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上王ダリス

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ランドール国の王、バレスは憂鬱な表情で馬車の中で揺られていた。
対して対面に座るバレスの息子、ランドールの第一王子ラルスはうきうきと楽しそうな表情を浮かべている。

二人が馬車で向かう先はダリスが居を構えている離宮である。
ダリスはバレスに譲位した後あえてこちらに居を移しており、特に用がないときなどはバレス達とは顔を合わせることもない。
あくまで自分は王位の譲位を済ませた存在であり、表舞台には顔を出さないというダリスの意思表示であった。

だからダリスがバレスを呼び出すということはない。
だが、まさかのその呼び出しがなされたのだ。
ダリスは帰国し王都に戻るや否や、バレスとラルスを呼び出したのである。

まさかのが起きてしまった。外遊からの急な帰国。そして帰国してからの急な呼び出し。父上は相当にお怒りなのではないかとバレスは戦々恐々としていた。

一方でラルスはそんなバレスの心労などまるで知らず、笑みさえ浮かべ楽観的であった。
バレスにとってダリスは畏怖の対象であるが、ラルスからするとそうではない。
祖父であるダリスは、ラルスに対し昔から常に笑顔を絶やさず優しく接していた。バレスはラルスに対し、ダリスに対し決して不敬はするなと、一切の口答えもならぬと口を酸っぱくして言いつけていたが、ラルスはダリスが優秀な孫である自分にはなんだかんだで甘いだろうと考えていた。

父バレスとともに自分まで呼ばれた理由についてはまだわからないが、何か叱責を受けるにしても恐らく二2、3の小言で済むであろうし、逆にこちらとしても良い機会なのでダリスに伺いを立てたいこともある。実に好都合だと考えていた。

このようにバレスとラルスは同じ馬車で揺られながらも、表情の暗いバレス、明るいラルスとお互いの心中はまさかに正反対のようであった。

バレスからすると永遠にも続くような時間を経て、馬車は離宮に辿り着いた。


「やれやれ、ようやく到着しましたか。どうしてお爺様はこうも王宮から離れたところにお住まいなのでしょう?」

「上王陛下だ。口に気を付けろ。それから余計なことをしゃべるな」


馬車から降りて話かけてきたラルスに、バレスはそうとだけ言った。
それからラルスが何を話してもバレスは返事をしなかった。会話をするだけの心の余裕が無かったのであった。


そして二人は謁見の間に通された。
離宮の装飾品も騎士の風格も、王宮のそれよりも上であるようにラルスには見えた。
これが今だにランドール国にて国王より強い影響力を持つ、上王であるダリスの力なのだと改めてラルスは感心する。

謁見の間にて久々に会うダリスを一目見て、思わず「お爺様」と声をかけそうになるが、真っ先に頭を垂れ跪くバレスを見て、ラルスは慌ててそれに倣った。


「表を上げよ」


言われて二人は顔を上げる。
そこにいたダリスは昔と変わらず、優しそうな笑みを浮かべていた。


「長らく留守にしていたが、変わりはないか?・・・なんてな、私がいない間・・・随分とこの国ではいろいろあったようだな」


ニコニコと笑顔のままそう話すダリスに、バレスは震えと冷や汗が止まらなかった。
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