150 / 470
上王ダリス
しおりを挟む
ランドール国の王、バレスは憂鬱な表情で馬車の中で揺られていた。
対して対面に座るバレスの息子、ランドールの第一王子ラルスはうきうきと楽しそうな表情を浮かべている。
二人が馬車で向かう先はダリスが居を構えている離宮である。
ダリスはバレスに譲位した後あえてこちらに居を移しており、特に用がないときなどはバレス達とは顔を合わせることもない。
あくまで自分は王位の譲位を済ませた存在であり、表舞台には顔を出さないというダリスの意思表示であった。
だから滅多なことではダリスがバレスを呼び出すということはない。
だが、まさかのその呼び出しがなされたのだ。
ダリスは帰国し王都に戻るや否や、バレスとラルスを呼び出したのである。
まさかの滅多にないことが起きてしまった。外遊からの急な帰国。そして帰国してからの急な呼び出し。父上は相当にお怒りなのではないかとバレスは戦々恐々としていた。
一方でラルスはそんなバレスの心労などまるで知らず、笑みさえ浮かべ楽観的であった。
バレスにとってダリスは畏怖の対象であるが、ラルスからするとそうではない。
祖父であるダリスは、ラルスに対し昔から常に笑顔を絶やさず優しく接していた。バレスはラルスに対し、ダリスに対し決して不敬はするなと、一切の口答えもならぬと口を酸っぱくして言いつけていたが、ラルスはダリスが優秀な孫である自分にはなんだかんだで甘いだろうと考えていた。
父バレスとともに自分まで呼ばれた理由についてはまだわからないが、何か叱責を受けるにしても恐らく二2、3の小言で済むであろうし、逆にこちらとしても良い機会なのでダリスに伺いを立てたいこともある。実に好都合だと考えていた。
このようにバレスとラルスは同じ馬車で揺られながらも、表情の暗いバレス、明るいラルスとお互いの心中はまさかに正反対のようであった。
バレスからすると永遠にも続くような時間を経て、馬車は離宮に辿り着いた。
「やれやれ、ようやく到着しましたか。どうしてお爺様はこうも王宮から離れたところにお住まいなのでしょう?」
「上王陛下だ。口に気を付けろ。それから余計なことをしゃべるな」
馬車から降りて話かけてきたラルスに、バレスはそうとだけ言った。
それからラルスが何を話してもバレスは返事をしなかった。会話をするだけの心の余裕が無かったのであった。
そして二人は謁見の間に通された。
離宮の装飾品も騎士の風格も、王宮のそれよりも上であるようにラルスには見えた。
これが今だにランドール国にて国王より強い影響力を持つ、上王であるダリスの力なのだと改めてラルスは感心する。
謁見の間にて久々に会うダリスを一目見て、思わず「お爺様」と声をかけそうになるが、真っ先に頭を垂れ跪くバレスを見て、ラルスは慌ててそれに倣った。
「表を上げよ」
言われて二人は顔を上げる。
そこにいたダリスは昔と変わらず、優しそうな笑みを浮かべていた。
「長らく留守にしていたが、変わりはないか?・・・なんてな、私がいない間・・・随分とこの国ではいろいろあったようだな」
ニコニコと笑顔のままそう話すダリスに、バレスは震えと冷や汗が止まらなかった。
対して対面に座るバレスの息子、ランドールの第一王子ラルスはうきうきと楽しそうな表情を浮かべている。
二人が馬車で向かう先はダリスが居を構えている離宮である。
ダリスはバレスに譲位した後あえてこちらに居を移しており、特に用がないときなどはバレス達とは顔を合わせることもない。
あくまで自分は王位の譲位を済ませた存在であり、表舞台には顔を出さないというダリスの意思表示であった。
だから滅多なことではダリスがバレスを呼び出すということはない。
だが、まさかのその呼び出しがなされたのだ。
ダリスは帰国し王都に戻るや否や、バレスとラルスを呼び出したのである。
まさかの滅多にないことが起きてしまった。外遊からの急な帰国。そして帰国してからの急な呼び出し。父上は相当にお怒りなのではないかとバレスは戦々恐々としていた。
一方でラルスはそんなバレスの心労などまるで知らず、笑みさえ浮かべ楽観的であった。
バレスにとってダリスは畏怖の対象であるが、ラルスからするとそうではない。
祖父であるダリスは、ラルスに対し昔から常に笑顔を絶やさず優しく接していた。バレスはラルスに対し、ダリスに対し決して不敬はするなと、一切の口答えもならぬと口を酸っぱくして言いつけていたが、ラルスはダリスが優秀な孫である自分にはなんだかんだで甘いだろうと考えていた。
父バレスとともに自分まで呼ばれた理由についてはまだわからないが、何か叱責を受けるにしても恐らく二2、3の小言で済むであろうし、逆にこちらとしても良い機会なのでダリスに伺いを立てたいこともある。実に好都合だと考えていた。
このようにバレスとラルスは同じ馬車で揺られながらも、表情の暗いバレス、明るいラルスとお互いの心中はまさかに正反対のようであった。
バレスからすると永遠にも続くような時間を経て、馬車は離宮に辿り着いた。
「やれやれ、ようやく到着しましたか。どうしてお爺様はこうも王宮から離れたところにお住まいなのでしょう?」
「上王陛下だ。口に気を付けろ。それから余計なことをしゃべるな」
馬車から降りて話かけてきたラルスに、バレスはそうとだけ言った。
それからラルスが何を話してもバレスは返事をしなかった。会話をするだけの心の余裕が無かったのであった。
そして二人は謁見の間に通された。
離宮の装飾品も騎士の風格も、王宮のそれよりも上であるようにラルスには見えた。
これが今だにランドール国にて国王より強い影響力を持つ、上王であるダリスの力なのだと改めてラルスは感心する。
謁見の間にて久々に会うダリスを一目見て、思わず「お爺様」と声をかけそうになるが、真っ先に頭を垂れ跪くバレスを見て、ラルスは慌ててそれに倣った。
「表を上げよ」
言われて二人は顔を上げる。
そこにいたダリスは昔と変わらず、優しそうな笑みを浮かべていた。
「長らく留守にしていたが、変わりはないか?・・・なんてな、私がいない間・・・随分とこの国ではいろいろあったようだな」
ニコニコと笑顔のままそう話すダリスに、バレスは震えと冷や汗が止まらなかった。
10
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する
はにわ
ファンタジー
主人公ゴウキは幼馴染である女勇者クレアのパーティーに属する前衛の拳闘士である。
スラムで育ち喧嘩に明け暮れていたゴウキに声をかけ、特待生として学校に通わせてくれたクレアに恩を感じ、ゴウキは苛烈な戦闘塗れの勇者パーティーに加入して日々活躍していた。
だがクレアは人の良い両親に育てられた人間を疑うことを知らずに育った脳内お花畑の女の子。
そんな彼女のパーティーにはエリート神官で腹黒のリフト、クレアと同じくゴウキと幼馴染の聖女ミリアと、剣聖マリスというリーダーと気持ちを同じくするお人よしの聖人ばかりが揃う。
勇者パーティーの聖人達は普段の立ち振る舞いもさることながら、戦いにおいても「美しい」と言わしめるスマートな戦いぶりに周囲は彼らを国の誇りだと称える。
そんなパーティーでゴウキ一人だけ・・・人を疑い、荒っぽい言動、額にある大きな古傷、『拳鬼』と呼ばれるほどの荒々しく泥臭い戦闘スタイル・・・そんな異色な彼が浮いていた。
周囲からも『清』の中の『濁』だと彼のパーティー在籍を疑問視する声も多い。
素直過ぎる勇者パーティーの面々にゴウキは捻くれ者とカテゴライズされ、パーティーと意見を違えることが多く、衝突を繰り返すが常となっていた。
しかしゴウキはゴウキなりに救世の道を歩めることに誇りを持っており、パーティーを離れようとは思っていなかった。
そんなある日、ゴウキは勇者パーティーをいつの間にか追放処分とされていた。失意の底に沈むゴウキだったが、『濁』なる存在と認知されていると思っていたはずの彼には思いの外人望があることに気付く。
『濁』の存在である自分にも『濁』なりの救世の道があることに気付き、ゴウキは勇者パーティーと決別して己の道を歩み始めるが、流れに流れいつの間にか『マフィア』を率いるようになってしまい、立場の違いから勇者と争うように・・・
一方、人を疑うことのないクレア達は防波堤となっていたゴウキがいなくなったことで、悪意ある者達の食い物にされ弱体化しつつあった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる