向かい合っていた。
『さよなら』の時間だ。

俺達は部屋で口づけをしたが、結局そこから先に行くことはしなかった。


「これ以上は貰えないよ」


満足そうに笑ってそう言ったアミルカの顔を思い出す。
俺はそんな彼女の言葉に対して「そうか」と返すきりで気の利いた返答の一つも出来なかった。こうして本当に別れの時になった今、その事が未練となって心を渦巻く。それでも、俺はただ黙ったきりで何も言ってやることが出来なかった。


「ありがとう。楽しかった」


アミルカは何度も何度も「ありがとう」と言う。
ローザ達が言っていたように、俺が少なからず彼女の心を救ったところがあるんだろう。


「こっちこそ楽しかった」


本当に自分が情けなくなるが、この程度の事しか俺は言ってやれない。もっとスラスラと言葉が出てきたらいいのに。


「私、このことを、ショウのことを絶対に忘れない。本当に、ありがとう・・・」


アミルカは俯きながら、さっき俺がつけてやったペンダントを握り締め、涙声で途切れ途切れで言った。
本当にこのまま返していいのか、俺の中で焦燥感が巻き起こる。このまま手を取って、人目もはばからずまた抱きしめてやりたい・・・そんな欲求が芽生える。


「俺だって忘れねぇよ・・・」


だが、俺はそれだけ口にするだけで、体を動かすことはなかった。
今何をしたところで、別れの寂しさが大きくなるとわかっていたからだ。そしてその寂しさを迎えるだけの勇気が俺にはなかった。


「・・・じゃあ、さよなら」



「・・・ぁ」




まるで不意打ちのようにそう言って、アミルカは踵を返し、全力で走って街の闇の中に消えていった。呼び止めるような間もなく、まさしく「あ」っと言う間だった。


「・・・!」


一瞬で、さっきまで迷って燻っていた未練が湧いて出た。これで終わりにしたくない。後で反動でどれだけ寂しい思いをしたとしても、あともう少し一緒に居たい。
そんな今更ながらやってきた馬鹿みたいな、子供じみた、身勝手な未練が俺を駆り立てる。
アミルカの去った方向へ、俺も駆けだした・・・瞬間のことだった。


「時間切れだ」


そんな声とともに、俺の体が突然静止した。
正確には、誰かの手によって駆けようとしていた俺の体動けなくされていた。俺のそれよりも太い腕が、首元に回されていたのである。


「ドレッド・・・」


見ると、俺の動きを止めていたのはドレッドだった。


「アミルカは決心して幕引きをした。もう仕舞ったことをショウが掘り起こすな。また彼女を苦しめるだけだ」


「・・・あぁ」


「未練を感じるくらいなら、勿体ぶってないでやりたいことを済ませておけば良かったんだ」


「・・・あぁ」


ドレッドの非難を受け、俺は生返事をすることしか出来なかった。
最後の最後で未練たらしくするとは、俺は馬鹿だ。


「だがまぁ、気の利いた贈り物がアミルカの心の支えになってくれそうなする。それについては礼を言う」


最後にそう言ってドレッドは俺を解放する。
そして彼はアミルカの去っていった方へ歩いていく。


「さらばだ」


こちらを見ずに右手だけヒラヒラさせてドレッドの姿は闇に消えた。


これがアミルカ達との別れだった。
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